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 クリスマスが終わると、世間は一気に新年を迎える準備が始まる。

 高志の会社も年末年始の休みに入った。

 高志は、自分の家の大掃除を終えると、及川家に向かった。

 女二人では届かないところや運べないものもあるだろう。

 案の定、脚立に乗って、危なげに有希が電球の傘の掃除をしようとしていた。

「危ないよ」

 ぐらついた有希を支えたのは、雅之だった。

「あれ?雅之君、自分の家の掃除は?」

「兄貴が、隅々までやってるので、下手に触らないほうがいいかなと置いてきました」

 まあ、本人がそう言うならいいかと思いながら、「清花ちゃんは?」と、有希に尋ねると、「自分の部屋の掃除してます」と、返事が返ってきた。


 高志が見えなくなったのを確認した有希は「いつまで触ってんの!ていうか、いつまでいるつもり?」と、有希は雅之に言った。

「いや、危ないかなって思って、そこの掃除、やるよ」

「質問、全部答えてないじゃん」

「一応、年越しは兄貴の家に帰るよ、腕によりをかけて年越しそばの下ごしらえしてるみたいだし」

「お兄さん、料理上手なんだっけ」

「うん、あれはいいお嫁さんになれると思う」

「お嫁さんでいいの?それ……」

「翠さんが男勝りだから、ちょうどバランス取れてると思う」

「そういうもんなんだ」

「有希は、初詣はお姉さんと行くの?」と、不意に、雅之は話題を変えた。

「ううん、どうかな?」

「じゃあさ、一緒に行こうよ」

「別にいいけど、その後私行くところあるから」

「マジで?着物着ていくの?」

「自分で着られないし、無理」

「そっか、残念」と、うなだれた後、「それでも、普段着でいいから、初詣は一緒に行こうよ」と、雅之は言った。

 雅之は雅之なりに、ニセの恋人を演じていてくれているのだろう。

 それも、あと少しだ、と有希は思った。


 年を越して、新年になった。

「高志君と、初詣行くけど、有希ちゃんも一緒に行く?」と、清花が聞いてきたので、有希は、「私は、マサと行くから」と断った。

 清花が高志と出かけて行ってから暫くして、インターホンの音がした。

「ごめんね、竜一郎が押しちゃって」

「あー!だー!」

「あけましておめでとう!有希ちゃん、今年も可愛いね!」

「あけましておめでとうございます」

「有希ちゃん、今年もよろしくね」

「あ、有希!お待たせ!」

 この絶妙なタイミングで、雅之が現れた。

「有希ちゃん、誰?このイケメン?」と、一番に聞いたのはみな子だ。

「有希さんとお付き合いさせていただいています、笹岡雅之と申します」

 その瞬間、竜一郎が泣き出して、みな子がとっさに、竜一郎を竜太に預けたため、竜一郎の泣き声が、さらに大きくなった。

「雅之君、有希ちゃんを本当に、本当に幸せにしてあげてね!こんな頑張ってるいい子は二人といないから、よろしく頼んだわよ!」

 みな子が、竜一郎が泣く中、雅之の手をしっかりと握っていった。

「もちろんです」と、雅之が手を握り返すと、みな子はほほを染めながら、「新年早々イケメンと握手しちゃった!さ、行くわよ!」と、竜一郎を抱っこしてエレベーターへと向かっていった。

