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帰るべき場所

 前話が、ボーイズラブに引っかかるんではないかと、R指定しなければならないのではないかとガクブルしています。

 その反動か、今回は鈴村成分控えめです。

 季節はすっかり夏になった。

 日が早く昇っても、高志の日課は相変わらず、竜太を起こすところから始まっていた。

 少し変わったのは、起こしに行くときに、鈴村家の玄関前で落ち合う人物がいることだ。

「高志君!おはよう!」

 鈴村家の玄関の前では既に清花が待っていた。

 清花と頷きあうと、高志は鈴村家のインターホンを押した。

「入って!」

 インターホン越しにそう言われて、高志がカギを開け、二人で、寝室へと向かった。

 ここで、高志は、いつも通り、竜太のもとへと向かうが、清花はベビーベッドの方へ向かう。

「鈴村さん、起きてください!」

「竜ちゃん!今日もご機嫌さんだね!」

 朝一番で、清花は、竜太、ではなくその息子の竜一郎に声をかけるのだが、これが上手いことで来ていて、清花が竜一郎を「竜ちゃん」と呼ぶ声に反応して、竜太が目覚めるのだ。

「やあ、清花ちゃん、おはよう!」

 そして、自分のことを呼ばれていないにもかかわらず、竜太は、キリっとして清花に挨拶した。


 こうなったのには訳があった。

 竜一郎が退院した当初は高志が一人で竜太の朝の準備を手伝いに行っていたのだが、大概竜太を起こす騒ぎで、竜一郎が目を覚まし、泣き出し、どうしようもない状態になってしまい、毎日のように、遅刻ギリギリでの出社になっていた。

 ところがある日のこと、竜一郎のあまりの泣き具合のために、隣の隣の家の清花にも聞こえたらしく、清花が様子を見に来てくれたのだ。

 すると、どうしたことか、竜一郎が泣き止み、清花が「竜ちゃん」と呼んだのに反応して竜太も目覚めるという素晴らしい現象が発生したのだ。

 それ以来、料理上手のみな子が、高志と有希と清花の分の朝食も用意するという条件付きで、朝から二人で竜太を起こしに行くことになったのだ。

 有希は、朝が弱いようで、清花が出かけるときに起こすと、大概竜太を起こす騒動が落ち着いたあたりでみんなに合流している。

 それはそれで、竜太がしっかり目覚めてくれるし、みな子としては、清花か有希のどちらかが、朝食の手伝いをし、どちらかが竜一郎を見てくれるので、助かるようだ。

 そして、ひと騒動終わった鈴村家で、鈴村一家と、高志と、有希と清花の姉妹という不思議なメンバーで朝食をとるのが日課になっていた。


 穏やかな朝食タイムを終えると、高志と竜太、そして、清花と有希も一緒に途中まで出かけていくのも日課になっていた。

「有希ちゃんは、大学、夏休みなんじゃないの?」

 大学生の有希は、8月はとっくに夏休みなのではなかろうかと、高志は有希に尋ねた。

「バイトがあるので」と、有希は簡潔に答えた。そして、「家を出るときに、学費は自分で稼ぐという約束だったので」と付け加えた。

「そういえば、美人姉妹二人で住んでるんだもんね」と、竜太が鼻の下を伸ばして言った。

 どうしてか、竜太が言うと、変態っぽく聞こえるな、と、高志は思いながら、ふと思いついて言った。

「女の子二人で住んでると、変な人に狙われたりしない?」と、有希に尋ねながら、思わず「鈴村さん以外で」と、高志は付け足してしまった。

「失礼な!」と、竜太は頬を膨らませてぷんすか怒ってから、「二人が引っ越してきた当初に、みなちゃんが、変な人に狙われないように、外に洗濯物を干すときに、男物の下着を一緒に干すと良いって、僕のパンツを渡しているから大丈夫だよ!」と、ニヤッと笑った。

「美人姉妹の洗濯物と一緒に洗ってもらえるなんて幸せなパンツだな」と、一人で悦に入っている竜太に聞こえないように、有希が「大体室内で干してますし、もらったパンツは新品でした」と、言った。

