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ワールド・ロジック~黒人の歩み~  作者: 紫煙の作家
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No7 手に入れた物と求めていないもの

 主人公の現在の話です。

          No7



△▼

 日影は翌日、簡単な朝食を済ませたあとにまた一人で街道を歩き始めた。今日も昨日と同じように快晴な空だ。空に浮かぶいくつかの雲はゆっくりと流れ、ときおり肌を撫でる風は気持ちがいい。


 何も考えずにゆっくりのんびり歩くのは心地いい。自然を肌で感じ喉が渇けば水を飲み、腹が減ったら飯を食べる。自分の自由な時間を思うように使えるのはなんて贅沢なのだろうかと、そんな世捨て人みたいな事が頭によぎる。


 なんの柵も感じずに自分の思うがままに生きていけたらどんなに自由なのかと。


 しかし、自分が思うような自由はそう簡単には訪れたりはしない。すでに、日影の探知範囲内には反応があった。


 "魔獣"の反応だ。


 日影は警戒態勢に入った。街道の中央へ立ち位置を変え魔獣を迎え撃つ構えだ。すでに、魔獣は視認している。小型の"頭角種(とうかくしゅ)のゴブリン"だ。


 魔獣ーーこの世界に蔓延る魔力と魔核を併せ持った獣、だと魔獣を研究する学者達は唱えている。

 そして、魔獣の体内にある魔核はこの世界の人々の暮らしに必要な動力エネルギー体である。魔獣の素材の各部位は市場で取引でき、魔核や素材は金銭を稼ぐ商品として取り扱われる。


 日影は"赤髪のクズ"ことシェイドに教わったことを、苦々しく思いだしながらゴブリンと接敵した。


 ゴブリンは四匹。ギャアギャアッと汚ならしい声をだしながら正面から走り寄ってくる。日影は軽く体の力を抜きつつも瞬時に動ける構えをとった。すでに、一足飛びで迎撃できる間合いにゴブリン達は侵入してるがまだ動き出さない。


 そして、ゴブリン達との距離が約十メートルをきった時に日影は脚に力を入れて大地を優しく蹴った。


 ズンッ!

 ドッ!ーードガッ!ーードンッ!ーードカッ!


 地面を踏み抜く音が聞こえたあとに四つの打撃音が響き、街道にゴブリン四匹の死体が横たわっていた。


 拳でゴブリンの頭蓋骨を陥没させたり、蹴りで首の骨を折り、顔を掴み地面に叩きつけたり、頭上から脳天に踵落としさせ蹴り殺す。戦闘時間は数秒だった。


 日影の身体能力は常軌を逸脱している。盗賊達に襲われた時にもそうだったが、消えるように動くのだ。実際に、消えてはいないだけで、目に写らないだけ。捉えられていないだけなのだが。


 それだけの速度で動けるだけの身体能力を日影はそなえていた。この世界で"その力"を初めて使ったのが洞窟内の岩肌に向かって投げた小石が、岩肌を衝撃で爆発させたのが事の発端と言えるだろう。当初は理解していなかったが。


 この力を理解し始めた日影は修練を重ねている。今では、ゴブリンごときでは数秒で瞬殺できる。無双状態である。日影自身はそうは思ってないが。


 瞬殺したゴブリン達の死体に数秒意識を向け残心すると、腰に備えてある刃渡り約二十センチほどのナイフを抜き取りゴブリンの胸に突き刺して胸を開く。

 胸を開くと小さな瘤、あるい肉の繭と表現できるような部位が見える。そこから管のような幾本の筋がのびていた。その瘤を切り裂くと小さな結晶体が現れた。真円ではなく少し歪んでいた。それが、魔核であった。


 ボロ巾を収納鞄から取りだし魔核に付いたゴブリンの血を拭き取ると、濁った白色の魔核を手に取った。

 「銅貨五枚....いや、三枚ぐらいか? とりあえず、飯代ぐらいにはなったかな」


 この世界、いやこの大陸での共通通過は、"銅貨""銀貨""金貨""大金貨"さらに"手形券"がある。


 銅貨は軽い食事やエール、果実水などが一つずつ買える価値がある。


 銀貨一枚で満足な食事が出来る程度価値がある。


 金貨一枚で安い宿なら二泊朝夕付きの食事が出来る価値がある。


 大金貨一枚なら魔導具の一つは買える価値があり。


 通貨ではないが、大きな商取引に使用する手形券が存在する。


 一般的な一月の暮らしで必要な貨幣はだいたい大金貨二枚あれば暮らせる。

 冒険者であれば、一月に大金貨五枚も稼げれば優秀な冒険者だと言えるだろう。



 日影は残りの三体のゴブリンも同様に処理する。魔核を抜き取ったゴブリンの死体は森に向かって力任せに投げ飛ばして捨てた。街道からは二、三十メートルは離れただろう。本来なら、土を掘り埋めるか火で燃やすかするが別にこれでも問題ない。

 死臭によって獣や魔獣が街道に現れなければいいのだから。


 日影は血で汚れたナイフと手をボロ巾で拭うと収納鞄にしまい、また街道を歩きだした。


 収納鞄ーー日影が持っているのは"ある魔獣"の胃袋を魔法技術で加工した魔導具である。見た目はウエストポーチのような様で小さな鞄ぐらいだが、容量はかなりの量がはいる。それこそ、大型車輌一台分は入るだろう。鞄内では物の劣化が極端に遅く、果実を入れても十日は腐敗しない。もちろん、重量も鞄自体だけの重さだけだ。価値にしたら、庭付き豪邸が一軒は買えるぐらいの値がする。ただし、質の良い魔核が動力エネルギーとして必要になる。


