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無礼講と砂糖雪  作者: 貴神
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(2)無礼講と砂糖雪

引き続き、無礼講と砂糖雪の御話です☆


ほんわか屋敷風景と、ほんのりBLを御楽しみ下さい☆

何故だかは判らないが今日は立場関係なく、翡翠の貴公子に話し掛けられる日なのだと、


漸く金の貴公子も悟った。


砂糖雪の意味は依然として判らないが、何だか面白そうだと思い、金の貴公子は早速、


メイド達の会話に入ってきた。


「赤の貴公子が格好いいだなんて、嘘々だよ!! あいつ、超趣味悪いんだぜ。


慰安旅行の日に、ピエロみたいな格好で来たんだから」


赤の貴公子の暴露話に、案の定、メイド達は食い付いてくる。


「ええーっ!! ピエロって、どんな格好ですか~~??」


「こう赤と青の縦縞のサテンの服でさ、もう目がちらちらすんの!!


更に目元に仮面なんか付けてさ、服と同じデザインの三角帽子被って星のステッキ持って、


付け髭付けて来たんだぜ。普通じゃねーだろー!!」


「えーっ!! 本当ですかーっ??」


「つまり、コスプレ趣味って事ですかー??」


驚愕の声を上げるメイド達に、だが珍しい事に翡翠の貴公子が口を挟んできた。


「其れは少し違う。付け髭は付けていなかったし、ステッキも持ってはいなかった」


意外にも慰安旅行での事を、ちゃんと覚えている翡翠の貴公子に、


「ちょ・・・・主!! いいじゃん、そんな細かい事は!!」


話を誇張している事がばれてしまい、ばつの悪い顔をする金の貴公子。


そんな金の貴公子に、メイド達が大きく溜め息をつく。


「何だ~~。やっぱり嘘だったんですか~~??」


「考えてみれば、異種様が、そんな変な格好する訳ないよね~~」


「無い無い~~!! も~~、金の貴公子様ったら~~!!」


「いや、ちょ・・・・ほんとだって!!


