10. 俺は折れない剣になりたい
あらすじとタイトルを変更しました。
キャラ名もつけてあります。
聖女=エルサ 魔術師=アレクシ
読書家女子=ミーミルです。
ハムスター扱いされたけど、その話はひとまず置いて、口を開いた。
「何も決めていないけど、魔王討伐をした後、俺には何ができるだろうって考えている」
曖昧だったこれからのことを、言葉にすることで具体化していく。
「気になるのはモンスターのことだな。魔王を倒したのに、モンスターは滅んでいないってことなのか? レベル65の巨大狼がいたし」
「そういえば、そうですね……そもそもモンスターは魔王が率いていたという話ですし、親玉がいなくなれば滅んでもよさそうです。それともモンスターは、動物のような生態系を持っているということでしょうか」
「どうだろうな……今までは敵と見ていたから、倒す方法しか見てこなかったし、生き物として見てこなかったな……」
モンスターはレベルアップのための修行相手だった。
経験値と金を落としてくれる存在。
それらが何のために生まれたのかまでは考えが及ばなかった。
俺たちは魔王を倒すという使命で動いてきたからな。
ギフト持ちは、RPGゲームだという世界。
この世界には、まだまだ俺が知らないことが多そうだ。
「なあ」と、ミーミルに声をかける。
「初代勇者の後の世界って、しばらくモンスターはいなかったんだよな?」
「そうですね。モンスターの襲撃は……その……えっと……」
彼女が言いにくそうに口を閉じた。
たぶん、父上のことを気づかってくれているのだろう。
「父上が戦場に出たときにだよな。俺は大丈夫だよ。ありがとうな」
ミーミルがブンブンと首を横ふった。
それに微笑みかけ、考えをまとめる。
「もしも、モンスターがまだ人を襲うというのなら、俺は守りたい。父上や兄貴が守った人々を守っていきたい。長く。できるだけ長くだ」
結局、俺ができることと言えば、戦うことなんだ。
レベルアップした力で誰かを守りたい。
天寿がくるまで。
「俺は折れない剣になりたい。聖剣は折れちまったけど、俺自身は折れない剣でいたい。誰かを守る剣であり続けたい。それが俺の今の目標だ」
顔をあげていうと、仲間が強く頷いてくれてた。
「あんたらしくていいわね」と、エルサが言い、他の二人も頷く。
俺も嬉しくなって、へへっとはにかむ。
「となると、やはり今の世界状況を知る必要がありそうですね」
「それでしたら、やはり『ユートピア』に行くのが一番じゃないでしょうか!」
たわわな胸を突きだして、ミーミルが声をだす。
「実はわたし、王太子妃さまから直々に『ユートピア』と協力して魔王攻略をまとめて文献にしてほしいと今朝、依頼されました」
ミーミルが泣きそうな顔になる。
「……兄貴さんやみなさんの勇姿を遺しておくのと、魔王がまた復活したときに泣く人が減るようにっておっしゃられてました」
母上が、そんなことを。
「だから、『ユートピア』に行けばモンスターのことも分かりますよ! 彼らはこの世界に詳しいですし、わたし、『ユートピア』への通行証も頂いちゃいましたから!」
ミーミルは椅子にかけていた鞄をあさって、通行証を見せてくれた。
そこには臨時職員の役職とミーミルの名前があった。
「ふむ。ミーミルが入れるとして、私たちも入れるんでしょうか? 『ユートピア』王立の施設ですよね? 人数分の通行証がないと入れないかと」
「えぇっ!? ダメなんですか!?」
アレクシの冷静な答えに、ミーミルが肩を落としている。
「大丈夫よ」と言ったのはエルサだ。
「王太子妃さま直属の施設だし、そこに息子がいるじゃない。王族が頼めば入れるでしょ」と、俺を指差す。
アレクシとミーミルが俺に注目した。
俺は目を丸くして、自分を指差す。
王族ねえ。
あまり実感がないけど、身分は使いようだな。
「じいやを通じて母上に頼んでみるよ。今、忙しそうだから、時間かかるかもしれないけど、許可してくれるだろ」
ミーミルの顔が明るくなる。
それを見て、俺はえっと、言葉を濁した。
どんどん話が決まっているけど、みんなに確認しておきたいことがあった。
「俺は戦う気だけど、みんなは、その……俺に付いて来てくれるのか?」
伺うような声で尋ねたら、場の空気が凍った。
エルサは、はあああ?と言いたげに眉をひくひく釣りあげて怒っているし、アレクシは無言で眼鏡をなおしている。
ミーミルは笑顔のまま固まった。
非常にまずいことを言ったかもしれないけど、俺は背筋を伸ばして真剣な顔をした。
「俺らは魔王討伐メンバーだったろ。目的は達成した。パーティーを解散してもいいんだ。これからはそれぞれの道を行けばいい。俺に付き合うことは……ねぇ──」
──ゴツンっ!
最後まで言えなかった。
エルサの特大パンチが俺の脳天を直撃したからだ。
「いって!」
思わず声が出た。
頭をさすると、手をグーの形にしたままエルサが仁王立ちしていた。
すげえ、怒っている。
「それ以上、バカなことをいったら、もう一発おみまいするわよ」
「……っ、だってさ! お前らだってやりたいことがあるだろ? 魔王討伐の恩賞金は出るんだし、のんびり暮らしたっていいじゃんか」
俺は嫌だけど、今まで戦ってきた仲間に安息があってもいいと思ってる。
憮然と言うと、エルサの目が笑わなくなった。
二発目を覚悟して、頭を突きだすと。
「あー、確かに恩賞金でますね。まあ、全部、教会の孤児院に寄付するようにお願いしましたが」
アレクシが平然と言う。
は? 全額って……相当な金だぞ!?
「おいおい。自分の為に残さなかったのかよ!」
「えぇ。私は孤児院の出自ですし、いつかシスターたちへ恩返ししたいと思ってましたから、最初からそうするつもりでしたよ?」
なにか?みたいな顔をされて、俺は口を閉じるのを忘れた。
「なので私は今、無職です。今まではモンスターを倒せばお金は入りましたが、無職なのは困ります。家もありませんし、ここを出たら路頭に迷います」
俺は顔をひきつらせながら「……それは、大変だ……」と言った。
「わたしは『ユートピア』で職員になりますし、勇者さんの手助けをまたしたいです」
にこっと笑ってミーミルが言う。
俺はまだ力拳を握ったままのエルサを見上げた。
「あたしの家、半壊したのよ」
は?
「なんでもお母さんが籠城したせいで、おねぇ師匠たちが突撃したらしいわよ。家にあった高い魔法書もボロボロ。修繕費が膨大にかかるのよ」
師匠……なにやってんですか……
「家の修繕に半分は飛ぶし、残りは貯金する。あたしも無職だと困るのよ。おわかり?」
頭をこずかれた。
俺は額をさすりながら彼女を見ると、不敵に笑われた。
かなわない。
「じゃあみんな、モンスター退治をしたいってことか?」
「そうですね。倒せばお金になりますし」
アレクシが現実的なことを言って微笑する。
俺はにやけそうになる口元をおさえるのに必死だった。
だってまた、みんなと一緒なんて嬉しいに決まっている。
「じゃあ、じいやに『ユートピア』に行ける通行証を頼んでくるな!」
俺は椅子から立ち上がって、駆け出した。
浮き足だっているのがバレバレだな。
それでも、いいや。
やった!って飛びたいくらいだ。
じいやを探して駆け回り、母上にも話が通って、俺たちは『ユートピア』へ行くことになった。




