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第96話 表彰式

 時間は飛ぶように流れ、最後の団体の演目が終了した。


「――ただいまを持ちまして、全団体のステージが終了しました! 十分間の休憩を挟み、表彰に入ります! しばらくお待ちください!」


 司会者の声が会場内に響くと同時に、観客席が騒がしくなった。


「さすがモモちゃん、すげー可愛かったぜ」

「ああ、別格だったな!」

「他の子達も可愛かったけど、ラストのインパクトが強すぎたなぁ」


 耳を澄ませた感じ、皆口々に花ヶ咲さんを絶賛しているみたいだ。


「やはり、強敵ですね」

「はい」


 ふと呟いた芹さんに、頷いて返す。


「でも……ここまで来たんです。負けるつもりはありません」


 芹さんは萎縮してしまっているのではないかと心配したが、それは杞憂だったようだ。

 どうやら、強敵と競い、自分の居場所を見つけた彼女は、一皮むけたらしい。

 目にはしっかりと、頂点を狙う光が灯っていた。

 これならば、たとえどんな結果になろうとも、折れてしまうことはないだろう。そんな風に思わされた。


 それに――


「でも、俺はあの子がよかったかもな」

「ああ、今話題のあの子だろ。話題性だけかと思ったが、なかなかどうして魂に響く――」


 俺は、花ヶ咲さんを讃える言葉に紛れ、そのような発言がちらほら聞こえてくるのを聞き逃さなかった。


「さあ、俺達も舞台袖へ移動しますよう」

「そうですね」


 出演者は、表彰式では舞台袖で待機しなければならない。

 ほどよく心地良い緊張を胸に、俺達は席を立った。


――。


「――それでは、ただいまより表彰式を始めます!」


 十分間の休憩が終わり、ついに表彰式が始まった。


「今回ステージを彩った二十二団体のうち、準優勝と優勝の二団体を発表させていただきます! 今年はレベルの高いアイドル達が集まり、非常に熱い接戦となりました。そんな中で、栄えある永劫を勝ち取ったアイドルを発表したいと思います! まず、準優勝の団体は――SUTEKI・プロダクション所属のコハル&アズキさんです!」

「「「「「わぁあああああああああああ!!」」」」」


 歓声が上がる。

 舞台袖で隣に並んでいたコハルさんとアズキさんが、互いに手を取り合って喜びを分かち合いながら舞台に上がっていった。


 これで、残された枠はあと一つ。

 ここで優勝できれば、俺達は花ヶ咲さんから出された挑戦に勝ったこととなる。


 小柄な2人が銀メダルを受け取り、涙を拭う姿を暗い舞台袖から眺めている時間が、やけにもどかしかった。


「それでは、栄えある優勝団体の発表です! この夏、どの団体よりも輝き、笑顔と勇喜を振りまいていた、その団体は――」


 会場に、ドラムロールの音が響き渡る。

 そして――そのときは、やってきた。


「栄えある優勝団体は、SAKURA・プロダクション所属、花ヶ咲モモさんです!!」

「「「「「きゃぁああああああああああああ!!!!」」」」」


 怒号のような拍手と歓声が吹き荒れる。

 その喝采の中、花ヶ咲さんが無言で歩みを進めた。

 暗い舞台袖から、華やかな世界の方へと。


「暁斗さん」

「……どうしました?」


 不意に話しかけてきた芹さんに、俺はぎこちなく問い返す。


「私、これでも後悔はないんです」

「…………」

「……今、すごくワクワクしてます。どんな結果になっても、たぶんこの日のことは一生忘れない。勝ち負けとか関係なく、私は全力で楽しんで、見てくれてる人達に笑顔を届けられた。そう確信しています」

「そうですか」


 どう返事をすればいいのかわからなくて、俺は曖昧に答えてしまう。

 気安い慰めなどできるはずもない。

 彼女は、間違い無く本気だった。だから、悔しいのだ。俺も、芹さんも。


 数字で結果を出さなくても、本人が満足ならそれでいい。

 それはある意味半分正解で、半分不正解だ。

 「ベストを尽くした」「ここまでできれば大したものだ」「今回は相手が悪かった」。

 みんなそうして、満足のいかない結果に無理矢理意味を見出そうとする。

 

 努力した自分を褒めたいから。悔しさに蓋をしたいから。

 それでも、結局のところそんな言葉で自分を偽ることはできない。


 だから、今必死に納得しようとしている芹さんは一言も言わないのだ。

「悔しい」と。それを言ってしまった瞬間、この場で泣き崩れてしまうことを知っているから――


「――あー、受賞者は以上の二団体……《《だったのですが》》、一つここで重大な発表があります」


 そのとき、司会者が意味深な発言をした。

 この場にいる誰もが幕引きだと思っていたがゆえに、会場中がざわめきで包まれる。

 そして、司会者の口から放たれた言葉は、驚くべきものだった。

 


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