表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

36/96

第36話 思わぬ邂逅

 伸びきったカップ麺を啜り、身支度を済ませた俺は外へと繰り出す。

 今日の俺は、白いTシャツに薄手のジーンズというラフな格好だ。

 当然、オシャレというものに興味はないため、ネックレスはおろか、渋めのイヤリングさえも持っていない。


 駅は自宅から徒歩15分ほど。

 必然、近づけば人通りも増えるのだが、相変わらず誰も俺の正体に気付かない。


「ねぇ~、ワイバーン一撃マンさんさぁ」


 などという言葉が聞こえてきて、ビクリと肩を振るわせれば、路端でスマホ片手に友人と談笑している女子高生だったりもした。


 俺自身、正体がバレたことだし、隠す必要もないんじゃないかと思う部分もあるのだが、日常生活が困るのではないかという危惧があった。

 故に、前髪を上げて私生活を送るということに、今一歩勇気を出せずにいた。


「えっと……確か、そこのT字路を曲がった先に、ダコモがあった気が……」


 記憶を頼りに進み、左手には在来線の駅が見えるT字路を右折する。

 俺自身、トラウマのせいもあり、活動圏はあまり広くない。

 だから人の往来が激しい場所はなるべく避けてきたのだが、駅周辺だけはちょくちょく通っていた。


 なぜなら、実家に住んでいる妹が、たまに電車で遊びに来るからだ。

 人混みが苦手だろうと、外出が嫌いだろうと、それでも妹を迎えに行くのはかかさない。

 我ながらなんと素晴らしいお兄ちゃんだろうか。


 そんなこんなで、見慣れた駅を背に少し歩くと、お目当ての『ダコモ』と書かれた看板を発見。

 コンビニエンスストアより二回り大きい1階建ての店で、自動ドアも含めて前面はガラス張りだった。

 

 外から中の様子を窺うと、なるほど。

 普段はこの道を通るとしても素通りだったから気付かなかったが、確かにスマートフォンやら、その他電子機器のようなものが店内に置いてある。

 

 カウンター席や丸テーブルに腰掛けて、顧客と店員が話している様子を見る限り、スマホに関する知識が皆無な俺でも、問題なく購入と登録ができそうである。


 少し安心して肩の力が抜けた俺は、ダコモに入店する。

 入店した俺は、まず周囲を見渡した。

 本当なら、勘の良い店員さんが俺に気付いて来てくれると心強かったのだが、どうやら来たタイミングが悪かったらしい。


「いらっしゃいませ」


 と遠巻きに挨拶はくれたものの、すぐに忙しなく仕事へと戻ってしまう。

 まあ、日曜の昼下がりだしね。

 五席ある丸テーブルも全て埋まっているようだ。


 たぶん声をかければ、作業を中断して対応してくれるのだろうが……あまりにも大変そうだったから、気が引けたのだ。

 こちらとしても、急ぐような用事が後に控えているわけでもない。


 とりあえず、一人で適当に商品を見ることにした。


 スマホはたくさんあるし、知識の無い俺でも気に入った商品が見つかるだろう。

 そんな感じで、甘く見ていたのだが――


 あー、これは……違いがわかりませんねぇ。

 ものの1分も経たず、そう結論を下す俺。

 

 Uフォーン10、とか芹さんは言ってた気がするけど、Uフォーンて名前がつくものだけでなんか5種類くらい並んでいる。

 たぶん、数字が大きくなるほど後期型になり、性能とかが向上しているのだと思うが、そもそもスマホ自体持ったことがないのだから、違いを比べようにもどうしようもない、という感じである。


 俺としては、性能云々よりも、扱いやすいものを選びたい。

 初心者だしな。

 とすると、やはり店員さんから詳細な説明を受けた方がいいか。


 高い買い物だし、適当に見繕うわけにもいかないのだ。

 俺は、きょろきょろと辺りを見まわす。

 スマホを見ているうちに、どうやら一組客が抜けた様子。

 

 相手をしていた店員さんの手が、空いている。

 こういうとき、コミュ障が発動しがちな俺は、思わず固まってしまう癖がある。

 だが、昨日花島社長相手に大見得切った成果か、今日はわりとそんなこともなかったのである。


「あの、すいませ――」


 俺は、声を発しかけて。


「あれ? せ、先輩?」


 そのとき、聞き馴染んだ声が後ろから投げかけられた。

 思わず振り向いて、驚く。

 なんと、私服姿の瀬良が立っていたのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