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ワールド・ロジック~黒人の歩み~  作者: 紫煙の作家
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NO5 赤髪と思い

 もう少しで街に着くと思います。

           No5




 立派な木々で覆われた森の中をあてもなく歩いている。森の中で方角を知る方法は幾つかある。まずは方位磁石で方角を確認する。今の手持ちの荷物にそのような物はない。


 腕時計の指針で方角を割り出す。短針を太陽に向け十二時の記しとの真ん中方向が南になる。今の手持ちの荷物にそのような物はない。


 夜空の星空で北極星を探し方角を知る。

 夜まで見知らぬ森で過ごすつもりは毛頭無い。水も食糧もないのだから。ついでに言えば衣服も。ボロいローブと古びたブーツはあるが。


 今歩いている森の中はわりと歩きやすい。もちろん、木の根が浮き出ていたり地面はデコボコしているが樹海と呼ばれるような場所や秘境と言えるような森の様相ではない。それらと比べれば十分に歩きやすいと言える。


 頭上を見上げれば瑞々しい濃緑の葉を繁らせている枝葉の隙間からは、陽の光が射し込んでいる。視界は明るく見通しも密林に比べれば十分だ。ただ、方角が分からないが。


 そんな森の中をどれだけ歩いただろうか? 時折聞こえる、鳥なのか獣なのかの声は日影に不安感と恐怖心を与えていた。

 それでも、森の中を歩かなければならない。生きるために。生きていたいと自分で"選んだ"のだから。足が痛くなっても、息が荒く疲れたとしても。喉が渇き水分がほしくなっても、腹が減ってきても。


 生きたいと自分が望んでいるのだから、歩みを止めるわけにはいかない。


 そして、世界は優しくない。世界は甘くはない。世界は日影のために動いているわけじゃないのだから。


 ガサッガサッ!ーーガササッ!


 茂みの掠れる音が聞こえ、音の鳴る方に視線を向ければ茂みから現れたのは日影の知識にはない獣だった。

 現れた獣は大きい。記憶内にある大型犬の二回り以上はあった。四足歩行で犬や狼に似た体毛があり、牙があり、爪があった。見た目から分かるように口から生やした牙は鋭く長い。噛まれれば一撃で死に至るだろう。足先から伸びる鋭い爪に首を裂かれれば絶命し、腹に受ければ内臓はこぼれ出し痛みに悶えながら絶命するのはすぐに想像できた。そんな獣は唸り声を鳴らし日影を威嚇してくる。明らかに肉食獣であり捕食者だと分かるものだ。


 グウルルルッ!


 日影は内心で怯え恐怖するが常時握りしめていた小石に意識を集中し、視線は獣から離さない。すでに、生死の選択は迫られているのだから。


 日影の思考はすぐに加速する。そして、あらゆる選択肢が脳内に浮かぶがどれもが"死"という結果に繋がっていく。生きるには倒すしかない、殺すしかないと、心の声は日影に伝えてくる。


 ゆっくり時間をかけて生き残れる選択肢を考え出したいが、そんな時間はない。日影の目の前に現れた獣は動き出していた。右に左にと動き獣の視線はエサである日影を観察し、次の瞬間には日影に向かって飛びかかってきた。


 その瞬間ーー影が横合いから出現した。

 最初に知覚できたのは、影だけだった。すると、それは"人"だった。ただし、赤い髪をした人だった。それから、すぐにさきほどの獣に日影は意識を向けた。自分に飛びかかってきた獣はどうなったのかを。


 獣は、首と胴体が別れて血を垂れ流し倒れていた。日影はソレを確認し呆然としていた。ほんの数瞬前に襲ってきた獣が次の瞬間には首と胴体が別れ死んでいた、いや殺されていたのだから。


