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第53話 後輩との初通話

 夕飯を食べ終えた俺は、後片付けを終えると自室に向かった。

 鞄の中から筆箱を取りだし、四つ折りにした紙を取り出す。

 それは、瀬良が渡してくれた電話番号だった。


「登録方法は……確かこんな感じだったかな」


 慣れない手つきで番号の登録を終えると、俺は試しに瀬良に電話を掛けてみようかなと思った。

 番号が間違ってないかの確認しておきたいし。


 俺は、登録したての瀬良の電話番号の横にある通話ボタンを押そうとして。


「……ん?」


 指を止めた。

 ちょっと待て。なんかめちゃくちゃ緊張するんだけど。

 今まで家族としか電話してこなかったし、厳密に言えば芹さんと電話したことはあるけども、あれは全部向こうからで、来るとしても業務連絡だけ。


 そもそも家の電話番号は半強制的に奪われるような形だったので、女子と電話番号を交換しちゃった。ど、どうしよう。などと悶える余裕もなかった。


 つまり……特に用事も無く、俺から女子に電話をかけるなんてことは、今までなかったのである。

 今日初めて、自分から女子に電話する。


「ま、まあいいよね。後輩だし」


 俺は無理矢理正当化し、思い切って通話ボタンを押した。

 スピーカーからコールが鳴る。

 10秒にも満たない時間の筈なのに、やけに長く感じた呼び出し時間の後、コールが止んだ。


『……も、もしもし。神田かんだです』


 硬い声色が、スマホの向こうから聞こえてくる。

 えらく他人行儀で、名字の神田を名乗っていて……あ、そうか。向こうからしたら俺は知らない人なのか。

 声は多少くぐもった瀬良のものだから、番号は間違ってないみたいだけど。


「もしもし。お、俺だけど。瀬良か?」


 って何言ってんだ俺! 非通知からの「俺だけど」って怪しすぎんだろ! オレオレ詐欺かよ!


『え……』


 ほらみろ! なんかちょっと戸惑ってる、というか引かれてる絶対!

 とにかく、名前を名乗らなければ。


「お、俺は――」

『もしかして、暁斗先輩……ですか?』


 名乗る前に気付いてくれた。優秀な後輩をもって良かったと、心から思う。


「う、うんそうだけど。よくわかったな」

『いえ。声とかしゃべり方とかで、なんとなくそうかなぁ~って。それより、電話をしてきたってことは……』

「あ、うん。スマホ買ったよ」

『そうなんですか。実は私も昨日Uフォーン10に機種変してきたんです。LIMEのアカウント移行とか、少し大変でしたけどね』


 いつもの瀬良のテンションで言う。


「そっか。じゃあ、おそろいだな」

『っ! そ、そうですね。う、嬉しいです』


 テンパったような瀬良の声。

 

「とりあえず、俺の電話番号、そっちでも登録しておいてくれ」

『わかりました。あの……いえ、なんでもありません』


 瀬良が何かを言いかけて、声を引っ込めてしまった。


「どうした? 言いたいことがあったら、なんでも言ってくれ」

『わかりました。その……もしLIMEのアカウント作ったら、交換しましょう』

「お、おう。わかった」

『それから、グループLIMEっていうのもあります。もし必要だったらですが、弓道部のグループLIMEも作りませんか?』

「いや、それはいらなくないか? だって、ほぼ幽霊部員だし……作っても俺と瀬良のグループだけになるぞ」

『そ、それは……そうかもですね』


 電話の向こうで瀬良が苦笑する雰囲気が伝わってくる。

 そのとき、電話の向こうから瀬良を呼ぶ女性の声が聞こえてきた。

 たぶん、瀬良のお母さんだな。


『はーい、今行く! ……すいません先輩、お母さんが呼んでるので』

「わかった。急に電話してごめんな」

『いえ。先輩とお話できて楽しかったです』

「そっか。また来週、学校で会おう」

『はい。それじゃあ、お休みなさい』

「お休み」


 そう言って、通話を切る。

 ……緊張した。

 いやぁまさか、いつも普通に話しているのに、こう電話越しに会話するのって、ここまでドキドキするもんなんだな。

 そんなことを思っていると、ふと背後に視線を感じた。


 振り返ると、いつの間にか扉が半分くらい開いていて、綾がニタニタと笑いながらじっとこちらを見ている。


「うわっびっくりした! いつからいたんだよ!」

「いや~、少し前から。なんていうか……カップルの会話にしか聞こえなかったよ?」

「なっ! へ、変なこと言うな!」


 突拍子もないことを言われ、俺は頬が熱くなるのを感じた。


「そんな怒ることないじゃ~ん。お似合いに見えたよぉ~」

「い、いい加減にしろ!」

「は~い。いい加減にしま~す」


 ケラケラと笑いながら、出歯亀妹は、スキップしながら去って行った。


「ったく……」


 なんだか、弱みを握られたような気がして、脱力感に襲われるのだった。


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