住宅
そうして、新築中古に関わらず、マンションは選択肢から外した。よく考えてみたら、上階が煩くて引っ越したい気持ちが出ているのに、上下階があるマンションを念頭に入れたことが間違いなのだ。そう言って笑い合った。
「建て売りもちょっと駅から離れるけど……これなんか、四千万切るぞ」
「あっホントだ。しかも駐車スペースが三台もあるじゃない。いいわね。見学会実施中だからさ、週末に行ってみようよ」
そう言って、見学の予約を入れた。
そして週末、ウキウキした気持ちで四人で出かけた。自分たちが買うかもしれない家の見学だ。浮足立たないほうがおかしい。そして行った見学会場でその建物が家族一致で気に入ったのだった。多少線路に近いというところが気にはなったが、今時は窓が二重三重構造のものがあり、線路があることなど全く気付かないほど静かなことを知った。上の娘なんかは二階にある主寝室以外の五、五畳や六畳のどちらを自分の部屋にするのかを目を輝かせて口にしたし、窓を開けてベランダに出て、陽の当たる庭を見下ろし「あそこに自転車置いていい?」などと楽しそうだ。
「ここ、いいね」
「そうだな、まあ、一軒見ただけで決めなくてもと思わなくもないけど、実際ここ、いいな」
「こちらの図面を担当したのは女性のデザイナーで、お客様からのご意見要望などを聞いたり、そうして建てた新築で住まわれている方たちの、ああすればよかったここはこうしたほうがよかったという話などを聞いてデザインしておりますので、利便性もデザイン性も、よりよくなっている人気のデザイナーですよ」
「そうよね、使い勝手もよさそうだし、収納も欲しいところにちゃんとあるように思う。ここ、いいわね」
「こちら、先ほど見学された方も気に入られて、今、二件が商談中となっておりまして沢渡様もご希望となりますと、三番目となります。あの……ローンの審査とか、されていますか?」
「え?いや、まだですけど」
「先の二件の方もですけど、まず住宅ローンの審査が通っていなければ、購入という手続きまで進まないので、まずローンの審査をお勧めします。お話を聞いた限りですと、一件目の方は今現在、別のローンを払われているとのことで、住宅ローン審査が通らない可能性があります。沢渡様はなにかローンを払われておりますか?」
「いえ、何もないです」
「そうですか。あの、大変不躾なのですが、お仕事は何をされていますか?」
「あの……公務員です」
「ああ、公務員の方ですか。それで今ローンがないとなりますと、はい、住宅ローン審査も割とすんなり通るかと思いますよ。先の二件のどちらかが購入となりますと、ご縁がなかったということで、申し訳ありませんになるのですが、わが社のこのデザイナーの建物、今、市内外にいくつか建設中のものがございますし、もしよければそちらもご案内できますけど、いかがですか?」
そういわれて市内の三か所ほどを回ったが、まさかのまさかで、どこもすでに商談中が何件か入っていた。そこでも、今、木野市は人気の街だと聞かされた。そして、人気があるがゆえに売り土地もいいところはすぐに売れてしまうのだとか。それよりなにより、売地があっても土地情報で出てこないこともあるのだという。あらかじめ不動産屋に土地を探していると伝えて、公に売りに出す前に教えてもらうこともあるのだとか。
そこまで言われ、なにやら焦りのようなものを感じていた。自分たちは希望の家を持てるのだろうか……
そうしてこの住宅メーカーに、木野市に新しく建て売りを作る時には教えて欲しいということと、いくつかの不動産屋を紹介してもらうことになった。土地を購入して、その住宅メーカーで、その女性のデザインで注文住宅を建てるという選択肢もあることを知った。
そしてその五日後、最初に見た建て売り住宅が二件目商談中の夫婦が買ったことを聞いた。
「あそこ、よかったのにね……」
心から何か大切なものが転がり落ちた気がした。
「そうだな。でもよく考えてみろ。踏切も近かったし、こいつら小学校に通うようになったら毎日あそこを渡らなきゃならないだろ。俺には経験がないことだけど、渡ってる最中にカンカン鳴り出したら焦るだろうし、小さいうちはそういうとこちょっと心配だし、道路の信号と違って遮断機下りてから電車が通過するまでも微妙に長いだろ。それこそ鳴り出したときに無理に渡らないとも限らないだろ。ダメだと言い聞かせてても、つられてってこともあるかもしれないし……うん、よく考えたらあそこはなしでよかったんだ」
まあ、確かにそういうこともあるかと自分を納得させながらも、後ろ髪を引かれながら諦めた。
それからは不動産屋をいくつか回り、土地を探している旨を話し、情報が出たら知りたいと頼んだ。そしてそこでまた一つ新しい話が聞けた。
町の小さな不動産屋が扱う物件は、こうしたネットやチラシに情報を出さず、『売土地』の看板だけをその土地に出してあることがあるのだとか。まず近隣で欲しい人がいたらその人に売りたい考えがあるのだそうだ。身元がハッキリしている安心感があるということ。あと、自分の子供の家族のために近くに土地が欲しいと考える人も多いというのだ。そういうことなので、自分たちで欲しい場所を車で走ってみるのもいいかもしれないと言われた。そう言われ車で走っていると、確かに『売土地』が目に入るようになった。その中にはネットなどの公の情報には出ていない物件も確かにあった。