 何故そんな高価で便利な鞄を日影は所有してるだろうか? そして、そんな物を持ってれば命を狙われたりしないのだろうか? と、疑問には思う。


 まず収納鞄を手に入れたのは全くの偶然というか、ご都合主義と言える。この世界で初めて目覚めた場所ーー裸で寝ていた洞窟内の白骨体が所持していたボロい鞄が収納鞄だった。なぜ、白骨体が所持していたのかは分からないが、のちに収納鞄だと判明し汚れを落とし手入れ油で磨けば、使い込まれたように見える鞄の出来上がりである。


 見た目は使い込まれた趣ある鞄にしか見えない。そんな鞄が超高価な収納鞄だとは端からは見えない。時と場合を考えて要領よく使いこなせば、騒ぎにはならないし目立ちもしない。なので、今は実害を受けていない。


 さらに加えればボロいローブと古ぼけたブーツも魔導具であった。


 ボロいローブは、裏地の目立たない箇所に"刻印魔法"が加えられており、体内魔力を刻印に流せば適温状態を維持してくれるローブだった。周囲が暑ければローブ内を冷まし、寒ければ温かくしてくれる。手に入れた当時はフードはボロボロでローブ自体も穴があき裾は擦りきれほつれていたりしていたし、裏地の刻印も虫食い状態だった。だが、腕の良い魔法技術者と魔導技術者の手により修繕されている。見た目ボロいローブに。これも、偽装工作だ。


 ボロいブーツは、"頑強"の刻印と"俊足"の刻印が靴底の内側になされていた。当時は、ブーツの革が破けたりしていたが機能自体はしていた。なので、歩きにくい森の中でもシェイドの速力にもついていけていた。もちろん、驚異的な身体能力もあるが。こちらも、ボロいローブを修繕した技術者たちに頼んで修繕されている。偽装付きで。



 街道を一人歩く日影の見た目は、ボロいローブとボロいブーツを身に纏った旅人にしか見えない。ただし、容姿は子供以上青年未満だが。


 日影一人(ひかげかずと)の見た目は、子供以上青年未満な容姿をしている。髪色はこの世界で特に珍しい(いまだに同じ黒髪をした人種を見ていない)黒色をしている。人見の色は濃紺でこちらは珍しいがいないわけではなかった。顔立ちは良くも悪くもなく無難? であった。体つきは筋肉質ではないが、バランスは良い。理想的な体型であろう。背丈は約百七十センチ弱でこの世界では小さい方に入る。このような容姿であれば、子供に見えなくもないだろう。


 だが、内面は全く外見とは異なる。達観した性格で取捨選択が過剰に出来るし、判断も早い。なにより、精神的な成熟が出来ている。獣や魔獣、人を殺めても特に動揺したりしない。必要なら殺すし不必要なら殺さない判断ができる。が、自身の敵あるいは敵意や殺意を持って向かってくる者には容赦がない。その反面、自身の味方や気を許した友には甘い部分がある。その内の一人に"赤髪のシェイド"が入っている。日影は、表面的には罵詈雑言を並べてシェイドに憎くあたっているが根本的な部分は感謝をしている。決して、口には出さないが。ちなみに、アソコは未使用であり小さくはない。


△△

 ゴブリン達と戦闘した日影は一人旅を楽しみつつ街道を歩くが、どうやら一難去ってまた一難がやって来ていた。


 ブウオォォーーーーッ!!


 探知範囲外の街道全方より獣の咆哮が日影の耳に入ってきた。

 「おいおい、今度はなんだよ? 旅ってのは風情を楽しみ食や景観を楽しむものだろう。なんで、求めてもいないものに遭遇しなきゃならないんだよ」

 日影の小言は誰にも聞き入れてもらえないでいた。



 束の間のうちに、すでに日影の視界には巨体な魔獣であろう生物が現れた。体高は日影の二倍はあり、体長は日影の三倍ほどだ。体は体毛に覆われ猪のような口元に巨大な牙を左右に二本ずつ生やし、足の蹄に押し潰されれば生死に関わるのは容易に理解できた。さらに、特徴的なのは頭頂部に一本角があることだ。


 この魔獣は、頭角種に属する魔獣でホーンボイザーであった。


 日影はシェイドに習った魔獣知識を瞬時に脳内に浮かべた。

 「ホーンボイザーか。さっきのゴブリンはお前から逃げてきたのか? ってか、ヤル気マンマンだな。だが、出会いが悪かったな。とりあえず、ふっ飛べっ!」

 ホーンボイザーの速度は速くすでに日影の間合いに入っていた。日影は地面を踏み込み、瞬速でホーンボイザーの横っ面を殴って森側に殴り飛ばした。


 日影によって殴り飛ばされたホーンボイザーは、その巨体を森の中へと殴り飛ばされた。森の木々をなぎ倒し地面を跡を残しながら数十メートル転がっていった。


 端から見たらあまりな光景にあいた口が塞がらない間抜けた顔に見た者はなっていだろう。だが、周りに日影以外の人物は見当たらない。日影の探知にも今はひっかかっていない。


 殴り飛ばした日影はホーンボイザーの跡をたどり森へと入っていった。




 明日も投稿します。

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