表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

26/96

第26話 和解と、決意と

「芹さん……」


 俺は、聖弓 《イルムテッド》をアイテムボックスにしまうと、彼女の元へ近寄った。


「暁斗さん……? どうしてここに」

「とりあえず、服のボタンをかけ直してください。それから、カメラを切って。マイクが壊れて音声は拾ってませんが、今も映像だけは回ってるので」

「っ! えっ!?」


 とたん、芹さんは顔を真っ赤にして飛び起きると、服の前を合わせてインナーを隠す。

 それから飛びつくようにカメラをひっつかむと、マイクが壊れていて向こうには聞こえないのに「また、あとで。放送切りますね!」と言ってから、スイッチをOFFにした。


 こういうところは、プロ意識が高いんだなと思った。


「あ、ありがとうございます。その……また、助けにきてくれて」


 芹さんは、服のボタンをかけ直しながら、小声でそう言ってくる。


「どうして、私がこの場所で襲われてるって、わかったんですか?」

「芹さんが選んだ二人の過去を知って、かなり焦臭かったので。取り返しが付かなくなる前に止めようと、後輩のスマホを借りて、生配信の映像を頼りに走ってきました。でも……間に合わなくてすいません」


 俺は、座り込んだままの芹さんに小さく頭を下げた。


 脇道となっているこの洞窟は狭くて暗く、オマケに少し肌寒い。

 僅かに白く煙った吐息が、ダンジョンの中に溶けて消えた。


「どうして……助けに来てくれたんですか」


 ふと、芹さんが微かに震える声で嘆くように呟いた。


「協力を断ったことには、大事な理由があったんですよね? 目立ちたくないっておっしゃってましたよね? なのになんで……あなたが助けに来てくれたのも、きっとカメラに――」

「映ってるでしょうね。今頃、またネットで大騒ぎですよ」


 俺は苦笑しつつ答える。

 芹さんは、意外そうに顔をしかめ、俺の方を真っ直ぐに見上げた。


 俺がナズナさんを助けに来た様子は、ばっちり映ってしまっているはずだ。

 もしかしたら、俺が弓矢を放ったシーンまで入っているかもしれない。

 時間が無くて制服のまま走ってきたから、たぶんウチの高校の生徒だということがバレて、学校中で大騒ぎになるはずだ。


 いくら髪型を変えて、目立たないよう生活していても――早晩正体がバレるだろう。

 正直もう、陰キャ生活は完全にお終いだ。

 でも――


「でも、それでいいんです。どうして俺が目立ちたくなかったのか。どうして、頑なまでに断り続けたのか。今思えばバカらしいくらい、どうでもいい小さな理由でしたから」


 俺は、後悔していないんだと芹さんに伝えた。


 陰キャ生活は、自分から捨てたのだ。

 確かに、芹さんを助けてしまったことがきっかけでとんでもないことになった。

 これから波乱の人生が待っているかもしれない。

 

 でも、芹さんのせいで、俺は自分の惨めさに気付かされた。

 もしあのとき、下層で彼女を助けていなければ、銀メッキを掲げるだけの、Sランクもどきの陰キャだったはずだ。



「どうでもいい、小さな理由?」

「はい。あなたのお陰で、目が覚めました」

「そう、ですか……」


 芹さんは、わかったような、わからないような複雑な表情をする。

 そのとき、芹さんは不意に口元を押さえて、小さくくしゃみをした。


「大丈夫ですか?」

「は、はい。少し肌寒くて……」


 芹さんは、腕をさすりながら答える。


「とりあえず、地上へ戻りましょう」

「はい」


 俺は、芹さんの方へ手を差し出す。


「え?」

「? どうしたんですか?」

「い、いえ。なんでもないです。……ありがとうございます」


 芹さんは何故か目を逸らし、おずおずと手を握ってきた。

 俺の手を借りて立ち上がった芹さんは、やはりそっぽを向いている。

 俺、なんかマズいことしただろうか?


 やはり、彼女いない歴=年齢の俺には、女子の琴線がよくわからない。


「あ、そうだ。屋上の話の続きなんですが……」


 そう切り出すと、芹さんはようやくこちらを向いた。


「屋上の続き、ですか?」

「はい」


 俺は、ぐーすかと眠っている性欲の権化共二人を流し見る。


「この人達に仮護衛を頼んだ後は、また俺を誘いに来ると言っていましたよね」

「はい、まあ……」


 芹さんは、どうして今その話を掘り返すんだ? と言いたげに首を傾げる。

 しかし、次の瞬間何かに気付いたように目を見開いて、詰め寄ってきた。


「まさか、護衛役を!?」

「はい。そのまさかです」


 俺は芹さんの紅玉色に照り輝く瞳を真っ直ぐに見て、はっきりと告げた。


「俺にできることなら、是非協力させてください」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