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戻り時計  作者: 村良 咲
羨望~菜緒編~
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離婚

一戸建てを買おう。先にそう言ったのは私だった。


 長男の沢渡海斗と結婚した当時は、二人とも親と同居とまでもいかなくとも、いつかは海斗の両親の近くに家を建てることになるだろうと、義両親の口ぶりから漠然とだがそう思っていた。近居ならば同居ではないのだし、まあいいかといった思いもあった。


 が、海斗の弟、陸斗の離婚が決まり、子供は陸斗が引き取ることとなったことで、子育てに親の手が必要だということで、実家に戻ることになったのだ。陸斗の子、和希が小学校に上がる年のことだった。


「俺、もう結婚しないから。兄ちゃん、こっちに帰ってこなくていいよ」


 あっさりと陸斗はそう言った。


 妻の不倫という、陸斗が想像だにしない出来事がきっかけの離婚で、子煩悩だった陸斗は和希を絶対に手放さず、離婚を言い渡した。潔癖なところのある陸斗には、妻の不貞は生理的に無理だったし、和希を出産してから欠席続きの同窓会に久しぶりに出席し、「帰るね」のラインに待ちきれない和希を背に、徒歩十分もかからない駅まで迎えに行く途中の脇道のところで、和希が小さな声で「ママ」と言った。その『ママ』は男の胸に顔をうずめ顔を見合わせてキスシーンという、テレビドラマのようなシーンを見てしまった和希は、その場で吐いたのだ。


 和希を背負って走り、家についてそのまま風呂場へ向かった。和希を背から降ろし、着ていたものを剝ぐように脱がし自分も裸になり、シャワーで汚れを洗い流してからボディソープで和希の身体を洗っているところに菜緒は帰ってきた。


「お風呂~?」


 昂揚した声でそう言いながら洗面所で手を洗う菜緒。返事もなくずっと強くシャワーを出しっぱなしでいることが気になったのか、菜緒が風呂場を覗いた。


「どうしたの?シャワーだしっぱ……えっ?吐いたの?何?どうしたの!?和希大丈夫?なんか変なもの食べさせたんじゃないでしょうね!?」


 微かな怒りと焦りを含んだその言葉に、陸斗はブチ切れそうになる気持ちを一瞬抑えて言った。


「ママから帰るってラインがきたから、二人で迎えに行ったんだ。おぶってた和希がママって言って……で、吐いたんだ」


 それで全てを察した菜緒は、「和希」……と、和希に手を伸ばした。が、和希は菜緒の手が触れる前に、自分の身体を引いた。


 その日から、和希の母親拒否がはじまった。


 和希の心の傷を心配した陸斗は、自分の母親に事の次第を話し、気を付けてもらうよう頼んだ。その話を海斗が耳にし、美晴にも和希に気を付けるようにと話してくれたのだ。そんなものを目にしてしまった和希を本当に気の毒だと思ったし、自分にできることがあれば、何でもしてやりたいと、美晴も思った。


 が、自分たちにも小さな子供がいる。五歳の郁美と二歳の文哉だ。二人の子供の世話に追われ、気にかけてはいても日々は過ぎていた。


 そんな時、美晴たちの住む賃貸の上階に、同じような四人家族が引っ越してきた。当初は同じくらいの子たちがいて、仲良くなれたらいいなと思っていたが、夜遅くまで走り回っていたり、寝た頃にかかり始める掃除機の音など、その上階の煩さに一週間で辟易することとなった。


 そうして、ここにいる必要ももうない。もともと子供が小学校に上がる前に家をと考えていたこともあり、そろそろ一戸建てをという話になったのだ。場所も海斗の実家の近くでなくてもいいということになり、選択肢は広がった。もともと義実家の周辺の不動産や土地情報は気にかけるようにしていたが、ここがいいというところもなかなか出ずだったため、これで探しやすくなったというものだ。


 美晴はそこにきて、初めて知った。今住んでいる夫の勤め先のある木野市は子育てに力を入れていることもあり、人気の街になっていた。結婚してからずっと木野市にいたため、そのことに気づいてもいなかったのだ。


「なかなかいい土地がないわね。いいなと思うとメチャメチャ高いし」


「そうだな、やっぱり建て売りかな……」


「場所を取るか夢を叶えるか……だね」


 駅の周辺はとてもじゃないけど土地は買えない。地方の小さな都市でもやはり駅の周辺は高いのだ。数年前から駅の周辺にマンション建設を続けてしているなとは思っていたが、市が子育てに力を入れているということに関連があるのだろう。


「駅からちょっと離れたマンションって手もあるな。一応駅まで徒歩圏内だし」

 

 そういってネットの画面に広げた間取りは三LDKで四千五百万円の部屋だった。


「ねえ、そこは駐車場どうなってる?マンションだとせいぜい止められて一台じゃない?しかも高そう」


「そうだな、ああ、敷地内駐車場は抽選だけど、一応周辺に月極めがある。でも駅まで徒歩圏内だから高いな。ここは月七千円だ」


「ええっ、七千円?無理無理、うちは車が二台あるのよ。マンションが四千五百万円で駐車場が月一万四千円になるじゃない……」


「そうだな、これだけ出すなら駅から離れて一戸建てが買えそうだ」


「うん、どうせ通勤に車なんだし、駅の近くにしなくてもいいね。買い物のことやこの子たちの学校のこと考えたら駅周辺がいいかもしれないけど、所詮地方の小さな都市ともいえないような街だもん、車社会のこういうところでは駅から離れても問題ないしね。一戸建にしよう」

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