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0. 俺の兄貴は勇者

「後は俺に任せろ!」


 地面に膝をついた俺の横を通って、兄貴は駆け出した。

 目の前には魔王がいた。

 俺と仲間で攻撃をしたから疲弊している。

 あと一撃。

 兄貴が魔王の顔面を殴れば、戦いも終わりだ。


「やめろっ……!」


 必殺技だけは使うな!

 そう言いたかったのに、兄貴は渾身の力を込めて拳をあげた。


「俺はブラコンだあああ!」


 ──バキッ!


 魔王の顔面に兄貴の拳がめりこむ。

 もう、本当に嫌だ。

 その必殺技を叫ぶ兄貴は、大バカ野郎だ。


 必殺技をくらって、魔王は跡形もなく消えた。

 辺りは奇妙なくらい静かになった。


「やったぞ!」と、明るい声で兄貴が振り返る。


 俺は笑えなかった。

 だって、兄貴の体は石化が始まっていたから。


 兄貴は石になった足をバキンと折りながら、笑顔で俺の元にくる。

 その間も兄貴の石化はとまらなくて、体のあちこちがひび割れていた。


「泣いているのか? 気にするな。ここで俺が消えるのは、決まっていたことだろう?」


 分かっていたことだから、俺はぼろぼろに泣いた。


 俺と兄貴は勇者の血を引いていた。

 だけど、双子だった俺たちに勇者の力は半分しか受け継がれなかった。

 兄貴は必殺技を使えるが一度きり。


 魔王にトドメをさせるけど、命を燃やして石化する。

 俺はトドメはさせないけど、丈夫な体を持っていたから、兄貴を死なせまいと限界まで戦った。

 だけど、兄貴は逝ってしまう。

 悔しい。ちくしょう。

 レベルMAXにしても意味ないじゃんか!


 泣く俺の頭を兄貴がなでた。

 なでたそばから指が脆く崩れて、俺の涙はとまらなくなった。


「お前と仲間が戦ってくれたから魔王は倒せた。ありがとう」


「……俺は何もできなかった!」


「何を言っているんだ! お前は傷だらけで戦い抜いた! 胸を張って凱旋しろ! お前は勇者だ!」


 体から砂を撒き散らしながら、兄貴は笑う。

 涙でよく見えないけど、いつもの笑顔だった。


「いい嫁さんをもらえ。長生きして、俺みたいに笑ってくたばれよ? つまんないことで死ぬなよ?」


 最後まで俺のことばかり言って、兄貴は完全に石化した。


 脆い体は砂になった。


「骨ぐらい残せよ! ちくしょおおおおッ!」


 砂を必死にかき集めて、俺は泣き叫んだ。




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