No4 謝罪と二択
無双に思えるかも知れませんが、無双劇を描いていくつもりはありません。
No4
日影は、拾って集めておいた小石を右手で握りしめた。この洞窟内から出たあと誘拐した連中に対抗するために、今は少しでもシミュレーションをしておく必要がある。さっき確認した限り誘拐犯は見当たらなかった。ほんのりと光が射し込んでいる岩肌を背にして、洞窟内の奥に向かってピッチャーがボールを投げるように日影は握りしめた小石を投げつけた。
ヒュッ!ーーードッゴォーーンッ!!
風を切るような音が耳に聞こえたと思ったら、奥の岩肌の壁が爆発したかのように破片を撒き散らしふっ飛んだ。その衝撃と同時に日影は咄嗟に頭を腕で抱えその場にしゃがみこんだ。
それから数十秒ほど経ってから何が起こったのかと、呆けている頭の思考を回転させた。
「.....なっ、なんだ? 小石を投げただけだろ??」
しばらく、しゃがみこんだ態勢で考えたがハッキリと理解は出来なかった。それよりも今の衝撃と音で見張っているかもしれない連中が来るかもしれないと思いついた。
「っ!!! マズイッ!」
すぐに岩肌の隙間から外を確認する。息を潜め、数分? 数十分? 体感での時間は長く感じていた。どれだけの時間が経ったかは分からないがジッと待っていた。右手に小石を握りしめながら。
だが、いっこうに誰かが来る気配はない。視線の先には立派な木が見えるだけだった。
「.......ふぅ...とりあえずは安心か?」
少しだけ安堵し一息ついた。しかし、警戒は怠らない。いつ、誰が来るかも分からないのだから。そして、さっきの出来事を理解しようとするが推測だけが脳内に浮かび上がるだけで答えはでない。であるならば、もう一度やってみるしかないだろうと考える。
小石を投げただけで岩肌が爆発する行為をもう一度やるのは正直なとこ、内心ではかなりビビっていた。それは、そうだろう。自身の記憶をいくら掘り起こしても"小石を投げたら爆発した"なんてバカな現象を起こしたのは一度としてないのだから。そんなのは、アニメや漫画だけの中での話だと内心で思いながら。
だが、やらなけばならない。この場所から出る為に、自分の命を守る為には。今出来る手段はこれだけなのだから。と、そう日影は自分に言い聞かせながら。
洞窟内には大小様々な岩の破片が地面に散らばっていたので、動かせる岩だけを端へと動かした。そして光が射し込んでいる岩肌から十メートルぐらいの距離をとり出来る限りの安全を確保する。
「これ以上は距離がとれないのは仕方ない。とりあえず、小石を投げたらすぐにしゃがむ。すぐにしゃがむ......よし、やるぞっ!」
脳内でこのあとの行動をシミュレーションし、言葉を口に出して二度確認した。とにかく、爆発に巻き込まれるわけにはいかない。岩の破片の当たりどこが悪ければ死ぬかもしれないのだから。
そして、さきほどと同じように右手に握った小石を振りかぶり岩肌の壁へと投げた。若干、勢いを押さえながら。
ヒューンッーーードゴォーーンッ!!
結果はさっきより衝撃も爆発力も抑えられたものだった。先ほどは投げつけた小石の衝撃力が分散しなかった為にずいぶんと大きな爆発が起こったのだろう。もちろん、投げつけた力が弱かったのも作用している。
小石を投げつけ、すぐにしゃがみこんだ俺は思っていたほどの爆発が起きなかった事に安堵し岩肌に視線を向けた。すると、陽の光は洞窟内を照らしさらに外に見える立派な木々を確認した。
「やっ...やったっ! よしよしっ!」
自然と歓喜の言葉が口から出た。そして、気がつけば小さなガッツポーズをしていた。ほんの少しの間の喜びを感じたあとすぐに警戒態勢に入った。こうして二度の爆発音を出したのだから、自分を連れて来た連中がどこかから戻ってくるかもしれないと考えたからだ。
