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第73話 コハルとアズキ

 パーティーが始まったのだが、いかんせん俺はただのボランティア。

 始まった瞬間することがなくなって、1人現実に置き去りにされた。


 芹さんの横に、使用人みたいな感じで立ってようかな……とも一瞬思ったが、「ストーカーみたいでいやだ」と言われたらたぶん立ち直れないので、やめておいた。


 ちなみにその芹さんは、他の事務所の方やアイドルに挨拶して回っている。

 

「大変だな。もう大人の世界に入って、頑張ってるんだ」


 遠巻きに眺めながら、俺はぼそりと呟いた。

 自分と同い年なのに、なんだかずっと先の世界を歩いているみたいだ。

 尊敬すると同時に、ようやく前へ歩み始めたばかりの自分が情けなくなってきた。


 とりあえず、することないし料理をいただくか。

 

 今宵のパーティーではビュッフェ形式を採用しているらしく、使い捨ての紙皿に好きな料理をとって食べるかたちをとっている。


「えぇと……何があるのかな」


 こういうのは昔家族と泊まったホテルの朝食以来だ。

 ワクワクしながらメニューを選んでいく。


「ブッフ・ブルギニョン……地鶏のコンフィ……いやダメだ。カタカナばっかでわからん」


 見た感じ、フランス料理をビュッフェ用に一口サイズで仕上げているっぽいけど。


 ブッフ・ブルギニョンとか初めて聞いたぞ。

 まあでも、美味しそうだしとっておこ。


 そんな感じでメニュー選びを楽しんだあと、1人寂しく食事を頬張る。 

 

 うん、旨い。

 なんか海外のセレブになった気分だ。

 これでワイン片手に黄昏れてたら、カッコいいかもな。ま、未成年だから飲むのはオレンジジュースだけど。


「あ、あの……すいません」


 皿に盛った料理を食べ終え、おかわりしょうか悩んでいると、不意に背中から声をかけられた。


 振り返った俺の前にいたのは、2人組の美少女だった。

 芹さんよりも一つか二つ年下だろうか? パーティー用のペアドレスに身を包み、控えめのおめかしをしている。


 思わずドキッとしてしまう仕草を自然にやっていることからして、彼女達がアイドルであることはすぐにわかった。


「えっと……俺になにか用でしょうか?」

「急にすいません。何か用ってほどでもないのですが、どこの事務所の方なのか気になったもので……とりあえず、挨拶をしておこうかと。お兄さんは、どこの所属なんですか?」


 藍色の髪をツインテールにまとめた少女が、恐縮そうに聞いてきた。

 もう片方の、黒髪ショートの子は、何やら俺の顔をじっと見て考え込んでいる様子。


 それにしても、どこの事務所の人ですか、か。

 なんとも答えに詰まる質問をされてしまった。


「う~ん、なんて答えればいいんでしょうかね」


 俺は頭の後ろを掻きつつ、言葉を紡ぐ。


「一応……AISURU・プロダクション……ってことになってると思います。たぶん」

「AISURU・プロダクション……ああ、ナズナさんのいるところですね! 私はSUTEKI・ブロダクション所属のコハル。隣の子は同期のアズキです。以降お見知りおきを」

「どうも」


 藍色ツインテールの少女――コハルさんに紹介され、黒髪ショートのアズキさんは小さく頭を下げた。


「あれ、でもAISURU・プロダクションって、男性アイドルいましたっけ?」


 ふと、コハルさんが細顎に手を当てて考え込む仕草をする。

 男性アイドル? なんでここで男性アイドルの話が飛び出すんだ……って、もしかして。


「あの。失礼ですが、何か勘違いされてませんか?」

「と言いますと?」

「俺のこと、その……AISURU・プロダクション所属のアイドルだと勘違いしてないかなって思ったので」

「……え゛!?」


 不意にコハルさんが、どこから出しているのかわからない声で叫び、一歩後ずさる。

 それから、恐る恐る戸といった様子で「違うんですか?」と確認をとってきた。


 あー、やっぱ勘違いされてたか。

 三枝さんの冗談めいた台詞が、まさか現実になるなんて。


「違いますよ。俺はただの手伝いです」

「そ、そうなんですか。失礼しました! その……佇まいがすごくしっかりしていたので、勘違いしてしまって」


 コハルさんは、何度も頭を下げてくる。

 と、そのときだった。

 不意に、ずっと俺を見ていたアズキさんが「あー!」と声を上げた。


「どうしたのアズキ?」

「コハルちゃん、この人アレだよ。前ニュースで出た、Sランク冒険者だよ!」

「え……Sランク?」

「わからない? 髪型が変わってるから、ウチも今の今まで気付かなかったけど、どっかで見たことあるなって」


 興奮したようなアズキさんに感化されるようにして、コハルさんも俺の顔をまじまじと見つめてくる。

 そ、そんな至近距離で見つめられると、恥ずかしいんですが!?


「あー! ほんとだ! ワイバーン一撃マンさんだ!」

「でしょ! そういえばナズナちゃんとはダン・チューバーで関係で協力してるんでしたよね? 今回のもその一貫ですか?」

「まあ、そんな感じです」


 急にテンションが上がりだしたアズキさんに若干気圧されつつ、首肯する。


「あの、このあと良かったら、私達と一緒に少しおしゃべりしませんか? 私、あなたのファンで、お聞きしたいことがいっぱいあるんです」

「ウチもウチも!」


 コハルさんとアズキさんは、ずいっと身を乗り出してくる。

 なんだろう。現役アイドルに、「大ファン」と言われる一般男子高校生の図。ふつう逆じゃなかろうか。


 そんなことを考えつつ、暇だから「いいよ」と了承しようとした、そのときだった。

 ヒュオッと、背筋に冷たい風が吹いた気がした。


「こんなところにいたんですね。探しましたよ、暁斗さん」


 振り返ると、そこにはいつの間にか料理のお皿を片手に持った芹さんが立っていた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 間違い無く 目だけが 笑っていないね
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