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無礼講と砂糖雪  作者: 貴神
3/3

(3)無礼講と砂糖雪

砂糖雪と無礼講の御話は、これでラストです☆


ほんわか屋敷風景と、ほんのりBLを御楽しみ下さい☆

皿の上のサンドイッチとコンポートが綺麗に無くなると、


翡翠の貴公子は一人勝手口から外へ出て行った。


テーブルの後片付けはコック達に任せ、メイド達も外へ出て行く。


金の貴公子は未だにシャンパンを飲み乍ら椅子に座った格好で、勝手口の方を見た。


すると間も無くして、翡翠の貴公子とメイド達が戻って来た。


手には食事の前に外へ持って行った鉄のトレイを二つずつ持っている。


其れを全て調理台に並べると、翡翠の貴公子は用意されていた布を机に広げ、


一つのトレイを逆さに持って、パン!! と軽く布の上に叩き付ける。


其の途端、パカリと中身がトレイから落ちた。


其れは琥珀の様に透き通った、薄く四角い茶色の固まりだった。


翡翠の貴公子が何やら樹液で作っていた物は、外で凍らせていた様だ。


其の塊の上に布を被せると、翡翠の貴公子は金槌で叩いていく。


そして布を取ってみると、其処には鉱石の様にきらきらと光る破片が散らばっていた。


「今年の砂糖雪だ」


翡翠の貴公子が言うと、皆が待ってましたと言わんばかりに集まって来る。


「きゃ~~!! 砂糖雪よ!!」


「待ってました!!」


一斉に手を伸ばして破片を摘まみ、己の口へと運ぶと、


「んー!! 美味しい~~!! 此れを食べると、今年の遣る気が湧いてくるんだよね~~!!」


「俺も!! 主様の砂糖雪を食べると、もう春なんだなぁって思うよ!!」


「そうなんだよな~~!!」


「美味しい~~!!」


皆の顔が、とろけそうな程の満面の笑みになる。


其の光景を一人呆然と見ていた金の貴公子だったが、ぱっと立ち上がると、


翡翠の貴公子の下へ行って、まじまじと見下ろしてみる。


「此れが・・・・砂糖雪??」


一つとして同じ形の無い砕かれた茶色の塊。


けれど手に取ってみると琥珀の様に透き通っており、まるで宝石の原石の様だ。


そして金の貴公子が恐る恐る口の中へ運んでみると、


シュワ・・・・と云う口溶けと共に砂糖雪が口一杯に広がった。


「な・・・に、此れ・・・・す・・・っげー旨いじゃん!!」


あっと言う間に口の中で溶けた其れは、


メープルシロップの甘味と山羊乳のまろやかさが絶妙に混じり合い、


かつて口にした事の無い衝撃の美味しさだった。


感動を隠しきれずに居る金の貴公子に、メイド達が笑顔で言う。