吹き飛んだ岩肌の端に身を隠しながら見える範囲内を確認する。もちろん、右手には小石を握りしめてだ。
二度も経験すれば理解する。小石が武器になると。実際には、日影一人の身体能力が常人の域を逸脱し力加減を間違えているのが原因なのだが、現在の日影は理解していなかった。
小石を投げつけた衝撃力があの爆発を起こしていたとは。
一般的な人は警戒状態での集中力は長時間持たない。体感で数分ほど警戒した日影は洞窟内の壁際に腰を下ろした。
「....さて、一度落ち着こう。まずは、冷静に考えるんだ」
周りの状況や自分が通常ではない事態になってる時に、言葉にすると落ち着くのは精神を安定させる手段の一つだと以前読んだ本に書いてあったのを思い出す。
そして、現在に至るまでの状況を整理していった。この時に甘いものや飲み物が欲しくなったのは少しずつ精神状態が落ち着いてきた結果だとポジティブに考える。
脳内では数多くの疑問や現状に対するあらゆる可能性が思い浮かんでは消えていっていた。そして、今するべき事に優先順位をつけていく。
まずは、洞窟内から脱出し人が居る場所を目指す。さらに、水または食糧の確保に衣服の調達。出来ればすぐに衣服は欲しいところである。
次に、情報。自身の事や現在地。爆発する小石などといった確認できる情報はすべて。
他にもまだあるが最優先するのはこれぐらいだと決めた。
そうと決めればすぐに行動を起こす。
「よし、手に持てる小石を確保したら行動しよう」
洞窟内に散らばっている小石を集め始めようと周囲を確認した時に新たなる問題が見つかった。
洞窟内は陽の光が差し込み暗闇はずいぶんと少なくなっていた。そして、洞窟内の奥の端、大きな岩の破片に隠れるように一つの白骨体が日影の視界に入ってきた。
その白骨体はすでにボロボロだった。最初に日影が起こした小石の投擲練習の犠牲になったのだろう。衝撃でふっ飛んだ岩の残骸が白骨体にあたり、白骨体は原型を留められなかったわけだ。
日影は洞窟内を一度確認しているが当初は陽の光がここまで明るく照らしていなかった為に、見を落としたのは仕方ないといえる。
視界に入った白骨体へと近寄って確認する。その白骨体は、ボロいローブらしきものを纏っていた。ボロいとはいえ、裸を隠せるローブが手に入るなら手にいれたいと考えるの今の状況なら普通だろう。誰が好き好んで裸一貫で外を歩きたいと思う。そんな特殊性癖は持っていない。
野外プレイにちょっとだけ興味がある事を、心の宝箱にしまってあるのはここだけの秘密だが。
日影は白骨体へと向かって歩き近づく。
「...ずいぶんと昔に死んだのか? 餓死? それと、殺された、のか?」
いくつかすぐに可能性が浮かび上がるがボロボロの白骨体での原因究明は困難だろう。たとえ完全な状態でも検死は出来ない。日影にその知識は無いのだから。
白骨体の傍でしゃがみ手を合わせて冥福を祈ったあとは、白骨体の所持品を漁った。身に纏っているボロいローブに小さく古びた鞄、古びた革ブーツ。さらに、ボロい革手袋に腐食している指輪に腕輪も。
白骨体から所持品を漁るのは、目に余る行為だと自覚はしている。倫理的観点から見たら罵倒されても仕方ない行為だと。だが、今の日影の状態を考えたら藁にもすがる思いなのではないか。と、考えるのは詭弁か。
「...すみません...」
一言だけ謝罪をしたら、日影はその場をあとにした。その時、岩の破片が散らばる地面にうっすらと紋様のような"陣"が描かれていた事に気づけなかったの日影の落ち度か? それとも、次々に起こる問題に対して冷静ていろと言うのが可笑しな事なのか?