 そして話が逸れたまま、高志と竜太は職場にたどり着いた。


 その日は、帰りにも、清花と有希の姉妹に出会った。

「明日から、お盆休みだね!」と、ご機嫌に竜太が二人に話しかけた。

「私もお盆休み!」と、清花もご機嫌に答えた。

「有希ちゃんは、バイトなんだって」と、ついでに、清花が言った。

「清花ちゃんたちは、実家には帰らないの?」という竜太の問いに、有希がピシャリと、「帰りません」と答えた。

 その剣幕に、驚いた竜太は黙り込んでしまった。

 ふと、高志は、「鈴村さんたちは、ご実家に帰るんですか?」と尋ねた。

 いずれにしても、出勤日ではないので、竜太を起こしに行く義理はないのだが、念のため聞いておこうと思ったのだ。

「帰るよ!孫の顔が見たいって、言われてるから、僕んとこの実家も、みなちゃんのとこの実家も行くよ!」

 そう言った竜太は携帯を確認して、「やばい、みなちゃんに荷造り手伝うように言われてるんだった!」と走り去っていった。

「親御さんも、このあたりに住んでいるの?」

 高志は、清花と有希に尋ねた。

「父は、どこにいるかもうわかりません。母とは離れて暮らすつもりでしたが、私の受かった大学も、姉の就職先も近かったので、たまたま近くにいるだけです」

 首をかしげる清花の代わりに、有希が答えた。

 事情は分からないが、どうやら姉妹は、両親と不仲のようだ。

 高志はそれ以上有希に質問するのはやめた。

 そうこうしているうちに、それぞれの家にたどり着き、高志は姉妹と別れて、自分の部屋に入った。


 車を走らせること3時間、高志は両親の住む家にたどり着いた。

 転勤族だった父親に常に母親はついて行ったため、高志が同居している間は、両親がどこかに定着することはなかった。

 今の家に両親が定着したのは、数年前のことだった。

 その頃にはとっくに高志は親元を離れていたので、両親が住むこの家が、自分の帰るべき家だという印象は薄かった。

 両親も両親で、高志と同居するという考えはないようで、自分たちの部屋以外にはかろうじて客間が用意されている程度だった。

 半分物置代わりにされている客間に荷物を置くと、高志は、両親のいるリビングに向かった。

 母親が、冷えた麦茶を出してくれて、何だか本当に客人みたいだな、と、高志は感じた。

 テレビを付けると、車いすに乗った子供が何か一生懸命やっている様子が映し出された。

 子供の母親と思しき女性がほめたたえて頭をなでていた。

「もし、ある日突然、大けがをして、障害を負ってしまったら、親ってどう思うんだろう?」

 その様子を見て、何故だか清花のことを思い出した高志の口から思わずその質問が飛び出していた。

「うーん、どうかしらね?受け入れるしかないと、第三者からはそう言えるけど、当事者だとどうなのかしら?」

 自分の分の麦茶を持ってきた母親がそう言いながらソファに腰かけた。

「あ、でも、期待が大きかったりすると、受け入れられないみたいね」

 ふと、思い出したように母が言った。

「何かね、ほら、今、高志がいる街に、高志が高校に入る頃にお父さんが転勤になったでしょう?」

 それは、高志も覚えていた。あの街に戻りたくなくて、高志は全寮制の高校を受験したのだ。

「高志が小学校の頃の、ほら、学級委員とかやってたできる子が、担任の先生に殴られて、脳に重い障害が残っちゃったみたいでね」

 どうやら母の話しぶりによると、それは清花のことのようだ。

 担任の先生に殴られたというのは、高志にとっては初耳だったが、高志の知らざる情報まで行き来してしまうのが、主婦の情報伝達の恐ろしさだと高志は感じた。

「ほら、元ができる子だったから、その子のお母さんの期待も大きかったみたいで、思い通りにならないからいつもものすごく怒っててね、いつもニコニコしてくれる子なのに、あんなに怒られて、かわいそうだったわ」

 そう言った母親は「あまり期待しすぎちゃダメなのよ」と、勝手に結論付けて、麦茶を飲むと、リモコンをもってテレビのチャンネルを変えていた。

 テレビの画面をぼんやり見ながら、怒ってばかりの母親のもとに、清花も有希も帰りたがらなかったの知れないな、と、感じていた。

 いつの間にか鈴村家の息子は退院しているという……。

 ちなみにですが、このお話の主人公は鈴村家のメンバーではございませんのでご了承ください。

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