「僕達も行く?」と、雅之が言ったが、「次のエレベーターにしましょう」と、有希は言った。

 あのまま同じエレベーターに乗り込もうものなら、神社につくまでずっと、二人のなれそめから何から何まで根掘り葉掘り聞かれるにきまっている。

 それに、有希も不意にインターホンが鳴ったので、着の身着のままで出てきてしまったので、せめて上着は持ってこないと寒かった。


 普段は閑散としている神社でも、初詣の時期だけは、行列ができる。

 この行列の中に、清花と高志がいるかもしれない、と思っていた矢先に、全く違う場所で、はしゃいでいる清花の姿を見つけた。

「あ、マサ君、あけましておめでとう!」

 清花は、雅之を見つけて手を振った。

 高志も、雅之に会釈した。

 二人はもう参拝を終えたのだろうかと有希は思ったが「じゃあ、お参りしに行こうか」と、高志が言ったのが聞こえて、さっきまでただ遊んでいただけだったか、と納得した。

 高志は、清花の気が済むまで、遊びに付き合ってくれているので、本当に、辛抱強いというか、すごいな、と有希は思った。

 有希だったらきっと、すぐに、お参りに来たんだよね、と、参拝客の列に加わってしまったことだろう。

「列、動いたよ」と、雅之に手を引かれた。

 近所の神社は並んでいるとはいえそこまでの混雑ではなかったため、15分ほどで、本殿に到着した。

 いつだって、願うことは一つだった。

 姉の笑顔が失われませんようにと。

 自分が守りますからと、神様に毎年誓っていた。

 でも今年は……。

 有希は、目に見えない神に手を合わせた。


 雅之と別れた有希は、ある場所に向かって行った。

 インターホンは押すべきだろうか、鍵は持っているけれど……。

 そう思いながらも、インターホンを押した。

「あら、有希、どうしたの?新年早々来るなんて珍しいわね」

 あ、あけましておめでとうって言わなきゃね、と付け加えながら有希を迎え入れたのは、有希の母だった。

「お母さん、あけましておめでとう、中、入って良い?話があるの」

 そう言うと、母は、有希を招き入れた。

「どうしたの?大学の学費が足りないとかなら、別に払うわよ、あなたの意地で受け取ってないだけでしょう?」

「ううん、お金の話じゃないの」

 有希は一つ呼吸した。

 母に物申すのは、姉を連れて家を出た時以来だ。

「私、留学したい」

「何言ってるの?」

 予想通り、母は激高した。

 それでも決めた。高志には相談した。

 高志は、大丈夫だよと言ってくれた。だから、行きたい。

 夢だった場所へ。

「あなた、自分が何言ってるかわかってるの?誰が、清花の面倒を見るのよ?私は嫌よ!あなたが勝手に連れて出て行ったんでしょう?責任取りなさいよ!あの子は頭がおかしいのよ!誰が面倒見るのよ!」

「僕が、見ます」

 不意に上から降ってきた声に、振り返ると、そこに、高志がいた。

 高志の後ろに、おびえるように、清花が隠れていた。

「へ?どういうこと?」と、母は高志が何を言い出したかわかっていない様子だった。

「清花さんとお付き合いさせていただいています、神野高志と申します」

「お、お付き合い?あなた、正気なの?」

「もちろん正気です。僕がちゃんと、清花さんをお預かりします」

 高志の後ろで、清花の手が震えていた。

 呆然としている母に、高志は続けた。

「だから、清花さんと、結婚させてください」

「高志君、私、ダメ……」

 そう言った清花の方を高志は振り返って言った。

「ねえ、清花ちゃん、何で、結婚しちゃダメだと思うの?」

「私は、頭がおかしいから……」

「そうよ、この子は知的障害があるのよ!結婚なんてできるわけ……」

 母が黙ったのは、振り返った高志の視線がとても悲しげだったからかもしれない。

「僕は、清花さんがおかしいとは思いません。それどころか、清花さんのまっすぐな心や、はじけるような笑顔をとても、愛おしいと思います」

 高志は、清花の震える手を握りしめた。

「これからは、僕が清花さんとともに生きていきます。だから、お母さん、清花さんと結婚させてください」

「好きにしたらいいわ」と、母は冷たく言い放った。「私に迷惑が掛からないなら、清花の結婚も、有希の留学も、好きにしたらいいじゃない!」

「はい、お義母さんのお手を煩わせないようにしますね!」と言うと、高志は、清花の手を引いて去っていった。

 清花の手の震えは止まっていた。

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