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つかの間の平穏?

 今日も鈴村成分少なめです。

 その日はいつものように鈴村の家で朝食を食べていた。

「このスーツケースは、どうしたんですか?」

 不意に、部屋の片隅に見慣れないスーツケースを見かけて、高志は思わず言った。

「今晩から旅行に行くんだよ!」

 竜太がとぼけた声で答えた。

「今晩からですか?」

 高志には、何か引っかかるものがあったが、竜太は「いいでしょ!」得意げだ。

「いいなぁ、私もお出かけしたい!」

 清花が言ったときに、何か引っかかっていたものを不意に思い出した高志は言った。

「明日の休みの申請、してないですよね」

 竜太が休みの日は大抵高志も抱き合わせで有休を消化させられている。

 高志が明日休みだと認識していないということは、竜太の休みは職場に伝わっていないということだ。

「あ!」

「はぁ?」

 竜太が思い出したように言うと、みな子のイラついたような声色が聞こえてきた。

「あなた、出かけたいなら休みの申請はきちんとしなさいって言っておいたでしょう?」

 結局みな子に叱られて肩を落とす竜太を引きずるようにして、いつもの倍くらいの労力を使って、高志は出勤した。

「鈴村君、明日の休みの話は、奥さんから聞いたよ」

 課長が出勤した竜太を出迎えて行った。

 ものすごくしかるけれどもフォローをしっかりしてくれる辺りが、みな子の上手な飴と鞭なのだろうと、高志は感じていた。

「連休につなげて休みを取りたがる人が多くてね、神野君は、明日は出勤してくれ」

 課長は高志の肩をがっしり掴むと、君まで休まれたら、明日の業務が回らない、と、真剣な表情で言った。


 翌日、いつもより目覚ましの時間を遅くしたはずなのに、高志はいつもの時間に目が覚めてしまった。

 竜太を起こしに行く必要はないが、同時にみな子の朝食にもありつけないので、折角早起きしたから、朝ごはんでも食べに行くか、と、高志は大きく伸びをした。

 不意に隣の部屋からアラーム音が聞こえた。

 どうやら、清花はいつも通りの時間にアラームを鳴らしたようだ。

「有希ちゃん!起きて!」

 そして、いつものように有希を起こしているようだ。

 高志は、身支度を整えると、家を出た。

 すると、ちょうど家を出た清花に鉢合わせた。

「あ!高志君!今から竜太さん起こしに行くの?」

「清花ちゃん、鈴村さん家は、みんな、昨日からお出かけだよ」

「あ!そうだった!」

 朝ごはん、どうしよう、と、清花はおろおろしている。

「今から、そこのカフェに朝ごはん食べに行こうと思ってるけど……」

「有希ちゃんに相談してくる!」

 数分後、「有希ちゃんは後から来るって!」と、清花が出てきた。

 高志と清花が近所のカフェで、注文をし終えたころ、有希が到着した。

 有希は、自分の分の注文を負えりと、ポケットから何かを取り出した。

 それは、水族館の割引券だった。

「みな子さんが、いつもお世話になっているお礼にって。みんなで行っておいでって言ってました」

「わー、行きたい!」

 清花は嬉しそうだ。

「ちょうど3枚あるから、高志君も一緒に行けるね!」

 突拍子もない清花の発言に、有希が一瞬驚いた顔をしたが、「高志さんの都合が合えばね」と、言った。

「高志君、連休は暇?」と、清花から聞かれて、「暇だよ」と、思わず、高志は正直に答えてしまった。

 だが、有希も、それを責める様子はなく、「私は、土曜日はバイトだから」と言った。

 清花は祝日は仕事のようで、日曜日に三人で水族館に行くことになった。


 その日は竜太を起こすという重大任務がないおかげで、いつもよりもかなり早く職場にたどり着いた。

 昨日、急いで帰るからと、竜太が散らかした書類を片付け、引き出しの仲も片付けようかと開けたが、いかがわしいグッズが顔を出したため、机の上だけきれいにすることにした。

 竜太の机の上の書類を、竜太に必要なものと、仕事に関係するものと、不要なものに分けて、不要なものを捨て、仕事に関係するものは自分のデスクに置いた。

 今日が期限の書類を見つけた時には度肝を抜かれたし、いくつか期限が切迫している書類も見つけたが、高志や同僚の気配りがあったせいか、期限を過ぎた書類が見つからなかったのは、不幸中の幸いと言える。