赤の貴公子って、マジ何考えてるのか判んない危険な奴なんだって!!」


メイド達にすっかり疑われてしまい、必死に取り繕う金の貴公子だが、


「金の貴公子様、直ぐ嘘つくんだから~~」


「危うく信じちゃうところだった~~!!」


メイド達は「も~~!!」と言い乍らも声高く笑うばかりだった。


実際、赤の貴公子がピエロの様な格好をして来たのは事実だが、最早、


何を言ってもメイド達は信じてくれそうになかった。


すると又、若いメイドが手を上げて、翡翠の貴公子に質問する。


「主様って御幾つなんですか~~??」


だが其の言葉に、年長のメイドが声を潜めて言った。


「ちょっと!! 其れは言っちゃいけないって言われてたでしょ!!」


「え?? そうなんですか?! 今日は、いいと思ってた!!」


しまったと云う顔をするメイドに、だが金の貴公子が代わりに質問した。


「そー云えば、主って幾つなんだ??」


ぎょっとした顔になるメイド達には気も留めず、


金の貴公子は好奇心一杯の目で翡翠の貴公子を見る。


だが翡翠の貴公子は、しゃもじで鍋をゆっくりと回し乍ら、ぼそりと低く言った。


「幾つでもいいだろう」


其の姿は、まるで、そう云う事は訊くなと言っている様だった。


しかし、こう云うところで変に頑張るのが金の貴公子である。


「何だよ~~!! 教えてくれてもいいじゃん~~!!」


「き、金の貴公子様、もう、いいですってば!!」


慌てて小声でメイドが止めに入ったが、金の貴公子はしつこく訊くのを辞めない。


「いいじゃん、いいじゃん!! 教えろよ~~!! 減るもんじゃないんだしぃ~~!!」


だが翡翠の貴公子は背中を向けて、鍋の中を回している。


其の頑なに答えようとしない彼の姿に、金の貴公子は尚も言った。


「主~~!! 教えてよ~~!! ね~~幾つぅ~~?? 幾つぅ~~??」


「・・・・・」


「ね~~、ね~~、ね~~」


「・・・・・」


「ね~~、ね~~!!」


「・・・・・」


全く以て答えようとしない翡翠の貴公子に、金の貴公子は舌打ちすると、


「何だよ。主のケチッ」


とんでもない事を口にした。


メイド達の顔が一気に青ざめると、慌てて止めてくる。


「ちょっと!! 辞めて下さいよ!! 金の貴公子様っ!!」


「そうですよ!!」


小声で、だが激しく窘めてくるメイド達に、しかし金の貴公子は更に言った。


「ケチッ!! ケチッ!! 主の、どケチ!!


主がそんなに心が狭かっただなんて、俺、知らなかったよ~~!!」


「ちょっと!! もう辞めて下さいってば!!」


「い~や、辞めないぞ!! 主のケチ!! ケチ!! ケチ!!」


其の余りに低次元な野次に、好い加減、翡翠の貴公子も嫌になったのか、


「・・・・百と少しだ」


背中を向けた儘、ぼそりと答えた。


だが、それでも金の貴公子は食い付いてくる。


「だから何で、そうやって暈すんだよ?? ちゃんと教えてくれてもいいじゃん!!」


まだ言うかと思う程に金の貴公子がしつこく突ついていると、


一人の若いメイドがテーブルを、バン!! と強く叩いた。


「もう!! 好い加減にして下さいよっ!! 金の貴公子様っ!!


主様が御機嫌斜めになっちゃったじゃないですかっ!!」


「そーよ!! そーよっ!!」


もう一人の若いメイドも机を強く叩いて立ち上がり、凄い剣幕で金の貴公子を睨んでくる。


其のうら若き乙女たちの批難の目を浴び、金の貴公子は一瞬たじろいだが、


「だ、大丈夫だ!! 主はな、それはそれは大地の様に広い心を持っているんだ!!


だから、こんな小さな事で腹を立てたりしないんだ!! そうだろっ?! 主?!」


己を正当化せんと勢い良く翡翠の貴公子を指差す。


「・・・・・」


翡翠の貴公子は鍋と向かい合って沈黙の儘だ。


一気に緊迫感の走る調理場で・・・・


「主様。昼食の御準備が出来ました」


料理長の肥えた男が声を掛けて来た。


見ると調理台には五つの大皿にサンドイッチがぎっしりと乗っている。


翡翠の貴公子は、しゃもじについた樹液を人差し指の先でほんの少し掬うと、


口へ運び味見をする。


「今から固める。外に出したら食事にしよう」


どうやら鍋の中の物が出来上がった様である。


其れが合図だったのか、メイド達が一斉に立ち上がった。


メイド達は調理台のサンドウィッチの皿を、クロスを敷いたテーブルへと運んで行く。


そして予め用意して在った鉄の四角いトレイを一人一枚ずつ持つと、翡翠の貴公子の下に並んだ。


其のメイドが持つトレイの中へ、翡翠の貴公子がおたまで樹液を掬って流し入れる。


トレイの中が樹液に満たされると、溢さない様に注意深く持って、メイドは勝手口へ向かった。


一番若手のコックの男が扉を開けると、メイド達はトレイを持って外へと出て行く。


メイド達は直ぐに戻って来たが、どうしてか其の手には何も持っていなかった。


そして又、同様に新しいトレイに翡翠の貴公子から樹液を入れて貰うと、外へ持って行く。


其れを三人のメイド達が何往復も繰り返す。


「何?? 何遣ってるの??」


金の貴公子は鳩の様にきょろきょろと顔を動かしていたが、


気が付くとテーブルにはおしぼりが用意され、


サンドイッチとフルーツのコンポートが一杯に並べられていた。


「え?? え?? 何?? 何が始まるの??」


何やらミニパーティーの様な雰囲気に、金の貴公子は盛んに目を瞬かせる。


そんな彼の下へ、


「はい!! 金の貴公子様!!」


若いメイドが盆に乗せたシャンパングラスを勧めてきた。


「え??」


グラス受け取り乍ら調理場を見渡すと、鍋の作業は終わったのか、


翡翠の貴公子もメイドからグラスを受け取っている。


いや・・・・翡翠の貴公子だけではない。


コックの三人もグラスを手に持っている。


其ればかりか、いつの間にか黒燕尾服の執事も居り、彼も又、


手にはグラスを持っているではないか。


何だ??