 赤髪の男は、呆然としている日影に声をかけた。

 「おい、大丈夫か? 悪かったな獲物を横取りして。だが、最初に見つけたのオレだったんだよ。ちょっと"遊んでた"らソイツが逃げちまってな。一杯奢るから勘弁してくれ」

 赤髪の男は軽い口調でそう日影に声をかけるが、日影には届いていなかった。


 赤髪の男は、返事がない日影の姿を見てもう一度声をかける。

 「おいっ。大丈夫か? お前、危なかったのか?」


 日影はようやく自分に声がかかっているのに気がついた。

 「えっ?...あっ、はい...だ、大丈夫です。ありがとうございました」

 返事をしたあとにお礼の言葉を赤髪の男に伝えた。この男がどんな人物なのかは分からないが、命の危機だったところを助けてくれたのだ。お礼の言葉は自然と出た。実際には赤髪の男の"遊んだ結果"で日影の命の危機になったのだが、最初の言葉を日影は聞き逃していたので状況を知るよしもないわけである。


 「おっ、やっと返事が返ってきたな。で、とりあえず先にコイツを解体しちまうからちょっと待っててくれ。依頼はコレで終わりだから、街に戻ったら一杯奢るぜ!」

 赤髪の男はそう言うと、すぐに獣の解体を始めた。


 日影は、今の会話を反芻し理解しようとするが分かったのは誰かしらの依頼で獣を狩った事と街に連れていってくれる事だった。

 だが、それだけで十分だった。赤髪の男が街に連れていってくれる事が何よりも今は一番嬉しい事だったのだから。


 日影は近くの木の根に腰を下ろし赤髪の男の解体を眺めつつ、今後の展開を考えていた。


 この時点では、考えてもいなかったが赤髪の男とは長い付き合いになる事をしらずに。


 獣の解体が終わりすでに陽の光は翳り始めていた。森の内部は森に入り始めた頃よりもだいぶ薄暗くなっていた。

 赤髪の男は、『待たせたな、行こうぜ!』と日影に声を掛けて歩き始めた。日影は赤髪の男と一緒に歩き始めた。



 日影と赤髪の男は立派な木々が立ち並ぶ森の中を少し早足気味に歩いていた。日影は黙々と赤髪の男についていった。まだ、素性も人となりも知らない男の後ろを。

 もしかしたら自分をあの洞窟に閉じ込めた人物なのかと、命の危機を救ってくれた事には感謝するが一緒にいて危険はないのかと、いくつもの疑念や思いが浮かび挙がる中で。


 疑念を浮かべつつもこの森の中を一人で居ることは出来ない。さっきのような獣がまた現れたら次は確実に"死ねる"からだ。

 自分が思っている以上に体が動かなかったと、日影は思っている。なんとかなると、思っていたのだ。なんの根拠もないのに。

 岩肌に投げつけた小石の力は日影に驚きを与えたが、いざ命の危機に直面すれば体が強ばり思考は停止する。それが、普通で"今の"日影だった。


 赤髪の男は、森の中で出会った男のことを考えながら森の中を歩いていた。もちろん、周囲には警戒しながらだ。

 自分が遊びすぎて獣を逃がしてしまったのは、良くあることだがまさか逃がした先に人が居るとは思っていなかった。

 この森は、"それなりに危険な森"で知られていたからだ。その危険な森は周囲の人なら当然の常識だったからだ。子供や大人なら誰もが知ってる。死にたくなければ森に入るな、入るなら死ぬ覚悟をしろ、と誰もが知っている。なのに見た目から装備は皆無で、容姿はまだ子供にみえる男。ボロいローブを羽織り一人で危険な森にいたのは腑に落ちなかった。さらに、言えば怪しさ感じていた。


 今も淡々と特に喋りもせず自分の後ろを一定の距離を開けながら"平然"としてついてくる事に疑問を感じていた。いつもより早い進みであるが子供が息を切らせずに平然と歩き続けられのは可笑しいと。もちろん、陽が傾いていて早く街に帰りたい気持ちもあって歩く速度があがっていることも否めないが。

