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第94話 自覚する気持ち

 PM 6:20


「さあ、小休憩を挟みまして次のアイドルは、プログラム7番。AISURU・プロダクション所属のNA☆ZU☆NAさんでーす!」


 テンションMAXの女性司会者の声が、会場中に響き渡る。

 それと同時に、観客席から拍手が巻き起こった。


「今超絶HOTなダンジョン攻略系アイドルであるナズナさんが、本日、満を持してのSIS参加だZE! みんな、全力で応援しろYO!」


 DJみたいなノリだな。

 

 ドラムセットのイスに座りながら、俺はそんなことを思った。

 たぶん、司会者なりの配慮なのだろう。

 ファン達を盛り上げると共に、明るく力強い声で、俺達出演者が緊張しすぎて固まらないように気を配ってくれているのだ――


「そうそう! 情報によるとナズナさんとセットで話題沸騰中のワイバーン一撃マンさんが本日ドラマーとして飛び入り参加だZE! FUUUUU!!」

「ん゛!?」


 ぼんやり考え事をしていた俺は、いきなり自分に話題が振られて目を見開いた。

 さっきまで芹さんに当たっていたスポットライトが、今度は俺に当たる。


 いやいやいやいや、FUUUUU!! じゃねぇわ!

 なに、俺も紹介されんの!? プレッシャーが凄いんですけど!?

 前言撤回だ。たぶん、この司会者さんはそのときのノリで生きている。うん、間違い無い。


 そんな感じで心臓バックバクだったが……カッと照明の色が変わる。

 その瞬間、ステージの空気感が変わった。

 観客の声援はそのままに、何かのボルテージが一段階上がったのだ。


 アイドルのステージを見るのも、演者側に立つのも、これが初めてだが、直感で理解できた。

 もう、始まっているのだと。


 俺は、深呼吸を一つして、スティックを持ち直す。

 それから、ベース担当の望月さんに目で合図を送った。


 そして――演奏が始まる。

 まずはドラムとベースによる軽快な滑り出しから、間髪入れずにエレキベースの音が重なってくる。


 前奏。それだけでボルテージが際限なく上がり、ステージの方から放たれる眼差しに、熱を帯びたような感覚に陥る。

 しかし、ここでそれに身を委ねてはいけない。


 俺はドラマー。

 音楽における、テンポ管理の心臓部ペースメイカー

 焦ってテンポを崩してはいけないのだ。

 そして――前奏が終わる。


 芹さんは、全員からの期待と明るいスポットライトの明かりを全て受け止め、微塵も震えを見せずに歌い出した。


 ――月明かりのように優しくも、力強い声。

 彼女の放つ美声が、俺達の奏でる音色に乗り、ステージを席巻していく。

 

 観客のボルテージは最高潮。

 空調なんて最早意味を成さないとばかりに、夏の夜の熱気が駆け抜ける。

 

 汗が頬を伝うが、そんなものは気にならない。

 今、俺達は世界の中心にいる。

 芹さんの配信のお陰で、俺は有名になった。だから、今までもこういう視線はあったのだろう。


 だけど、今回は正真正銘、全員の視線がこちらへ向いているのがわかる。

 その重圧と高揚感。それを受けながら、ステージ上で輝く芹さん。


 今、俺は彼女と同じ場所に立っている。

 汗の珠を散らせ、力強く進んでいく彼女と同じ場所に。


 そのとき、俺は腑に落ちるものがあった。

 我が儘で、ときおりウザくて、でも自分の夢にまっすぐな人。

 過去に縛られ、うじうじしていた俺なんかより、ずっと先のステージで輝きながら、苦悩して、それでも前へ進み続ける人。


 頭が、熱に浮かされていたからだろうか。

 どこか、ふわふわとした気持ちのまま、俺ははっきりと思った。


 ああ。

 俺は……芹さんのことが、好きなんだ。


 ――いつの間にか、最後のフレーズが終わっていた。

 あっという間の演奏時間。

 しかし、力強くフィニッシュをきった後に、洪水のような拍手と歓声が沸いた。

 その心地良い疲労感と達成感の中、自覚した気持ちと共に、SISでのステージは大成功を遂げた。


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