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戻り時計  作者: 村良 咲
羨望~克哉編~
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 ずっと後悔していた。


 あの日、先輩の言いなりになって莉緒をけがしてしまったこと。ずっと後悔していた。莉緒が学校にこなくなったのもそのせいだろう。本当に申し訳ないことをしたと思っている。あの時、なんで先輩に愚痴ってしまったんだろう。広川のせいだ。あいつが莉緒と付き合ってないなんて言うから。そうだ、莉緒のせいだ。莉緒も広川と付き合ってないって言ってて……俺にはわかってたんだ。あの夏、広川と莉緒はしょっちゅ会っていた。なのに……嘘つきやがって。


 先輩に莉緒がけがされた瞬間の光景は、今でも瞼の裏に張り付いたままだ。泣き叫んだその目は、俺に助けを求めていた。そう思い込んでいるだけかもしれない。が、俺は目を瞑った。怖かった。中学生だった俺には、当時不良と言われていた高校生の先輩たちが怖かったんだ。ちょっと前には別の高校の不良たちとタイマン張ったと聞いたばかりだったし……


 今考えたら、なんであんな先輩たちと付き合うようになったんだろうと思う。俺はただバイクが好きで、いつか欲しいとバイク屋にしょっちゅう見に行ってただけだけなのに、いつの間にかそこで知り合った先輩たちとつるむようになって、気づけば不良の下っ端だ。


 莉緒のことが好きだった。初恋だった。中学の入学式で初めて見たときから莉緒の笑顔が目に焼き付いて離れなくなっていた。


 あの日に戻れたらいいのに……


 広川の名であんな手紙を出す前に戻れたらいいのに……


 「手紙か」

 

 考えてみたら誰かに手紙を出したなんて、あれ以来ないかもしれないな。それも自分の名ではなく広川の名を騙った手紙だ。


 広川。あいつにも悪いことした。あいつの怒りも仕方ないと思ったから殴り返すこともなかったし、被害に遭った俺が減刑署名を集めた。が、あいつはそれを受け取らなかった。そして広川には前科がついた。


 全て、俺の責任だ。


 ……今はいい時代だな。

 

 あの頃、今みたいに簡単に連絡のやり取りができたり、間違いのない相手からとだけやり取りができていたら、あんなことにはならなかっただろう。俺が出した手紙を広川からだと思って莉緒が出てくることもなかったろうし、あいつらも内緒で付き合うことを、もっと上手くできたんだろう。


 紙の帳簿からパソコンになったのはいつだったか。右手人差し指一本で打ち始め、毎日やっているうちに左の指まで使えるようになり、発注や納品もこれでするようになった頃には、自分のパソコンが欲しくなり購入したっけ。


 今のこのパソコンは、何台目のだろう?机に大きなパソコンを置いていたのが、いつの間にか持ち歩けるようになり、今じゃ電話まで線から離れ、一家に一台が一人一つ持つようになり、それは電話機能だけでなくパソコンでつないでいたインターネットにまで繋がるようになり、すっぽりと手に収まるこれは、俺には魔法の小箱にみえる。ボタン一つで調べ物ができたりゲームができたり、買い物だってできるようになった。


 子供の頃、漫画で見たような世界がここにある。


 そんな魔法の小箱で、何度も何度もその名を検索しようとしてできなかった俺がそれをやろうと思ったのは、仕事を定年退職したことが大きかったかもしれない。結局家族を持つことはなかった俺が、自分の人生で唯一の気がかりが莉緒の人生だった。そして、……広川のことも気になっていた。頭を強く打ったことで一時意識不明にまで陥った俺に対する広川の罪は、そう軽くはなかった。出所したあと姿を消したと聞かされ、消息が分からずじまいだ。事件のあとにはせっかく入った大学も止めることになった。それも全部、俺のせいだ。広川も……どこにいるんだろう。


 今まで本気で調べてこなかったのは怖かったからだ。俺のせいで二人の人生を台無しにした。その自覚があるから怖かったのだ。


 けれど、ずっとの気がかりは暇な時間とともに脳内を侵食し、何か得体のしれない感情に突き動かされ、知らなければいけないと思うようになっていた。居所がわからず探すとなれば、動ける今がいいと、そんなことも考えるようになり、その名をはじめて検索した。


「柴本莉緒」


 HITなし。


 当たり前か。俺たちくらいの年代になると、インターネットを使うのも、まだおっかなびっくりな人もいるだろう。いや、実際使っていない人もいるかもしれない。


「広川駿太」


 いくつか出てきた検索結果は、どれも過去の事件のものばかりだ。今の広川に繋がるものは一つもない。こうした記事を目にし、広川に投げつけられる言葉を目にし、広川に対しても、本当に申し訳ない気持ちがどんどん膨れ上がっていた。

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