僕の気持ち
みな子が竜一郎をあやしている間に、倉田と梨紗子は去っていた。
「じゃあ、お弁当、竜太さんに渡しておきますね」
「ちょっと!」
立ち去ろうとした高志の腕をみな子がグイっとつかんだ。
「さっきのアレ、どうするつもり?」
「へ?」
「鷲野さんが、高志君のこと好きって言ってたじゃない!」
「え?てっきり、他の神野さんがいるのかと……」
きょとんとして答える高志に、みな子はため息をついた。
「あんな、毎週のように、デートに誘われてて、自覚がないって……」
「デート……?」
てっきり、お礼の延長だと思っていた高志はギョッとした。
今まで、女性とお付き合いなどしたことがなかったため、自分がデートなど誘われるはずがないと高を括っていたのだ。
「たぶん、鷲野さんの方は告白したつもりでいるから、真面目に考えて返事してあげなさい」
そう言いながら、みな子は、恐らく、聞いてはいけない話を聞いてしまった申し訳なさから、高志が「なんか、ごめん」と言ったのを思い出した。
梨紗子があれで、フラれたと思ってくれるなら、それはそれでいいのかもしれないとみな子は思っていた。
みな子は、高志と清花がくっついたらいいのにと、あの口づけを見た日からずっと思っていたからだ。
高志は、告白をされたと言われたものの、どうしたものかと思い悩んでいた。
梨紗子は、同僚という以外に、特に何も思っていなかった。
確かに美人であるし、一緒にいるのは嫌ではないから、食事の誘いも受けていたが、そこに恋心があるかというと、微妙なところだ。
案外、付き合ってみたら、もっとお互いを知ることもできるかもしれない。
だが、そんな、お試しみたいな形で梨紗子の気持ちにこたえるのは不誠実なような気もした。
高志の気持ち自体が固まっていない状態で返事ができないと思っていたし、そのことを梨紗子に伝えようにも、仕事中は、だいたい竜太が一緒にいて、さすがに竜太の前で告白の返事の話をするのはよくないと思っているうちに、一週間以上が過ぎた。
徹が言っていたらしいレイプ犯は逮捕されたようだったが、相変わらず、高志は、仕事帰りに清花を迎えに行くのが日課になっていた。
そして、今日は、有希がバイトがない日で早く帰っていたので、高志は清花と二人で歩いていた。
もはや、手つなぎは恒例になっていた。
「あの、神野さん?」
背後から声をかけられて振り返ると、そこには梨紗子がいた。
梨紗子は、たまたまお局の倉田から頼まれたものを買いに行った帰りだった。
声をかけてみたものの、きっと手をつないで一緒に歩くその女性が彼女なのだろうと、声をかけてしまった自分を後悔した。
「そちらは?」
「隣の家の及川さんのお姉さんの方の清花さんだよ」
それを聞いたとき、梨紗子の脳裏には、先週徹から聞いた言葉が浮かんでいた。
「神野と接することがある女性って言ったら、及川姉妹だけど、姉の清花の方は、知的障害があるから、まず、恋愛対象にはならないんじゃないかな?」
そして、もしかしたら、自分にはまだチャンスがあるのではないかと思った。
いや、思ってしまった。
「神野さん、清花さんは、知的障害があるんでしょう?私、そんな子よりも、絶対神野さんを幸せにします!だから……」
梨紗子は、言葉を詰まらせてしまった。
高志は、いつになく、厳しい顔をしていた。
なんというか、梨紗子に失望した、と言いたげな表情で、高志は、梨紗子に近づくと、暗い声で言った。
「ごめん、君とは価値観が合わない」
そして振り返ると、清花に優しい笑顔を見せて、「ごめんね、行こうか」と言って歩いて行ってしまった。
高志には、どうしても、「そんな子」という表現が許せなかった。
梨紗子に、清花の何が分かってるというのか、と、思った。
清花は、清花なりに、仕事もして、家事も手伝って、懸命に生きているのに、知的障害があるというだけで、自分よりも劣っていると決めつけるのが許せなかった。
それほどに、高志の中では、清花は、大切な、と音い存在になっているのだと感じた。
もしかしたら、これは、自分の中にしまい込んでいた、恋、という感情なのかもしれない。
高志は清花のほっそりした左手をいつもよりもしっかりと握りしめた。
最近だらだら長文になることが多かったので、短い気がしました。
たまにはこんな日があってもいいと思います!




