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第4話 一部始終は、生配信されていた

《芹なずな視点》

 ――時間を、ワイバーン討伐前に遡る。

 その日、私こと芹なずなは裏山ダンジョンの78階層の攻略配信をしていた。


「はぁああああ!」


 片手剣を振り下ろし、Bクラスモンスターのイトムシの群れを殲滅する。

 前を見れば、イカツイ体格をしたおじさんや、見るからに使い古した防具を着込んでいるお兄さん達が、私と同じように戦っている。


 高クラスモンスターが蔓延る下層の攻略を配信をするに伴い、事務所経由で正式に護衛契約を結んでいるAランクの冒険者達だ。

 

 《うぉおおおお行け行け!》

 《同行者パーティ強いな》

 《ナズナちゃんの顔が見たい》

 《可愛いのに強いってズルくね?》


 配信はもちろん、臨場感をお届けできる生で。

 チャンネル登録者が20万人を越えている私は、平日の昼間から生配信をしてもそこそこの人数が見てくれる。


 この日は、下層の攻略をしていることもあって、同接は9000人を越えていた。


「え~強いかな? 私だけBランクだから、足を引っ張っちゃって悔しいよ」


 左手にはめた腕時計型アイテムの液晶にリアルタイムで流れてくるチャットを見て、答える。


 ちなみにカメラはどうしているのかというと、小型のものを目線の位置に合わせて頭に括り付けている。


 戦いの場に赴くダン・チューバーの、基本中の基本だ。


「よし。とりあえずイトムシの討伐は終わったぜ……っと、何か落としたな」


 最前線で戦っていたイカツイおじさんが、何かドロップアイテムを持ってこちらへ歩いてきた。


「なんです、それ?」

「さぁな、さっぱりわからん。ナズナちゃんの視聴者に、詳しい人いないか?」

「あ、そうか。みんな、知ってたりする?」


 こういうときのための配信だ。

 私は左腕の液晶に目を向ける。


 《黄色い玉みたいな、なにそのアイテム》

 《初めて見た》

 《惜しい。それが金の玉だったら!》

 《レアモンスターの卵だった希ガス》

 《それな。昔ドロップした》


 ――すぐに知っている人を見つけた。


「へー。これ、レアモンスターの卵みたい」

「なるほど。何が生まれるんだろうな」

「試してみますか? ここには腕利きの冒険者がたくさんいますし」


 みんなも見たいよね? と好奇心を煽る。

 レアモンスターを、大人気ダン・チューバーが討伐する生配信――このシチュエーションが刺さらない視聴者は、まずいない。


 《見たい見たい!》

 《ダンジョンの姫、レアモンスターを討伐して大バズりした件》

 《ラノベかw》

 《モンスターによっては、明日のネットニュースに載るかも》


「うん。みんながそう言うなら、私頑張ってみるよ」


 私は力強く頷いて、同行を依頼したパーティに協力を頼んだ。


 ――そこまではよかったのだが、広いドーム内で孵化させて生まれたのは、SSクラスのワイバーンだった。


△▼△▼△▼


「あ、熱い……」


 辺り一帯が炎の海と化した中で、私は倒れ込んでいた。

 周囲に目を向ければ、同行を依頼したAランクの冒険者達も、全員倒れている。


 ――まるで歯が立たなかった。

 ワイバーンを目にした瞬間、配信チャットを見るまでもなくヤバいと判断した私達は、逃げの一手を選択した。


 だが、逃げる隙すら与えられず、一方的に蹂躙された。

 腕利きのはずの冒険者達を、まるで赤子の手を捻るように、あっという間に倒していった。


 悪夢。

 ただその二文字だけが、熱でぼんやりする頭の中にはっきりと浮かんでいる。


 頭上には、無傷のワイバーン。

 配信チャットをちらりと見れば、


 《逃げて逃げて!》

 《ヤバいってこれ洒落にならん!》

 《どこのダンジョンなの? エマージェンシー・コールかけるから教えて!》

 《絶対死ぬな!》


 阿鼻叫喚。

 危機的状況で、視聴者もパニックに陥っている。


 けれど、私は不自然なほど落ち着いていた。

 心臓の音だけが妙にはっきりと聞こえる。


 何もかもぼんやりして、頭が回らない。

 身体に力も入らない。

 ただ、目の前に迫った死に抗う力もなく――ワイバーンの黒い影を見上げるしかなくて。


 だが、その瞬間だった。

 いつの間にか、ワイバーンと私の間に誰かが割り込んでいた。


 炎に揺れる、白いしっぽ髪。

 真っ赤な世界の中で凜とした空気を放つ、深く青い瞳。


 私と同い年くらいの男の子が目の前に立ち、弓を構える。

 男の子が弦を引き絞る度、弓矢に集う水。


 その青さは、赤一色に塗りつぶされた視界の中で妙に鮮烈に映る。

 

「あ、あなたは……?」


 思わずそう口から出た言葉に、彼は反応した。

 弓を構えたまま、僅かにこちらに振り返ると「心配ない。すぐに終わらせる」と澄んだ声で言った。


 弓矢が纏う青さが極限に達し、遂にワイバーンに向けて放たれる。

 ダンジョン全体を衝撃の波が揺らし、朦朧もうろうとしていた私の意識は闇の中へ消えた。


 ――次に目が覚めたとき、私は病室のベッドの上だった。

 謎の弓使いに礼を言えず、顔も名前もわからない。

 そう思っていたのだけど、そのすぐ後に私はあることを知る。


 私が気を失ったあとも、頭につけたカメラが回っていたこと。

 そして、そのカメラにばっちりその男の子の顔が映っていて、界隈で大バズりを生んでいたことを。


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