何だ??


一体、何が始まるのだ??


金の貴公子は全く状況が飲み込めなかったが・・・・だが遂に其の謎が明かされる時が来た。


翡翠の貴公子を始め、皆がグラスを手にテーブルに集まって来ると、


執事は翡翠の貴公子に目で確認を取って、ゴホンと咽喉を鳴らした。


そして・・・・


「えー・・・・毎年、恐縮ではございますが、主様に御代わりして、


私が御挨拶を務めさせて戴きます」


何やら話し始める。


執事の声に、ざわついていた調理場が一気に静かになる。


「金の貴公子様を除いては、皆さん御存知であられますかと思われますが、此の翡翠の館では、


主様が砂糖雪を作られる日が新年の始まりとなっております。今日と云う日を境に心機一転し、


今年も又、温かく心優しく忍耐強く在れる様、心掛けましょう。


此の翡翠の館は一つ屋根の下で寝起きを共にする家で在り、職場でも在ります。


ですので、御互いに楽しく気持ち良く在れる様、一人一人が其れを心掛け、


互いに思いやり助け合い、家でも職場でも在る此の翡翠の館を守り作っていきましょう。


そう云う心掛けで私たち一同、今年も頑張りますので、主様、金の貴公子様、


どうか今日の無礼講を御許し下さい」


慎み深く挨拶を終えた執事に、翡翠の貴公子は少し可笑しそうに白い歯を覗かせる。


「では、翡翠の館の新年の始まりに、皆さん、乾杯!!」


「乾杯!!」


「かんぱーい!!」


執事がグラスを掲げると、皆が一斉にグラスを掲げた。


其れを合図にシャンパンを口に含むと、再び調理場に会話が溢れ出す。


ずっと訳が判らなかった金の貴公子もシャンパンを飲むと、漸く悟った。


「ねぇ。もしかして今日って、新年会なの??」


サンドイッチを手に取り乍ら、メイドに訊ねる。


「そうですよ~~!! 毎年、此の日は、皆でサンドイッチを食べるんです」


「だから無礼講なんだ??」


「はい!!」


笑顔で答える若いメイドに、金の貴公子は、やっと現状を理解した。


翡翠の貴公子が何やら作る此の行事は翡翠の館の新年会で在り、


館の者総出で同じ皿のサンドイッチを食べる事で親睦を深め、普段の上下関係が無くなり、


従って無礼講な訳なのである。


翡翠の貴公子がコックと喋り乍らサンドイッチを食べていれば、あの普段は御堅い執事も、


皆に混ざってサンドイッチを食べている。


普段ならば有り得ない、正に無礼講の光景だ。


「毎年、こんな事してるんだ・・・・」


呆然と調理場の様子を眺め乍ら、徐ろにサンドイッチを口に運ぶ金の貴公子。


毎年恒例と云う事は、昨年も遣っていたと云う事である。


だが自分に其の記憶が無いのは、昨年の此のシーズンに、


誰の言葉も聞かずに外へ出歩いていたせいだ。


そう思うと、なんて惜しい事をしてしまったのかと思う。


改めて翡翠の貴公子を見てみると、翡翠の貴公子は立ったまま椅子に座った料理長と話している。


其の姿に間も無くして、金の貴公子は気が付いた。


よく見ると翡翠の貴公子は、一人一人の話を聞いている。


暫く一人と話すと少し移動し、また他の者と話をしている。


普段、翡翠の貴公子と直接会話をする事のないコック達の顔は、


とても嬉しそうに生き生きと輝いている。


挿絵(By みてみん)