「美味しいでしょう!! 主様の砂糖雪は天下一品なんです!!」


「他のどの菓子屋にも、こんなに美味しい飴は置いてないですよ~~!!」


其れは決して誇張ではない事が、金の貴公子にもよく判った。


何だ此の飴は・・・・滅茶苦茶旨い。


病み付きになってしまいそうな味である。


皆が美味しいと絶賛する中、翡翠の貴公子も一欠けら摘まむと口に含んだ。


其のいつもと変わらぬ味に、今年も問題無く出来たと彼は思った。


翡翠の貴公子がどんどん砂糖雪の板を金槌で砕き始めると、


直ぐにメイド達がてきぱきと動き出した。


メイド達は中くらいの布袋とリボンを用意すると、其の袋に砕かれた砂糖雪を詰めて、


リボンで口を結ぶ。


其れを見ていた金の貴公子が、


「其れ、誰かに遣るの??」


問い掛けると、メイド達は頷いた。


「はい!! 異種様の皆様に送るんですよ~~」


「そうなんだ。俺たちの分は、どうするの??」


「其れもちゃんと取り分けますから、大丈夫ですよ~~」


既に砂糖雪の虜になってしまっている金の貴公子に、メイド達は袋詰めをし乍ら笑う。


だが一つだけ大きな布袋に、


メイドがたっぷりと砂糖雪を詰めているのを目敏く見付けた金の貴公子は、


「何か其れだけ異様に大きくない??」


怪訝そうに言う。


「此れは太陽たいようの館に送る分です」


「量が少ないと怒られちゃうんですよ~~」


「ああ、成る程ね」


其の理由がとてもよく判る気がして、金の貴公子は仕方ないかと云う顔で納得する。


そして翡翠の貴公子特製砂糖雪袋が全て完成すると、


翡翠の貴公子の額に翡翠の紋が浮かび上がり、宙に鳥が現れた。


目映い光をぽろぽろと落とす翡翠の鷹だ。


翡翠の貴公子が手提げ袋に四つの砂糖雪袋を入れると、


翡翠の鷹が其れを足で掴んで軽く羽ばたき乍ら宙に浮かんだ。


だが其れでは全部運べない事を金の貴公子は直ぐに察すると、自分の羽根を出した。


すると黄金に輝く鷺が宙に現れる。


と同時に、彼の額にも金の紋が浮かび上がった。


もう一つ同様に用意された手提げ袋を金鷺が足で掴んで浮かび上がると、


其の普段余り見る事のない異種の羽根に皆が声を上げた。


「きゃ~~!! 綺麗!!」


「金の貴公子様の鳥、初めて見た~~!!」


「主様の鳥も、いつ見ても綺麗だわ~~!!」


「いや~~、ミラクルっすね!!」


感動を露わにする使用人たちに、金の貴公子は「綺麗っしょ!!」と、ウィンクしてみせる。


だが翡翠の貴公子が窓を開けて自分の羽根を飛ばそうとすると、金の貴公子は慌てて言った。


「主!!


