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第40話 言いがかりと救世主

 うっわー。

 絶妙に脚色されてるんですけど。


 確かに、俺が芹さんに気に入られていると見られても、不思議ではない状態だったのは認める。


 芹さんは人気者であるがゆえに、誰とも同じような距離を保っていた。

 常に他者との間に線を引き、それ以上の接触をしてこなかったのである。

 また、今まで芹さんに告白して玉砕した者は数知れず。そのこともあってか、芹さんは誰にも靡かない、まさに“高嶺の花”としての地位を確立していたのだった。


 それなのに、事ここに至り。

 俺は、芹さんに強引に連れられて――その際手を繋いで歩いていたから、その衝撃は瞬く間に学校中に駆け巡ったのだろう。


 土日を挟んだとはいえ、部活やダンジョン攻略に赴く生徒間の間を、破竹の勢いで伝わり、今に至るのだと簡単に予想できた。


 学校のアイドルが、どこの馬の骨とも知れない「紋無し」の陰キャと仲よさそうにしている。

 彼等をして、そんなのは断じて認められる話ではない。


 「そんなの知るかよ」と突っぱねたいのが本音なのだが、そうすれば余計に敵愾心を煽るだけだ。

 目の前にいる三人だけでなく、周囲の生徒達までも冷たい目で俺を見ている。


 こんな状況で敵対するのは賢い選択では無い。

 ――いや、違うな。

 また、俺だけが孤立するのが怖いのだ。

 瀬良のお陰で過去を乗り越えられたと思っていたのに、またあの恐怖が脳裏にちらついている。


 夕焼けの教室で俺に向けられる、かつての友人達の冷え切った表情が、目の前の光景と重なる。


 俺は、反論もできない未熟さに唇を噛みしめつつ、答えた。


「そのことだけど、勘違いだ。確かに俺は、芹さんに連れられて手を繋ぐ形にはなったけれど、あれは俺が芹さんを怒らせちゃって、一方的に連行されていただけだよ。あの後こっぴどく叱られたんだし、仲が良いなんてとんでもない」


 少し事実は違うが、少なくとも「仲良く手を繋いでいた」という部分は否定できている。

 周りの人達が危惧しているのは、俺が芹さんと仲むつまじい=恋人関係であることだと悟ったからだ。


 こう言えば、それを否定できる。

 そのはずだったのに――事態はあらぬ方向へと転がる。


「つまり? お前は芹さんに怒られるくらい、親しい間柄ってわけだな? それも「紋無し」の分際で」


 はぁ!?

 思わず、そう口に出しかけた。


 ここまでくると、半ば屁理屈に聞こえたからだ。

 だが、俺はここでようやく気付く。

 こいつらは、俺が芹さんと他の者よりも“距離を縮めていること”に、面白くないと感じていたのだと。


 恋愛感情とか以前に、学校の不可侵領域に――パンドラの箱に手を出した、俺への戒め。

 俺がどう反論しようが、「手を繋いでいた」という事実を武器に、俺を徹底的にいたぶるつもりなのだ。


 それが証拠に、白髪の小柄な少女が口を開いた。


「ていうかさ、「紋無し」のくせにクラスメイトの名前も覚えてないとか、舐めてるよね。私らがお前の名前を覚えてないならわかるよ? 「紋無し」の名前なんて、覚える価値ないし。そんなお前がなんで、なずな様と堂々手を繋げるわけ? はっきり言ってキモいんですけど」

「同感ですね。もっとも、立場を弁えない無能だからこそ、芹さんの反感を買ったのだと思いますが、それにしても手を繋ぐのはいかがなものかと」


 目つきの悪いモブ男も、それに続く。


 ウゼェ。

 俺の家にきた時の芹さんも、少しばかりウザかったが、今回はその倍くらいウザい。

 

 理由は単純だ。

 芹さんは自分の要望を通そうとするだけで、決して俺を貶める発言はしなかった。


 だが、目の前にいる奴等は、人の話を否定してばかりで都合の良いように解釈し、俺を責め立てている。

 キモいと言われたが、そっくりそのまま言い返してやりたくなった。


 イライラを募らせている間にも、彼等の発言は加熱していく。

 周りの人間も、俺に対して面白くない気持ちでいるのが大半であるため、誰1人として暴言を止めようとしない。


 正直、収集がつかなくなっている。

 これ以上言われるとメンタルもキツいし、怒りも限界だ。


 いい加減にしろよお前等!

 そう叫ぼうとした瞬間、澄んだ声が響いた。


「廊下が騒がしいと思ってきてみれば、随分幼稚な言いがかりを受けているみたいですね。もっとも、私が功を焦ってしまったことが招いたことなので、暁斗さんには謝罪してもしきれませんが」


 申し訳なさそうにそう言って現れたのは、当事者である芹さんだった。


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