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青天の霹靂

 それから一夜明けた。

 有希に家を建てるとは宣言したものの、家が建つまではまだこのマンションで暮らしていく。

 みな子の二人目の妊娠を機に鈴村家も家を建てる決断をしたようだが、高志たちと同様、家が建つまではこのマンションで暮らしていく。

 鈴村家が引っ越していくくらいまでは、変わらない日々が続いていくと誰もが思っていた。

 その日はみな子が産婦人科の定期検診に行くため、保育園の規定で竜一郎を預けることができないため、高志たちは、竜太さえ職場に送り届ければいいという、いつもよりも平和な朝だった。


 いつものように仕事をしていると、終業前に外線から電話がかかってきた。

 電話を取った職員が、「鈴村さん、電話です」と、電話を竜太に回した。

「もしもし、鈴村です!はい、みなちゃんの旦那様です。はい……え?」

 電話を受けた竜太は突然受話器を取り落とした。

「どうしよう……」

「どうしたんですか?」と、一応竜太を気遣いながら、高志は竜太が取り落とした受話器のほうが気になっていた。

「みなちゃんが……みなちゃんが……」

 これは、竜太とは会話にならないと悟った高志はまだ相手が通話を切っていないことを祈りながら受話器を取ったが、既に通話は切れていた。

 竜太はめそめそ泣きだしている。

 そこへ再び、外線から電話がかかってきた。

 慌てて高志が受話器を取ると、「あ、高志君、よかった、バカ旦那が出たら話にならないと思って」と、みな子の元気な声がした。

 泣くほどの状況ではなさそうだと高志はほっと胸をなでおろしながら、みな子に、どういう状況なのか確認した。

「何だか切迫早産疑いみたいで、入院することになっちゃって……」

 みな子の病室に持ってきてほしいものの話と、仕事の引継ぎなどを簡単に終えると、高志は受話器を置いた。


 電話が終業前でよかったと思いながら、みな子の仕事の引継ぎをわかるようにメモに残して、高志は、泣きすぎて廃人のようになった竜太を連れて、まずは清花を迎えに行った。

「みな子さん、赤ちゃんがせっかちさんで入院なんだね」

 清花のほうが現状をちゃんと理解していた。

 清花を迎えに行くと、当然のように清花は高志と手を繋ぐ。

「清花ちゃん、今日は、僕も、心を落ち着けるために手を繋いでもいいかな?」

 竜太が鼻息荒く言い出したので、思わず、高志は二人の間に割って入って、「じゃあ、僕とつなぎますか?」と言った。

 竜太は、「じゃあ、いいや」と、一人でとぼとぼ歩きだした。

 そして、「よし、有希ちゃんが来たら手を繋いでもらおう!」と、竜太は一人で張り切っていたが、つい先ほど、清花のもとに、先に、必要なものをもって病院に行っていると有希から連絡があったことは二人とも黙っておくことにした。


 案の定有希とは合流することなく、病棟に到着した。

 かわいい看護師さんの姿を見つけて、竜太が急に機嫌を直して、「あの、鈴村みな子ちゃんの旦那様です!」と元気に言った。

「鈴村さんなら奥の部屋ですよ」と、可愛らしい看護師さんに言われて、竜太はデレデレしながら一番ナースステーションに近い部屋の扉を開けようとした。

「鈴村さん、そこ、面会謝絶って書いてありますよ」

「そんな!みなちゃん……!」

「竜太さん、みな子さんのお部屋は一番奥だよ」

 高志は半ば引きずるように、竜太を病室へと連れて行った。


 病室に着くと、既に有希と雅之が病室にいた。

 どうやら、みな子は雅之にも連絡をしていたようだ。

「なんだよ!雅之君!先に有希ちゃん攫っていくなんてずるいよ!僕、有希ちゃんと手を繋ぎたかったのに!」

「ちょうど、非番で近くにいたし、車もあったので、有希と一緒に入院に必要な荷物を持って行っていたのですが、何なら僕と手を繋ぎますか?」

 雅之に手を差し出されて、手をひっこめた竜太は、みな子に力強く手を握られていた。


 少しすると、見慣れない人たちが現れた。

 どうやら、みな子の両親のようだ。

「保育園が、私が休みを取っていると預かってくれないから、竜一郎、預かっていてくれない?」

「あら、そうなの?竜ちゃん、おばあちゃんとおじいちゃんのお家でお利口にできるかしら?」

「できる!」

「できる!」

 竜一郎とともに、何故か竜太まで元気に返事をした。

「竜太さんは絶対いりません!」

 義父母に断固拒否されて、竜太はさらにへこんだ。


 このみな子の入院が、臨月になるまで長引くことはこの時誰も予想していなかった。

 ちなみに、みな子さんの両親が竜一郎があまりにも手が付けられなくて病院に連れていく→おなかの中で弟がツッコミ→でそう→入院継続の無限ループが臨月まで続いたようです。

 この件での一番の被害者はみな子さんのご両親でしょうな。

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