 成り行きで見知らぬ男(見た目子供)に背中を向けるのは、危険な行為だが自分の実力ならどうとでも出来ると赤髪の男は自負し然程それは気にしていなかった。


 赤髪の男は早足で森の中を歩く。普通なら息が上がり体力が削られ疲れる速度で。だが、後ろをついてくるボロいローブを羽織った男はひたすらにピッタリとついてくる。とくに怪しい仕草や行動を起こしたりもしていない。


 赤髪の男は色々と考えていたが徐々に考えるのをやめた。難しい事を考えるのはもともと性に合ってないのだから。分からなければ聞けば良いと、警戒しても得るもの何もないと判断して歩みを遅くし背後に声をかけた。




△▼

 日影に敵意を持って襲ったブサイク盗賊達は、結果的に二人を殺し五人は見逃された。

 ブサイクその1は最初に殴り殺し、ブサイクその2は逆上して斬りかかってきたので首筋に蹴りをくらわし首骨を蹴り折った。殺す覚悟があるなら"殺される覚悟"も持ち合わせてなければならない。


 自分がただ上位の存在だと愚かな認識をして下位の者をただ威嚇し、敵意を向けるのは馬鹿な行いだと死んでから気づいても遅いのだ。そして、人は往々にしてそんな馬鹿がそこらじゅうに存在している。

 世界が変わっても人の在り方はたいして変わらない、と日影は思いながら。


 ブサイク盗賊達のブサイクその3は、日影の言葉に耳を傾けすぐに武装を解除した。さらに、気を失っている四人の武器も取り外した。

 日影は、ブサイク盗賊達の武器を"収納鞄"に納め殺した盗賊と他五人の有り金も手に入れてから街道をまた歩き出した。


 決して、日影自身が盗賊ではない。あくまでも被害者(先に手を出したのは日影だが)なので更なる被害者を出さない為の処置と慰謝料を貰っただけだと認識していた。


 陽が傾きつつある中、ようやく夜営出来そうな場所を見つけ準備を始めた。一人用のテントを張り薪に火をつけ食事を用意する。テント周りには簡易的な"対物避け魔導具"を設置し多少の安全を確保する。


 魔導具とは、この世界の魔法技術と魔導技術を合わせて作られた導具だ。魔導具を作動させるには"魔獣"から手に入る"魔核"を使用する。魔核には魔力が蓄積されている。その魔力を動力エネルギーにして魔導具を作動させている。


 魔導具には様々な導具が存在する。この世界の生活に欠かせない導具や施設の運営に必要な導具、それにこうして旅に便利な導具や身を守る導具。なかには、殺傷能力を秘めた導具や魔法の補助に使用する導具など多岐に渡る。


 その製作技術力は高く専門的知識や技術を要し、それ専門の技術者は職を生業としている。総じて、魔導職人である。その他にもこの世界特有の専門技術職は存在し、世界の人々は魔導技術を礎にして暮らしているのだ。


 日影は魔法という未知の力に戸惑い困惑したがほどなくして適応していく。正確には適応しなければ生活が不便だっだ。多少の不慣れや苦労した事は少し懐かしく思っている。


 そんな苦労があり今はその恩恵を受け、こうして獣や魔獣が蔓延る世界で星空のもとで暖かい食事が出来ているわけだ。



 「まだまだ俺は"生きていたい"。ちゃんと自分の意思で選んで生きていたい。もっと世界を知り、そして"自分を知るまでは"。.....明日は街の宿屋で寝たいな」


 満点の星空、色とりどりの宝石を無数に散りばめたようなきらびやかな光を放つ壮大な星空を見ながら、日影は呟き夜は更けていた。


 このような感動に慕っている中でも世界は動き廻っている。日影の思いも日影を"この世界に目覚めさせた者"の思いも、そして"この世界を静観してる者"の思いも。生きとき生けるすべての存在に関係なく世界は廻っているのだ。




 赤髪の次は何色の人物が現れたのですかね?


 明日も投稿します。

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