△▼
小石を投げつけたら地面が衝撃で爆発したっ! なんてのは、体験すれば誰もがビビるか驚くだろうよ。実際に俺はビビったしな。
まぁ、投げつけられた方はそれ以上にビビるだろう、と俺はそう思いながら小石を投げつけて地面にクレーターが出来た場所へと歩いていった。
その場所には四人の男が転がっていた。さらにその後方、俺からしたら前方だが。街道の少し先の左右の茂みから二人の男が手に剣を持ち、一人が弓を持ちながら飛び出してきた。
"探知"に最初に反応したのは四人。さらに、三人を視認した計七人。風貌からして野党に見えるのは明らかだ。少し前に馬車とすれ違ったがその馬車に異変はなかった。チラ見した限りでは。運良く野党に遭遇する前だったのか、または違う理由なのかはわからないが。
二年程この世界に住んで学んだ一つに野党が存在する事は知った。そいつらの"命が軽い"事も。
(旅に野党、もとい盗賊は付き物だが....しょうがないよな? 自分が"選んだ"んだから)
俺は内心で溜め息を吐きながら盗賊と思える連中に向かって歩いていく。
「おいっ! てめぇか、コラァ! 何してくれてんだ、コラァ!!」
盗賊の一人が近寄ってきた俺に定番、テンプレ通りの威嚇をしてきた。
俺はテンプレ台詞をスルーし話し出した。
「一応確認しとくけど、お前らは盗賊か? 間違ってたら治癒薬はやるし、謝罪金も用意すると約束するよ。まぁ、その風貌から一般人には見えないが?」
盗賊たちの姿は、簡易的な布服に革装備、そしてありふれた片手剣に弓。背丈は俺より高く約百八十センチ前後の悪人面が二人と悪人面でブサイクな小柄な男が一人。あとは、いまだに地面に転がってる男が四人。こっちは、顔が見えないが多分、ブサイク。盗賊をブサイクの一言で片付けるのは興味が無いのと盗賊でイケメンをまだ見たことないからだ。
なかにはイケメンの盗賊がいるかもしれないが、まだ遭遇した事はない。
「ぁあんっ! なに余裕くれてんだ、コラァっ! ガキが調子に乗ってんじゃねぇよ!」
フザイク男その1が、声を荒げる。テンプレ通りで期待を裏切らない台詞。五十点。
「てめぇは、身ぐるみ剥いでイタぶったら奴隷行きにしてやるっ! 顔だけは綺麗な状態にしてやるからよぉっ!」
ブサイク男その2が、説明してくれた。聞いてないけど答えてくれてありがとう? 三十点。
「あっ、アニキぃ! こいつらは気を失ってるだけみてぇだけだっ! とりあえず、息はしてるっ!」
小石の一撃でふっ飛んだ場所で生存確認する小さなブサイク男その3。仲間を大事にすることは好感が持てる。七十点。ちなみに、力は加減はしたから。
ギャアギャアと言いたい事を言っている盗賊の言葉を右から左に聞き流し、もう一度言った。俺には目的地があり、無駄に時間をかけてるヒマは無い。すでに、陽が傾き始めているのだから、早めに野営できる場所を探したい。
「おい、お前ら盗賊で良いんだよな? ヒマじゃ無いんだから答えろよ」
内心で確認なんてしないでさっさと片付けしまいたい気持ちを抑えながら問いかけた。そして、その問いに答えたのはブサイクその1だ。
「ガキだからと言って甘くしてもらえる思ってんじゃねぇだろうな、あんっ? 俺らが盗賊だったらなんだってんだ? てめぇ、一人でーー」
ブサイクその1はその言葉が"最後の言葉"になった。
バゴォッ!
その音が響いたと思ったら喋っていた盗賊のブサイクその1は数メートルほどふっ飛んでいた。そして、その場に立っていたのはさっきまで話掛けれていたガキと呼ばれた俺だった。
俺は、ブサイクその1の言葉を最後まで聞く気は最初からなかった。こいつらが、盗賊だと確認できればそれで良かったんだから。
ブサイクその2とその3に視線を向ける。その2とその3は、なにが起こったのか分からずに目を見開き、口を開けブサイクその1の倒れている姿に視線が釘付けになっていた。
俺は、"目にも止まらない早さで動き殴った"なんて、今のコイツらの状態じゃ理解出来ない事は分かっていた。なので、呆けているコイツらに声をかけた。
「なぁ...正直なトコ面倒なんだよな? 今なら、武装解除すれば見逃すけど、どうする?」
ブサイクその1は、仕方ない。こういう場面ではみせしめが必要だから。なにも好きで"人殺し"をしてる訳じゃない。ちゃんと、聞いた。"盗賊なのか?"と。そして、選べるようにしてるんだから。
俺の声を聞いた二人は、驚きで一瞬体をビクつかせてから言ってきた。
「てっ、てめぇっ! なっ、なにしたっ!? なんで、ガンツがふっ飛んだっ!?」
と、ブサイクその2は、手に持ってる剣を構えながら喋った。と、同時に数歩ほど後ろへと下がりながら。
「ガ、ガンツのアニキがっ....」
いまだに気を失ってる四人の傍に居るブサイクその3は、狼狽えながら言葉を発する。小刻みに体を震わせながら。
二人を見れば明らかに動揺し、訳も分からない恐怖を感じているのはわかった。そして、またも俺の言葉を理解していないのだと。
「はぁ...俺がコイツを殴った。で、ふっ飛んだ。ここまでは、いいな? でだ、武装を解除すれば見逃す。来るなら殺す。二択だ、今すぐ選べ。さっきも言ったがヒマじゃないんだよ」
ため息を吐いてから最後通牒を告げた。
このあとの展開は、俺の想像通りになった。
明日も投稿します。