新しい生活
四月になってから、高志と清花の生活は少しだけ変わった。
みな子が、息子の竜一郎を保育園に預けて、復帰することになったのだ。
高志の職場としては、即戦力かつ竜太の手綱をきちんと握っていてくれるみな子が戻ってくるのは大変ありがたいことなのだが、鈴村家の朝の大変さとみな子の怒号は何倍にも膨れ上がっていた。
朝の限られた時間の間に、竜太を起こすだけでなく、竜一郎の準備まで整えなければならないのだ。
戦場とも呼べるようなその場所に、今日も高志と清花の夫婦は足を踏み入れる。
なぜならば、朝食にありつけるから。
そして、もう一つ大きな理由があった。
「竜ちゃん、おはよう!」
「さやかおねえちゃん、おはよう!」
「清花ちゃん、おはよう!」
似たようなどや顔で竜一郎と竜太が目を覚ました。
清花がくると、二人の目覚めがかなり良いのだ。
どうやら、竜一郎も竜太に似て女好きのようだ。
「いーやーだー!」
竜太の支度を手伝っていると、隣の部屋で、竜一郎が暴れているようだった。
「どうしたの?」
慌てて部屋にやってきた清花に、高志が事情を聞くと、「オムツ履きたくないって竜ちゃんが……」と、清花が困った顔をしていった。
高志が、ちょっとしたことを思いついて清花に耳打ちすると、清花は、いたずらっぽい笑顔を見せて、隣の部屋に戻っていった。
「オムツ履いた竜ちゃんが見たいな!」
高志が教えた通りに清花がいうと、「しかたないなぁ」と、竜一郎が上から目線でオムツを履いたようだ。
「僕だって、パンツはいたもんね!」と、竜太が乱入していったのは、計算外だったが、どうやらみな子の一撃でノックアウトされたようだ。
「竜ちゃん、ズボンも履いたらもっとカッコいいのになぁ」と、これも、高志が耳打ちした作戦の続きだったのだが、どちらの竜ちゃんにも著効したらしく、竜太が、ズボンを履きに戻ってきた。
朝食まで一緒に食べると、高志と清花の二人は別行動をとる。
清花よりも美人な保育士さんがあまりいないため、保育園に預けるのにひと悶着になってしまうからだ。
その代わりに、帰りのお迎えは、高志と清花も一緒に行く。
最近は、清花の美貌をもってしても、お迎えの時に竜一郎が駄々をこねることが増えた。
「オレ、もうちょっと、さやかおねえちゃんとさよおねえちゃんとあそぶ!」
それは、同じ保育園の一つ上の学年にかわいいお姉さんたちを見つけてしまったせいだ。
きりっとした目元で、しっかりものの、平山さやかちゃんと、ふんわりした優しげな雰囲気で、栗っとした目元が可愛らしい山口紗代ちゃんだ。
保育園から帰るといってきかなかった竜一郎を二人が止めてくれたところから、仲良くなった、というより、竜一郎が一方的に好意を寄せたらしい。
ここ最近は、二人のお迎えが来て初めて、泣きじゃくる竜一郎を連れ帰るパターンが多い。
今日もそのパターンだなと、覚悟を決めていると、さやかちゃんと呼ばれていた女の子が、「悠悟!翔悟!」と不意に叫んだかと思うと、双子らしい色違いの服を着た男の子が現れた。
「竜一郎!僕たちとも遊ぼうよ!」
「遊ぼうよ!」
双子は、整った顔をしている。
竜一郎が竜太の血を色濃く受け継いでいると、男も行けるかもしれない。
高志は一抹の不安を覚えた。
竜一郎は、目の前に現れた双子と、清花を見比べた。
二人の美少女は双子によって見事に隠されていた。
「オレ、かえるし」と、あっさり言うと、竜一郎はどや顔をして清花の手を握りしめた。
どうやら、竜一郎は生粋の女好きのようだ。
竜一郎の姿が見えなくなるまで、双子は美少女を隠したままだった。
翌日からは、さやかちゃんが咳払いをしただけで双子が現れるようになった。
このさやかちゃんという子は相当切れ者だな、と、高志は感じていた。
もう一つ、変わったことがある。
雅之が警察官の試験に受かり、警察学校に通うために、出ていったことだ。
なぜか管理人さんが、「雅之君が部屋に戻ってくるまで、ここはそのままにしておく!」と、息巻いていたため、きっと、半年の警察学校の期間を経て戻ってくるのだろう。
雅之は力持ちなので、駄々をこねて動かなくなった竜一郎や竜太を持ち運ぶときに大変助かっていたので、半年後に戻ってくるというのは、みな子や高志にとっては一筋の光のようなものだった。
雅之が住んでいた部屋の扉を通り過ぎて、高志と清花は鈴村一家と別れた。
「この前、有希ちゃんにマサ君のこと話したとき、なんか、反応薄かったね」
清花が、家主のいない部屋の扉を見ながらむくれた。
「マサ君の彼女なのに!」
「まあまあ」と、高志は清花をなだめながら、「有希ちゃんのことだから、もう聞いていたか、照れ隠しじゃないかなぁ?」と、言った。
「そっか、有希ちゃん、恥ずかしがり屋さんだもんね」
清花は納得してうなずいた。
二人は、有希と雅之が偽恋人だと、ましてや、有希は別れたつもりでいることなど知る由もなかった。