今日は館の主と気兼ね無く会話が出来る唯一の日なのだ・・・・其れは嬉しいだろう。


使用人たちの歓びと、優しい翡翠の眼差しで耳を傾けている翡翠の貴公子の姿を見ていると、


金の貴公子は急に己の胸が熱くなり、食べるのも忘れて、ぼんやりとした。


其の金の貴公子の顔の前で、若いメイドが手をふるふる振ってくる。


「金の貴公子様、大丈夫ですか??」


何故だかメイド達に酷く心配した顔で見詰められ、金の貴公子は、


「え?? いや、大丈夫!! 何か此のサンドイッチ、マスタード、効き過ぎかな??


すっげー辛くてさ!!」


咄嗟に手に持っていたサンドイッチを指差して嘘をつく。


「ああ、やっぱり!!」


「金の貴公子様、御水!!」


まるで彼の言わんとする事を理解したかの様に、


メイドが直ぐに水の入ったグラスを差し出してきた。


「あ、有り難う」


特にサンドイッチは辛くはなかったが、金の貴公子はグラスの水を飲んだ。


其処へ若いコックの男が首を突っ込んでくる。


「ああ!! 金の貴公子様、当たったんですかっ?!


今年は二個だけ、青唐辛子を入れたんすよ~~!!」


まさか金の貴公子様に当たるだなんてな~~!!


喜々として笑うコックと共に、くすくすと笑い声を立てるメイド達を見て、


金の貴公子は今し方のメイドの素早い対応の意味を悟った。


「マ、マジ?! 超辛いんだけど・・・・!!」


態と辛い顔をして笑ってみせる。


だが不思議な程に、彼の胸中は温かかった。


普段ならば決して言葉を交わす事のないコックの青年が隣に居る。


コックもメイドも、まるで友人の様に自分の傍で笑っている。


彼等は只の使用人ではない。


ちゃんと名前が在り、心を宿した人間たちだ。


其れを理解した時、金の貴公子は自分の犯した罪の大きさを知った。


此の屋敷に来て間も無く、自分はメイドを殺害した。


どうして、あんな事が出来たのだろう・・・・。


皆こんなにも、いい仲間なのに・・・・。


たかがメイドだと思っていた自分が、今どうしようもなく恥ずかしい・・・・。


金の貴公子は、コックと話している翡翠の貴公子を見た。


そして・・・・思う。


あの人は・・・・綺麗だ・・・・と。


何が起きても、決して穢れたり歪んだりしない。


そして限り無い程に続く大地の様に広い温かい心で、此の館の者たちを大事にしている。


相手が誰で在ろうと常に真っ直ぐな翡翠の瞳で、相手の話に耳を傾けている。


其の姿が・・・・眩しい。


そう・・・・其処まで金の貴公子が思った時、目線の先の翡翠の貴公子の顔が突然、強張った。


口許を抑え、大きく目を見開く翡翠の貴公子。


「主様!! 如何なされましたか?!」


料理長が声を上げると直ぐに執事が駆け付け、調理場に緊張が走る。


翡翠の貴公子は口を抑えた儘、其の場に固まっていたが・・・・


「此れ・・・・滅茶苦茶、辛い」


顔をしかめ、掠れる声で言う。


其の言葉に、料理長の顔がみるみる間に真っ赤になった。


「ショーン、御前!! あれほど入れるなって言ったのに、また唐辛子入れやがったなっ!!」


どたどたと走って来る料理長に、若いコックは一目散に逃げ出すと、


調理台をぐるぐると回って追い駆けっこが始まる。


其の光景は長閑以外の何ものでもなくて、金の貴公子は言葉を忘れ、目を細めたのだった。

この御話は、まだ続きます。


翡翠の館の風景が少しでも目に浮かんだら、幸いです☆


少しでも楽しんで戴けましたら、コメント下さると励みになります☆

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