あのさ・・・・太陽たいようの館とあかの館とゆきの館は、主が行ってよ」


どうやら金の貴公子は、一族一の鬼女とライバルの赤の貴公子、


そして犬猿の仲の白の貴公子の屋敷へは行きたくない様だ。


「判った」


太陽の館へは自分が行くつもりだったのだろう、


提げ袋の中身は替えようとせずに翡翠の貴公子は頷くと、翡翠の鷹が一気に空へと舞い上がり、


南へと真っ直ぐに飛んで行った。


其の後を追って金鷺も外へ舞い上がると、翼を羽ばたかせ、光の如く、


あっと言う間に見えなくなった。


こうして翡翠の館無礼講新年会は、幕を閉じたのである。









半日掛けての翡翠の貴公子の砂糖雪作りと新年会が終わり、夜には、すっかり、


いつもの翡翠の館が戻っていた。


金の貴公子が廊下でメイドと擦れ違っても、世間話をする事はない。


其れは、まるで、真昼の夢の様だった。


館の者たち全員で集まって、わいわいと賑やかに話していたのは、


本当に今日の事だったのだろうか。


普段の静けさが戻れば戻る程、昼間の光景は夢だったのかと思えてくる。


其れと同時に昼間感じた罪の意識を、金の貴公子はくっきりと今も胸に感じていた。


金の貴公子は恒例の寝る前の挨拶をしに、翡翠の貴公子の執務室に入った。


丁度、寝るところだったのだろう、翡翠の貴公子は暖炉の火を消していた。


いつもなら入って来るなりベラベラと喋り出す金の貴公子であったが、今夜は、どうしたのか、


扉の前で立っている。


そんな居候を翡翠の貴公子が不思議そうに見遣ると、彼はもごもごと言った。


「あの・・・・その・・・・今日は済みませんでした」


突然、謝る。


「主の事、ケチとか言っちゃって・・・・」


長身の身体をすぼめて、しおらしく言う金の貴公子に、翡翠の貴公子は、


きょとんとした顔になったが、可笑しそうに小さく笑った。


「ケチと言われたのは初めてだ」


「とんでもありません。主はケチなんかじゃありません。本当です。


心にも無い事を言ってしまって、済みませんでした」


いつになく謙虚に謝罪する金の貴公子は頭を垂れて、なかなか顔を上げなかったが、


勇気を振り絞る様に両手の拳を握ると、途切れ途切れに言う。


「・・・・その・・・・俺・・・・凄く後悔してる・・・・彼女たちに・・・・」


そう掠れる声で呟いた途端、金の瞳からぽたぽたと涙が零れ落ちた。


彼は己を恥じていた。


かつて自分の犯した罪の大きさに、申し訳なさで胸が潰れそうだった。


「・・・・俺・・・・どうすればいいのか・・・・」


後悔の涙を流す金の同族に、翡翠の貴公子は暫し黙って彼を見ていたが、


服の胸ポケットから白いハンカチを取り出すと、そっと差し出してきた。


そして。


「そう思うのなら、花を手向けに行けばいい」


抑揚の無い、だが何処か労わる様な静かな声音で言う。


金の貴公子はハンカチを受け取ると、顔をごしごし拭いて頷いた。


「うん、うん・・・・そうだな・・・・そうする。雪が溶けたら、行くよ・・・・」


金の貴公子は溢れてくる涙を何度も何度もハンカチで拭っていたが、暫くして泣き止むと、


赤い目で、いつもの軽い笑みを取り戻した。


つい晒してしまった己の失態を、はぐらかす様に笑って言う。


「あのさ。歳の話って、タブーなの??」


いつもの軽い口調で質問されて、翡翠の貴公子は頷いた。


「ああ。人前ではしない事になっている」


「そうだったのかぁ~~」


夏風なつかぜの貴婦人の居る前でしなくて良かったと内心思う、金の貴公子。


「ええ~~、じゃあ、此処で訊く分はいいの??」


「ああ」


金の貴公子は大きく息を吸い込むと、再度問うた。


「質問です!! 主の歳は幾つですか?!」


すると。


「百四十三だ」


あっさりと翡翠の貴公子は教えてくれたではないか。


金の貴公子は思わず拍子抜けした顔になったが、何やら妙に嬉しそうににやにやと笑うと、


「へ~~!! 若いっていいな~~!! 歳寄りは、もう寝るよ~~」


おやすみ!! と軽くウィンクをして部屋を出て行った。


金の貴公子は自分の部屋に戻ると、ガウンを脱ごうとして、ふと手を止めた。


テーブルに置かれて在る瓶を見詰める。


中には琥珀の様な飴の破片が一杯に詰まっている。


其れを見るだけで、昼間の夢の様な一時が走馬灯の様に脳裏に蘇ってくる。


其れは八百年余りの時を生きてきた金の貴公子が初めて感じた、日溜まりの様な暖かさと、


うっとりとする甘ったるさ、そして僅かなちくりとした痛みだった。


挿絵(By みてみん)


此の感覚を此の小さな破片を、口に含む度に自分は思い出すのだろう。


甘くて痛い幸せと後悔を・・・・。


そして屋敷の者たちを労い、自ら動く事を辞さない彼の姿を・・・・。


其れ故に常に彼は屋敷の者たちに愛され、崇拝され続ける存在なのだろう。


そして、そんな彼の姿は眩しい程に美しく、此の目に焼き付いている・・・・。


金の貴公子はガウンを脱いで椅子に掛けると、寝台に潜り込んだ。


来年の砂糖雪と無礼講が、今から楽しみでならなかった。

この御話は、これで終わりです。


翡翠の館の風景が伝わったでしょうか?


少しでも楽しんで戴けましたら、コメント下さると励みになります☆

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