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戻り時計  作者: 村良 咲
混沌~明絵編~
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戻り時計

 キャンプから一週間ほど経った、違和感にまみれた昼休みの教室では、その日はいつも以上に教室に人は少なく、明絵は一人自分の席に座り家から持って来ていた小説を読んでいた。ここのところずっとそうだ。が、読書に集中しているかといえばそうでもない。目で字は追いながらも、意識は教室に向いていた。


「ねえ、なんかさ、……最近いつも一人だよね」


 そう声をかけてきたのは斜め前に座る潤だ。潤は昨日も昼休みに教室にいた。いつも真生たちと外に行くのに珍しいなと昨日も思っていた。


「一人……かな」


「鈴山とか伊原とか……仲良かったのに、一緒に行動しないの?」


「どうかな……優美と里沙はもともと仲のいい二人だったし、キャンプも終わったから元に戻っただけじゃない?」


「っていうかさ、なんか周りで言われてるよね?」


「なんかって?」


「あのさ、キャンプのあれ、俺にはわざとらしく見えなかったよ。真生もそう思ってるし、俺らであいつらに言おうか?」


「やめて。そんなことしたら火に油じゃん。もういいよ。誤解だとか、そんなこと話したって、元通りになんかならない気がする。それに、そんな繕ったみたいな友達関係って、なんか違う気がするし……一度生まれた感情って、消え切れないと思う」


「そうか……」


「気にしてくれてありがとう。……優しいんだね。それがわかったことが一つの収穫かな。……なぁんて。こういうの言うことがあざといのかな……ははっ」


 そんな潤とのやり取りも、周りで誰かが聞いていないか気になっていた。そんな気持ちも潤にはわかっていたように、「大丈夫だよ。誰も聞いてないし誰も近くにいないじゃん」そう言った。というか、そんな状況だったから声をかけてくれたのかもしれない。


 それからまた一週間が経った頃、家に帰り着くとちょうど宅配便がきて、「荷物ですよ。印鑑かサインお願いします」と手渡して行った。


「えっ?私宛て?なんだろう?」


 送り主は……と、「武上幸人?」誰だっけ?


 送り主に全く心当たりのない明絵は、部屋の勉強机に置いたその包みをしばらく眺め、品物に『時計』と書かれたその箱を軽く振ったあと、包みを解いた。


―――お買い上げありがとうございます。こちらの時計、取扱説明書をよく読んで、使用をお決めください―――武上幸人


 ああ、武上幸人っていうのはお店の人か。じゃあ誰かが買って私にくれたってこと?誰だろう……なんで時計なんだろう?明絵はもう一度宛先を見て、間違いなく自分に送られたものだと確認した。


 それにしても、取扱説明書を読んで使用をお決めとは、どういうことだ?時計とは、使用するかどうか悩むものだろうか?明絵はとりあえずその取扱説明書を読んでみることにした。


 箱の中から月形をした時計を出すと、胸が一瞬トクンとなった。なぜ丸くないのだろう……ああ、そうか、丸いと月に見えないからかと、そんなことを考えながら、底にある取扱説明書を取り出して開いた。


   戻り時計取扱説明書


後ろの過去ボタンを使い、過去の戻りたい日時をセットする。


後ろの未来ボタンを使い、過去の戻りたい日時から戻りたい時点をセットする。ただし、今現在より未来の時点へは戻れない。


セットをしたら、両端にある二つのボタンを同時に押す。


戻り時計は計三回まで使用可能。


 え?どういうこと?


 明絵は意味が分からず、何度もその取扱説明書を読んでみた。そしてようやくその意味を理解した。これはやり直したいことをそこに戻ってやり直せる時計だということか。って、いやまさか、そんなことできるわけがない。こんな気休めみたいなもの、いったい誰が送ってきたのだろう。そう思うと腹が立った。


 夕食後に一番風呂に入り、好きで観ていたミステリードラマを録画し、さっさと自分の部屋に引き上げた。今夜はリアルタイムで観る気になれない。気休めだとわかっていても、どんなに腹立たしく思っていても、やはりあの戻り時計が気になって仕方ないのだ。


「ミステリ―の連ドラ観ないなんて珍しいね。なんかあったの?」


 そう心配顔した母親に、「テストがあるから」と、いつもならテストがあってもミステリーものは欠かさず観ることを知っている母親への言い訳にはならないかと先程のやり取りを思い返しながらも時計から目が離せない。これを使ったとしても、自分に何か損があるわけでもない。そもそも過去に戻るなんてできるわけないのだから、気休めでも時計をセットしてみてもいいのではないか。今、この時点を戻る時間にすればいいだけのことなのだから。


 やり直せるものならやり直したい。


 あの、肝試しの夜に戻れたら……真生君と手を繋いだりしないのに。大して怖くもないのに、怖がってみせる真似なんかしないのに。


 できるわけないことを思いながら、肝試しの夜の時間にセットしてみようと、そんな気持ちになっていた。


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