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戻り時計  作者: 村良 咲
羨望~菜緒編~
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神社1

「あのさ、……見た方が早いか。ちょっと来て」


 久美が飲みかけのコーヒーを飲み干すと席を立った。え?なによ……と、久美について玄関を出ると、久美は家の前に止めた自分の車の助手席側に回り、そこで神社の方向に指をさした。


「ほら、あそこ見えるでしょ?」


「え?あそこ?」


 久美の指は、ご神木だと思われる紙垂のついたしめ縄のある大きな木を指さしていた。


「ご神木でしょ?」


「じゃなくて、その後ろに見える木があるでしょ?そこの……」


「えっ?……あれって」


「だよね?あれって、どう見ても藁でできてるよね?まだ新しそう」


 いわゆる、藁人形だった。


「神社ってさ、いろんな人がいろんなお願いしにくるじゃん?だいたいがさ、受験の時に合格できますようにとかさ、年の初めには家内安全にとかさ、そういう前向きなものが多いだろうけど、中には負の感情のものもあって、浄化されない想いみたいなものが浮遊してるかもしれないと思うと、そういう『気』みたいなもの?よくない気とかさ、気にならないかなって思ってね」


 よくない気。そんなこと考えたこともなかった。神社は神聖な場所なんだし、どちらかというと神様に護られているような場所の近くで、気持ち的には安心だと思っていた。ただ、緑が多くて虫が多いかなという懸念はあったが……


「ごめん、気にさせちゃったかな……なんかさ、どんな人が出入りしてるかわからないし、気を付けてねっていうくらいのつもりだったんだけど」


「ううん、ありがとう。さすがにだからって隣に住んでいる人に何かってわけでもないだろうし、でもこんな小さな神社でもいろんな人が出入りするだろうから、知らない人には気を付けるように子供たちにも言わないとね。まあ、それはどこにいても同じことだけどね」


 そうはいってみたものの、久美が帰った後もあの藁人形の存在は気になっていた。一度気にしてしまったものは、そう簡単に頭から出て行ってくれない。海斗が帰ってきたら話してみようか。いや、余計なこと話して嫌な気持ちにさせるのもよくないか。せっかく手に入れた一戸建てだし、嫌な話を聞かせて後悔させるようなことになったら申し訳ない。


 後悔。


 自分の頭の中に沸いたその言葉で、自分には後悔する気持ちがすでにあるのかと暗い気持ちになった。嬉しかったのに。幸せだとそれを嚙み締めていたのに。たかだかこんな藁人形一つでこんな気持ちにさせられるなんて、なんて腹立たしい。


 心の中に燻ぶった暗い気持ちを抱えながらも、美晴は普段通りを心がけた暮しを送っていた。この感情の元凶なんぞ見てなるものかと毎日思うくせに、見ないようにしながらも緑の景色が目の中をただ通り過ぎるようにしてそれを確認していた。だから気づいたのか、それとも今まで気づかなかっただけなのかはわからないが、それとは別の藁人形を見つけた。


 なんで?……あれ、昨日あったっけ?冷たいものが背中を一気に掛け上がった。


 買い物をしていても新しい藁人形が気になっていた。心ここにあらずな買い物をしていたため、レジを通り過ぎてカゴから手持ちの保冷できる買い物袋に移しているときに、買う予定でいたバナナとひき肉がないことに気付いた。そして買う予定のなかったウインナーが二袋もある。どうした自分!と心の中でツッコミ入れながら、買ったものをいったん車に乗せ、バナナとひき肉を買いに店に戻った。


「ママ、なんでウインナー二つ?」


「あ、うん、今日安かったから。ねぇ、今日お昼のあと子供たちと公園に行く?」


「そうだね、日曜だしスマイルパークにでも行こうか。あそこなら長居できるしたくさん遊べて疲れさせられるだろ」


「うん、いいね。というか、連れてってくれる?私、ちょっと頭痛があって……」


「それはいいけど、大丈夫なの?」


「ごめん、ちょっとゆっくりさせてもらえれば大丈夫よ、薬も飲むし」


 嘘だった。それは一人の時間を作る口実で、神社へ行ってこようと思っていたのだ。子供のいる時間、藁人形を見てしまうかもしれない子供を連れて行くのは嫌だったし、海斗がいる休日、一人で隣の神社に行くことも知られるのはマズい気がした。小高い丘の上にあるスマイルパークという名の公園は、年代の違うそれぞれの子供向けの遊具がかなりの数のある公園だ。駐車場も多く休日にはかなりの賑わいになる。


 家の前で三人を見送った後、トイレを済ませてから一応家の中の開けてある窓の鍵を閉めようと二階へ上がり窓の前に立った。窓を閉め鍵をかけレースのカーテンを引いたところで、一台の車が家の前で一瞬スピードを緩めたことに気が付いた。


 え?……運転手の顔が一瞬こちらに向いたことで、それが誰なのかわかった。


「菜緒さん?」


 陸斗の元妻の菜緒が家の前を通り過ぎた。なんだろう?ここに家を建てたことを誰かから聞いたのだろうか。だから見に来た?なら寄ってくれてもよかったのに……菜緒が走り去った方向に顔を向けそう思っていると、また同じ車が家の前をスピードを緩めながら通り過ぎた。


 え?……なんだろう。なんか嫌な感じだな。


 しばらく様子をうかがっていると、走り去った菜緒の車がまたもや家の前に現れた。先ほどと違ってスピードを緩めた車は何かを確認するようにいったん止まって、また走り出した。


 なんなのよ。これじゃ気になって家から出られないじゃないの。美晴はそう思いその場から動けずにいた。が、そのあと菜緒の車は再び現れることがなく、しばらく待ってから美晴はようやく神社に行こうと玄関を出た。


 玄関を出て家の前の歩道に出ると、隣の神社に向かった。

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