No6 ダレアナの街と赤髪の叫び
過去の日影の話になります。
No6
森の中で未知なる獣と出会い命の危機に瀕した日影を救ったのは、のちに分かるが"赤髪のシェイド"と名乗る中年の男だった。シェイドの風貌は、赤い髪色が特徴的で粗暴な中年男だ。逆立った赤髪を無造作に整え無精髭を生やし口調は品がない。だが、精悍な顔立ちに引き締まった体型をしていた。背は高く日影より二十センチ以上は背丈が違った。
髪色を黒くし無精髭を剃り、丁寧に整髪料で髪型を整えてスーツを着せれば、どこぞの社長にも見えるような姿にも出来る。それは、世界が違えばもしかしたら、どこかの都市ですれ違っていたかもしれない。
それがあり得ないとしても想像ぐらいはまだこの現実に日影はなれていなかった。
そんなシェイドが森の中で歩みを遅くしながら声をかけてきた。
「なぁ、お前疲れたりしてないか? 少し休むか?」
シェイドの言葉は、日影の事を気遣う言葉だった。
シェイドの言葉に対して日影はこう答えた。
「大丈夫ですよ、それより街にはまだ着きませんか?」
警戒心丸出しの言葉だった。
シェイドは街に戻るとは言ったがいつ着くとか答えていない。さらに、今までずっと歩きにくい森の中を早足で歩いていた。普通ならもっと早くに掛けるべき言葉だし、実際に街に向かってるのかと日影には怪しく思えていた。
シェイドは自分よりも何もかもが現状では日影より有利な状態だ。警戒心を出さずにはおれない。
シェイドは警戒心丸出しの日影と言葉を交わす。
「もう少しだな。あと小一時間で森から出れる。そこから、三十分も歩けば"ダレアナの街"に着くぜ。.....そんなに警戒しなくても街には送ってやるよ、つーかお前ガキだよな? なんで、"こんな森の中"にいたんだ? 何かの依頼か?」
シェイドは気になっていた事を質問した。
日影はどう答えていいか、返答に迷う。
「.........ガキ、ではないですよ。それと、森の中に居たのは、わかりません。気づいたら居たんですから....名前、なんですか? 私は、日影です」
返答に迷うが、日影はこう答えた。
シェイドは、歩きながらそう答えた。
「"ヒカゲ"ねぇ....それは、家名かよ? どこぞの貴族様か? そのナリで? 悪いがオレは"冒険者"だからな。言葉は汚ねぇ。んで、名前はシェイドだ。"赤髪のシェイド"って言えばダレアナの街だったら大抵は知られてるぜ! で、ヒカゲよ。森で何してたんだよ? 貴族様が一人で森の中で。逢い引きか? アッハッハッハッ!!」
日影が名じゃなく家名を名乗った事にシェイドは勘違いしつつ、自身の名を名乗り冗談も付け加えた。
黒髪で良くも悪くもない子供とも青年とも見えるような顔立ちに、丁寧な口調の日影は貴族嫡男に見えなくもない。
あえてボロいローブを着て身分を偽ってる風にも、シェイドから日影はそう見えても可笑しくない。
日影は、シェイドの言葉から情報を読みとっていき精査していた。
「家名....名は一人ですよ。ちなみに、逢い引きでも貴族でもないですよ。シェイドさんは冒険者ですか...ダレアナの街で冒険者をしてるんですか? あの獣を倒すんだから強いんですよね?」
最低限の情報だけを与え、知りたい情報を聞き出すように会話を進める。もちろん、警戒心を下げずに会話をかわしていく。
シェイドは自分の腕を褒められ嬉しい気持ちになり、会話は繋がっていく。
「おうよっ! ダレアナに来てからはだいぶ名が売れたぜっ! ここらは、暇潰し相手に困らねぇからな! ちょっと、オレが本気出せば余裕よっ! 余裕っ! ガッハッハッハッ!」
シェイドは高笑いしながら森の中を歩いていく。声高に笑う声量は大きく森の中に響く。
日影は、シェイドが"自分を誘拐した犯人"ではないと、ほぼほぼ理解していた。そして、次のシェイドの答えで確証した。
「そう言えば、街で聞いたことがありますよ。凄腕の冒険者がいると。昼前に、依頼を出そうとしたけど寝てたので出さなかったんですよね。護衛をしてもらえば良かったですよ」
