表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/42

乱入者

 高志と清花は、結婚式の当日を迎えた。

 有希が留学してしまう前にと、大急ぎで準備して、何とか間に合った。


 結婚式は、親族のみのこぢんまりとしたものだった。

 それでも、二人は幸せそうで、とても温かい雰囲気だった。

 互いが、誓いの言葉を言い、誓いのキスをしようとしたその時だった。

「待て!」と、扉が開いた。

 それは、高志に告白してきた梨紗子でもなく、清花にセクハラを働いた元班長でもなく、二人のどちらかに、秘密の恋人がいたというわけでもなくいずれにも該当しなさそうな、壮年の男性だった。

 それは、いつか見た、清花の父親とも風貌が違った。

 男は、ぼろぼろの服を着ていて、髪もぼさぼさだった。

 男は、ギロリと清花の方を睨むと、言った。

「二宮清花!お前のせいで、俺は、刑務所に入れられたんだ!俺の人生を台無しにしておきながら、自分だけ幸せになれると思うなよ」

 それは、清花を殴って警察に入れられた、元担任だった。

 男の手に何か光るものがあった。

 刃物だ!

 高志が清花をかばうように前に立った。

 そして、その高志の前に、有希が飛び出した。

「お姉ちゃんの幸せを、邪魔させない!」


 清花が大けがを負ったあの日から、人生のほとんどを清花に捧げてきたと言っても過言ではなかった。

 姉を煩わしく思ったときだってあったし、きつい言葉をかけたこともあった。

 それでも姉は笑いかけてくれた。

 いつだって優しかった。

 いつも、笑顔でいてくれた姉も、姉を幸せにしてくれる伴侶も、なくすわけにはいかない。

 初めて会った日の雅之とのやりとりを有希は思い出していた。

 そうか、私、本当にお姉ちゃんのことが大好きなんだ。

 有希は、覚悟を決めて目をつむった。


 だが、予想していた衝撃はこなかった。

 ドスンと音がして、目を開けると、何者かが男を取り押さえていた。

「有希、自分は大事にしなきゃ」と、何者かは言いながら、会場の人に「警察、呼んでください」と言った。

「有希、怪我はない?」

 その爽やかな微笑みに有希は、胸が高鳴るのを感じた。

「マサ……なんで?」

 有希は、男を取り押さえた何者かに向かって言った。

 男を取り押さえたのは雅之だった。

 雅之は、清花と高志の結婚式に招待されていなかったはずなのに、何故か正装してそこにいた。

「この次が、兄の結婚式だったから、たまたま、ね」

 そこで、たまたま挙動不審な結婚式場に似つかわしくない男を見つけて追いかけたらここに至ったらしい。


 清花の元担任の男は、縛り上げられていた。

 この男が警察に引き渡されるまで、結婚式の再開は難しそうだ。

 その時、つかつかと、男に近づく人物がいた。

 清花と有希の母だった。

 母は、男の胸ぐらをつかんだ。

「台無しにされたのはこっちよ!あんたが清花を殴ったから!あんたのせいで、清花は頭がおかしくなった!自慢の娘だったのに!あんたのせいで、家族はバラバラになったのよ!幸せだった家族を返してよ!まともだった清花を返してよ!……返してよ!」

 母親の目から、涙があふれてきた。

 有希は、こんな晴れの日にも、この人はこんなことを言ってしまうのか、と、呆れかえっていた。

 その母親の肩に、高志が手を置いた。

「お義母さん、清花さんは、知的障害が残ってしまいましたが、毎日を懸命に生きています。頑張って働いて、家事もして、笑って、泣いて、懸命に生きてます」

 母が、顔を上げた。

「それは、とても、まともな生き方だと思います。僕には、清花さんはまともに見えます」

 清花は嬉しそうにほほを染めた。

「だから僕は、清花さんのことが好きになったんです」

 高志にそう言われて、母は、うつむきながら元居た場所に戻っていった。


 しばらくして、警察が、清花の元担任の男を引き取っていった。


 そんな中、あまりにも自然に雅之が有希の隣に来ていたことに、有希以外誰も気づいていなかった。

 雅之は有希に小さな声で話しかけた。

「もしかして、ちょっとは僕にときめいた?」

「いえ、全然」

 ほんのわずかばかり胸が高鳴ったが、これはきっと吊り橋効果だと有希は自分に言い聞かせていた。

「ところで、留学するんだって?」

 雅之は、相変わらず声を潜めて有希に話しかけてきた。

「うん」

「高志さんから聞いて、初めて知ったんだけど……」

 雅之は不機嫌そうに言った。

 有希は押し黙った。

 元々、ニセの恋人なのだから、留学を機に別れたことにすれば良いと有希は考えていた。

 留学までには伝えるつもりだったが、留学費用を稼ぐためにバイトに明け暮れていてなかなか伝えられていなかったのだ。

「で、いつ行くの?」

「向こうが9月始まりだから、8月後半くらいかな」

「あと2ヶ月ちょっとかぁ」

 雅之は天を仰いだ。


 式が終わり、披露宴会場に移動するころ、「じゃ、可愛くドレスアップした有希も見られたし、兄貴を冷やかしてくるから、もう行くね」と、雅之は去っていった。

「あれ?マサ君は?お礼言おうと思ったのに」と、式のままの服装で、清花と高志が現れた。

「え?行っちゃったよ?そもそも招待してないじゃん」

「そうなの?」

「そうだっけ?」

 本日の主役二人ですら、雅之が招待されていないことに気づいていなかった。

 一方その頃、次の結婚式の新郎は、新婦が急患で遅刻してる上に、会場も前の式のトラブルで開かなくてまちぼうけておりましたとさ。

 新婦さんは急患に対応した後、ギリギリ滑り込みセーフを果たしたのでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