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その頃の二人

 梨紗子と徹は、深いため息をついた。

「急用みたいだし、仕方ないわ……」

「ま、まあ、そうだな」

 高志と二人の時間を過ごしたかった、梨紗子の落胆はもちろんのことだが、梨紗子と高志の仲を取り持つためだけにここへ来たといっても過言ではない徹の落胆ぶりもなかなかのものだった。

 しばらくの間徹はうつむいたまま動かないでいた。

 梨紗子ももちろん落ち込んではいたが、居酒屋で意気投合しただけなのに、ここまで自分のために、一緒になって落ち込んでくれるマブダチの存在に、何故か少しだけ心が温かくなった。

 しばらくうつむいていた徹は、思いついたように顔を上げると、机の片隅からメニューを持ってきて、眺め始めた。

「こうなったら、スイーツ食べてやる!」

 実は徹は甘党で、なかなか一人では入らない店のスイーツが気になっていたことを思いだしたらしい。

「私も!」

 徹につられてメニューを見た梨紗子も、スイーツの写真を見て美味しそうだと感じた。

 隣のテーブルで、女性グループが、キャッキャとはしゃぎながらスイーツの写真を撮っていた。

「女子は、女子で集まっても、ああやってスイーツ楽しく食べられるからいいよなぁ」

 あまり女友達がいない梨紗子にもその姿はまぶしく映った。

「本当にね」

 まぶしそうに女性グループを見る梨紗子を見て、徹は、梨紗子は友達が少なかったことを思いだした。

「俺たちもはしゃいじゃおうぜ!」

 徹がそういた時に、ちょうど二人のデザートが届いた。

「梨紗ちゃんのも美味しそうだね!」

 徹がはしゃいで写真を撮るのにつられて、梨紗子も、ふっと微笑んだ。

「並べて写真撮ったら?」

 二人の様子を見た隣のテーブルの女性たちが、美男美女のお似合いのカップルだねと囁いていたことには二人は気づいていなかった。

 ひとしきりはしゃいで、スイーツを食べ始めると、徹が、目の前の梨紗子をまじまじと見つめた。

「確かに、その服装だと、あの店じゃ浮くな」

 ジャージ着てくるよりも確実に浮くな、と、徹はしみじみと言った。

「つ、通勤着だって持ってるし!」

 思わず梨紗子はむっとして言った。

「それも浮くからジャージ着てきたんじゃなかったっけ?」

「だって、こういう服着てると、カジュアルな感じの店って入りづらいんだよ!何か、見えない壁があるのよ!」

 力説する梨紗子をなだめるように、徹が、「じゃ、今から買いに行くか?」とさらりと言った。

 さらりとそういうことを言えてしまうあたりがチャラいなと、梨紗子は感じたが、これからも、たろうにジャージ以外の服装で飲みに行きたい気持ちの方が勝ったため、その言葉は飲み込んで、徹の提案に乗ることにした。


 梨紗子と徹は、商店街にいた。

 古着屋や、セレクトショップの多いこの商店街は、気軽に着ていけるようなカジュアルな服装を探すにはうってつけだ。

 地元民の徹は、この辺りの店にも知り合いが多く、いくつか、徹や知り合いのおすすめの店で、梨紗子は服を買っていった。

 あまり着たことがなく敬遠していた服装でも、着てみると案外しっくり着て、梨紗子も今日の買い物に満足していた。


 休日の商店街は、そこそこ人通りがあり、徹は、いつもと違う雰囲気の服にはしゃぐ梨紗子が人にぶつからないよう、前方に気を配っていた。

 徹たちのだいぶ前を、カップルらしき男女が歩いている。

 さらに前には、ベビーカーを押した女性が歩いている。

 向こうの方からサラリーマン風の男性が歩いている。

 営業や実家の稼業で色々な人に出会った徹は、その目が、ちょっと危険だなと感じた。

 いたって普通のサラリーマンに見せかけているが、目が笑っていない。

 昔、実家の美容院でそう言う客が、凶悪犯罪でつかまったことがあって、それ以来、徹は、目が笑っていない人にはあまり近寄らないようにしていた。

 サラリーマン風の男性は、少し前を歩くカップルの横を通り過ぎた。

 次の瞬間、カップルの女性の方が、振り返ってサラリーマン風の男性の方に駆け寄ると、腕をつかんだ。

「あなた、一緒に警察に行きましょうか?」

「み、翠先生、何してるんですか?」

 女性の後を追ってかけてきた男性が、思わずそれを制止した。

「ちょっと、笹岡君、何するのよ!」

「先生こそ、何してるんですか?」

 翠先生とやらと、笹岡君とやらがもめている間に、腕を取られていた男性は、翠先生の腕を振り払って、駆け出した。

 徹は、何となく嫌な予感がして、梨紗子の肩を掴むと、男の視界から遠ざけた。

 男は徹のわきを通り過ぎると、そのまま路地裏に消えていった。

「徹ちゃん?」少し困惑した声色で梨紗子が言った。

「あ、悪い」と、徹は、梨紗子の肩から手を離した。

「今の人、普通のサラリーマンに見えたけど……」

 梨紗子が、男が去って言った方向を見ながらポツリと言った。

 徹の頭の中には、男の顔と、男が走り去った後に、女性が、あの男はレイプ犯だと言っていたのが何かの警鐘を鳴らすようにこびりついていた。

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