この程度の嘘なら朝飯前だ。自分の外見が"どんなだか"分からないがガキに見えるならそれはそれで侮ってもらいやすい。と、日影は考えて言葉にした。今のいままで右手に握る小石に意識を集中し。シェイドの言動次第では"小石の力"を使うと決意しながら。
そんな一代決心をしてる日影だとは、シェイドは気付かずに答えた。
「んがっ! なんだっ、ギルドに来たのかよっ!! かぁー、そりゃ悪かったぜっ! 昨日の夜はよぉ、ギルドの嬢ちゃんと盛り上がっちまってよぉ! いやぁ、二十杯ぐらいまでは数えていたんだけどぉ? あの酒飲み女っ! 飲むわ飲むわで、いっこうに酔わねぇんだよっ! んで、気づいたら昼過ぎでよ。目ぼしい依頼は残ってねぇから仕方なくこの依頼を受けて森に来たってわけよ! せっかく来たんなら起こしてくれりゃあ良かったんだよぉ!」
シェイドは日影の言葉になんの変化も見せずに身振り手振りで説明し、表情もコロコロと変えながら話した。
日影はシェイドの表情の変化や怪しい動作に意識を最大限に高めてシェイドの話を聞いた。
そして日影は話を聞き終え高まっていた緊張状態を少しずつ緩め、その場に立ち止まってシェイドに言葉に返した。
「シェイドさん....僕は街になんか行ってませんよ。街に入った事もなければそんな依頼を出す為にギルドになんか"一度も"行った事はありません。僕は、洞窟の中にいたんですから。森の出口はすぐそこです。あなたは、僕を"知ってますか?" 僕に"害を加えますか?"」
長かった森の中の道程は終わりをむかえていた。日影の視界には森の出口が見えている。そして、そこから街まで歩いて三十分の距離だ。万が一にシェイドが誘拐犯だった可能性も含め、助かる可能性はグンっと上がった。
シェイドが誘拐犯の可能性はかなりの確率で低いと、日影は理解してるがゼロではない。それに、命の危機を救ってくれた恩人に嘘を並び立てるのは心情に悪かった。なので、結果がどうあれ"自分で選択し選んだ"日影は、立ち止まり問いかけた。
後ろを歩いていた日影、もといヒカゲが立ち止まった事に気づいたシェイドは振り返り立ち止まる。背後には森の出口、境目がある。森の出口間際で立ち止まったヒカゲにシェイドは少しの警戒を滲み出しヒカゲの言葉を聞いて答えた。
「あっ? なに言ってんだ? ...街に行ってねぇ?...洞窟? お前がずっと背後にいて警戒してたのは、"ソレ"が原因かよ....はぁ...んで、オレの言葉をお前は信じられるのかよ? 正直、訳わかんねぇんだけど」
シェイドからしたらごもっともな意見だ。だが、日影にとっては自分の安全が、命が天秤にかけられてるのだ。互いに思うとこは違って当然だろう。
日影は自分が問いてる言葉がシェイドにすべて伝わってるとは思っていないが、シェイドは解ってくれていると信じてる。信じていると、信じたいのが正直な気持ちだった。だから、シェイドが返した言葉に答えた。
「信じます。だから、答えてください。僕は...僕は死にたくありませんからぁっ!!」
日影は言葉に自分の意思を乗せて言葉にした。
シェイドは、なんの茶番だと思いながらもちゃんと聞いていた。ヒカゲの意思を乗せた言葉を。
「.....はぁ....ホラよっ。とりあえず、この辺はもう安全だ。お前がどんな事情を抱えてるのかは知らねぇが、オレはお前に危害を加えない。だから、ソレを持ってついてこい。話は街で聞いてやるよ、たくっ。とんだ一日だぜ....はぁ」
シェイドは、装備していた剣を外し日影に投げ渡した。日影は、足元に落ちてきたシェイドの剣を涙を浮かべて見つめた。
シェイドは、剣を投げ渡したあとぶつくさと小言を言いながら森の出口へと向かって歩いていった。そして、少しの距離を離した背後からシェイドの剣を持った日影がついてきた。
のちに、ダレアナの門兵に質疑を受けた日影はシェイドとともに、門に隣接する警備室へと入り事情聴取を受けたがーー
『ギャハハハハッ!! 真っ裸かよっ! ギャハハハハッ、しかもちっちぇしっ! ギャハハハハッ!ーーーーイッテェェェッ!!』
警備室から大爆笑の笑い声が聞こえ、さらにシェイドの叫びが聞こえたのは自業自得と言えるだろう.....。
日影にとっても、とんだ一日だぜである。
明日も投稿します。