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第54話 親友との時間

 そんなこんなで土日は過ぎていき、また月曜日がやって来た。

 日曜の夜には下宿先に戻っていたので、いつも通りの登校である……が。

 

 廊下を歩いているとやはり視線を感じる。

 人の噂も七十五日。土日を挟めば多少落ち着くかとも思ったのだが、そうでもなかった。


 いや。一週間前よりも驚いている表情の人達が多いな。なんでだ。

 そんなことを考えながら教室に入る――


「ちょっ!? 暁斗! おまっ――」


 教室に入った瞬間、楽人があんぐりと口を開けて俺を出迎えた。

 なんでお前までそんな表情をするんだよ。


「どうした。俺の顔に何かついてるのか?」

「何かついてるんじゃなくて、ついてたもんが無くなってんだろーが!」

「はい? どういうこと……?」

「前髪だよ前髪! お前髪切ったんだな」

「あー」


 そういやそうだったな。

 いや、別に忘れていたわけじゃないが、そこまで驚かれるとは思わなかった。

 もしかして、さっき俺を見ていた人達もそれで驚いていたのか。


「いや~、改めてみるとなかなか美形ですな。お前ほんとに、股間にあるべきもの付いてるか?」

「付いてるよ! ていうか、伸ばしてた髪切ったのに、まだ女性に見られるの……?」

「まあ、そうだな。文化祭でお姫様役ができるレベルだぜ。あ、ちなみに俺が王子様な!」

「それって、王子様のキスで眠り姫が目覚めるとかいう展開じゃないよな?」

「何言ってんだ? そういう展開に決まってんだろうが!」

「……俺、今本気でお前と少し距離置こうと思ったわ」


 なんかちょっと寒気がして、俺は一歩引き下がる。


「ジョークだぜジョーク。ビビんなよ暁斗~」


 楽人は笑いながら俺の背中を叩いてくる。

 こいつ、早く彼女作ってくれねぇかな。俺の平穏のために。

 俺はジト目で、楽人を睨みつけるのであった。


――。


「あ、そうだ暁斗。お前、バンドミュージックとか聞くか?」


 席に着いて教科書を整理していると、楽人がさっきよりも目をキラキラさせて聞いてきた。


「バンドミュージック? いいや、あんまり。ていうかそれ何?」

「こういうのだよこういうの!」


 楽人はイヤホンを片方俺の耳に突っ込んで、画面を見せながら動画を再生する。

 とたんに、激しい曲が流れてきた。あ、ちょっと好きかも……


「へへ。どうだ?」

「割と好きかも。カッコいい」

「そうだろ。いや~実はさ。俺最近、この「夜勤ウェーイ」ってバンドにハマってよ」


 どんなグループ名だよ。絶対深夜テンションで考えたろ、それ。


「いいよなぁ~。楽器弾けるってカッコいいよなぁ」

「そうだね」


 楽人の熱を帯びた声に首肯する。


 俺のコンプレックスの一つだが、誇れるものも趣味もない。

 あるとすれば弓の腕前が飛び抜けていることくらい。日本で数人しかいないSランク冒険者で最強の弓使いという肩書きで十分だと思われるかもしれない。


 ただ、俺の中で弓術は憂さ晴らしの果てに身につけた特技であって、誇れるものかと言われるとどうなんだろう。

 最近は、自分が弓使いである意味を追い求め、誰かを助けるために役立ててきたから、少しだけ胸を張れるようにはなった気がする。


 ただ、誇るならもっと自分の目指す弓使いを追い求めなければならないし、これは趣味でも無い。

 Sランクの銀バッジと同じ、俺の弓術の実力は負の遺産なのだ。


 だから、正直趣味の一つでも欲しいと思ってしまう。

 音楽のことはよくわかんないけど、できる人はカッコいい。

 校歌斉唱の時に代表でピアノ弾く人とか、凄いなと思うし。


 だからだろうか。

 いつの間にか、俺の目は映像の中で踊るように音を奏でる四人組の彼等に釘付けになっていた。


 音楽か……そういう趣味もいいよなぁ。

 俺は、久々に興奮で熱くなる胸を押さえて、そんなことを考えていた。


「俺も……なんか楽器練習してみようかな」


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