 やがて、他の社員が出勤してきた。

 その日は、連休につなげて休みを取った職員が何人かいたものの、実に業務ははかどっていた。

 隣のデスクの竜太を気にせずに、自分の仕事に没頭することができ、高志は集中して仕事をしていた。


「神野君、そろそろ、休憩したらどうだい?」

 課長にそう言われて、時計を見ると、昼の一時だった。

 竜太がいたら、一時間前くらいに、お腹がすいたと騒ぎだしていただろう。

「あ、じゃあ、行ってきます」

 そこまで集中していた自分に驚きながら、高志は食事をしに部屋から出た。

「あの!」

 会社のエントランスを歩いていた高志は不意に呼び止められた。

 振り返ると、そこには総務のマドンナと呼ばれる鷲野梨紗子わしのりさこがそこにいた。

 昨日、竜太が慌てておいて言った書類に不備でもあったのかもしれない、と、高志は、梨紗子に「どうしました?」と答えた。

「神野さんに、私、ずっと、お礼が言いたくて……」

「お礼?」と、高志は聞き返した。お礼をされることをした覚えはない。

「あの、鈴村さんが、何でもかんでも、私に書類を渡すのをやめさせてくれたじゃないですか!」

 首をかしげながら高志は考えた。

 確かに、竜太に、適切な部署に適切な書類を渡せるように誘導はしたので、結果的には、梨紗子のもとに、何でもかんでも書類が行くことがなくなったのであろう。

 それは、梨紗子の負荷も考えなかったわけではないが、業務効率を考えてのことだ。

「いや、あの……」

「それに、いつも、鈴村さんがすごく話しかけてきて困っているときに、間に入ってくれたじゃないですか!」

 それは、竜太が梨紗子に話し始めると、キリがないことが分かっているので、いつも早々に、話を切り上げられるようにしていただけだ。

「とにかく!私、神野さんが来てから、すごく助かっているので、お礼がしたいんです!」

 そう言うと、梨紗子は何かチケットを取り出した。

 どことなく、見覚えのあるチケットだ。

「神野さん、今度の連休、お暇ですか?」

「えっと、日曜日以外なら……」

 日曜日は、清花と有希と水族館に行く約束をしていた。

「じゃあ、土曜日に、一緒に行きませんか?」

 高志の嫌な予感は、

「水族館に!」

 見事に的中した。

 当日の連絡用にと、連絡先を交換し、梨紗子が意気揚々と去って行ったあと、「神野君、あの、総務のマドンナとデートするの?」と、聞きなれない声がした。

 振り返ると、そこには、営業2課の坂下徹さかしたとおるがいた。


 高志は、徹と会社近くの蕎麦屋にいた。

「神野君、いつも、鈴村さんと一緒だから、話しかけられなかったけど、同い年だよね?」

 徹はかなりフレンドリーに話しかけてきた。

 どうやらずっと、高志に話しかける機会をうかがっていたようだ。

「でさ、鷲野さんと、付き合っちゃうの?」

「いや、そんな話にはなってないよ」

「もしかして、他に本命がいるとか?」

「今まで恋人がいたことだってないよ」

 高志はピシャリとそう言い切った。

 実際いなかったし、作ろうとも思えなかった。

 だが、よく考えたら、高志のトラウマになっていた、清花の返事がなかった件は勘違いであったことが分かったし、別に、故意に臆病になる必要もないのか、と、不意に気が付いた。

 そうか、これからは、恋愛もしてみてもいいのかもしれない。

「こないだ、及川姉妹と一緒にいただろ?見ちゃった!」

 不意に、徹が話を変えてきた。

「ああ、お隣さんだし」

「いいなぁ!美人姉妹のお隣とか、うらやましい!俺も住む!」

「反対の隣は鈴村さんだよ」

「やっぱやめる!」

 竜太の家の隣というのは、かなり悪条件のようだ。

 注文したそばが届いて、高志は割り箸を割った。

「及川姉妹を知ってるってことは、地元の人?」

 不意に、高志が尋ねた。

「うん、姉の清花が小学校のころからの同級生」

 それを聞いて、高志は母から聞いたことを思い出した。

 確か、清花は、当時の担任の先生から殴られて、脳に大きな障害を負ったのだと。

「小さいころから可愛かったし、何でもできるのに性格もよかったから、男子は全員清花のこと好きだったと思うよ」

 自分もその中の一人な、と、高志は思った。

「それがさ、小学校の、何年生の時だったか、俺が初めて清花と一緒のクラスになった年なんだけど、当時の担任がめちゃくちゃ怖くて、怒るとすぐ殴る奴だったんだけど、名前なんっつったかな、清花の一番の友達が、宿題忘れたら、靴で殴ろうとしてさ、かばって殴られた清花が大けがを負ったんだよ」

 あの時の衝撃は、当時の同級生は皆忘れてないと思う、と、徹は言った。

 担任の先生は警察に連れていかれ、清花がかばった同級生も引っ越し、清花も特別支援学級に通うことになった。

 あの日からすべてが変わってしまった衝撃は、確かに忘れがたいものだろう。

 食事を終えると、「初デート祝いにおごってやろう」と、徹がワンコインのそば代をおごって去っていった。

 登場人物が増えてしまった……。

 覚えられるだろうか?

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