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初恋の人

 車を走らせること数時間、目的地はあと少しだ。

 そう考えながら、神野高志じんのたかしは眼前に広がる海を見た。

 高志は、小学校二年生の一年間だけこの街に住んでいたことがある。

 この土地を離れてから16年ほどだろうか。

 新しい建物はずいぶんと増えて、かつての面影はないかと思ったが、この港の景色には見覚えがあった。

 子供のころは、父親が転勤族で各地を転々としていた。

 2~3年ほど滞在した年もあったし、海外に住んだこともあったが、高志にとっては不思議とこの街が一番印象に残っていた。

 初恋の淡い記憶と、その後の何とも後味の悪い失恋の記憶のせいかもしれない。

 なぜか消したい記憶ほど、頭から離れてはくれないものだ。

 だから、高校、大学と親元を離れても、このあたりの学校は選ばなかったというのに。

 こうもあっさり転勤でこの街を再び訪れることになるとは……。


 マンションの駐車場に車を停めると、引っ越し業者がちょうど来ていた。

 荷物がそんなに多くなかったためか、引っ越し作業は、思ったよりも早く終わり、高志はせっかくなので、周辺を散策することにした。

 少し歩くと、一年だけ通った小学校が見えた。

 校舎がより一層古ぼけているが、当時の面影を残している。

 高志の脳裏に、当時の記憶が蘇ってきた。


*****


 高志は人見知りをする方だったので、やっと一年かけて友達ができたのに、二年生で転校になり、かなり憂鬱な気持ちで、初登校日を迎えたのを思い出した。

 前の学校は新築できれいな校舎だったのに、それと比べると古ぼけたこの校舎を見て、さらに憂鬱になっていた。

 古ぼけた校舎で予想はついていたが、校内も古ぼけている。

 そんな高志の憂鬱は、担任の先生に連れられて教室に入った瞬間吹き飛んだ。

「あ、転校生だ!初めまして!」

 クラスの一人の女生徒が、明るい声でそう言うと、彼女に続いて、クラスのみんなが歓迎してくれた。

 自己紹介を終え、休み時間に入った途端に、クラスの数人が高志の周りに集まってきた。

「高志君、よろしくね!私は、二宮清花にのみやさやか!」

 それは、最初に高志を歓迎してくれた女生徒であり、高志の初恋の相手であった。


 清花は明朗快活で、クラスのムードメーカー的存在だった。

 高志が自然とクラスの輪に入っていけたのは、清花のおかげともいえる。

 たった一年だったが、あの時が、高志の人生の中で最も、クラスになじんで楽しく過ごせた一年だったのは確かだ。

 高志が転校するとき、清花が、文通をしようと、引っ越し先の住所を聞いてきた。

 大好きな清花から文通の提案をされたものの、どうしたものかと思い悩んでいると、清花から第一通目がやってきた。

 内容は、妹が今年から一年生だとか、三年生の担任の先生が、男の先生で起こると怖いとか、クラス替えで、一年生の時に仲の良かった友達と、一緒のクラスになれたとか、他愛もないものであったが、高志にとっては宝物だった。

 なんて返事を書こうかと、思い悩んだ挙句、高志が返事の手紙を寄越したのは、清花から手紙が来てから一カ月後のことだった。

 しかし、清花から返事が来ることはなかった。

 手紙が届いてなかったのか、それとも、内容がつまらなかったのかと、思い悩み、さらに何通か手紙を送ったが、ついに、清花から返事が来ることはなかった。

 高志は、自分の返事が遅かったから、清花にとって自分はどうでもよくなってしまったのかもしれない、とか、もしかしたら、自分の手紙の内容が良くなくて、清花に嫌われてしまったのかもしれない、とか、後ろ向きなことばかり考えてしまい、それからというもの、恋愛に臆病になってしまった。


*****


 高志は校舎に背を向けて海の方へ向かって歩き始めた。

 清花の活発な性格を考えると、もう、進学や就職で、この街を離れて広い世界を見ているかもしれない。

 もし、街にいたとしても、清花の家の近くには引っ越していないから、仕事と家の往復で、出会う可能性も低いだろう。

 そんなことを考えながら歩いているうちに海岸にたどり着いた。

「あっ!」

 何か声が聞こえたと思い、高志がそちらを振り返った瞬間、顔面に帽子が飛んできた。

 帽子を手に持ち、再び声の方を見ると、一人の女性が笑いながら駆け寄ってきた。

「あはは、はは、顔面キャッチ!顔面キャッチ!」

 帽子を差し出すと女性は笑いながらそれを受け取り、かぶろうとしたが、笑って力が入らなかったのか、帽子は彼女の手をすり抜けて、再び高志の顔面へと飛んできた。

「あはは!また顔面キャッチ!あははははは!」

 ずいぶんと笑いの沸点が低いものだなと考えながら、今度は笑いが落ち着いてから渡した方が良いだろうかと、高志は考えながら、笑い続ける彼女を見た。

 そこに、初恋の彼女の面影が重なった。


「二宮清花さん?」

 思わず高志の口からその名前がこぼれ出た。

「違うよ。及川清花おいかわさやかだよ」

 苗字こそ違うが、名前は同じとなると、結婚したと言うことだろうか?

「お母さんと一緒で及川さんになったの!」

「お姉ちゃん!勝手に走ってっちゃだめだって!」

 清花の謎の発言と同時に、清花の妹が現れた。

「えっと、両親が離婚して、母に引き取られたので、及川になったんです。姉の古い知り合いですか?」

「清花さんと小学校二年生の時に同じクラスだった神野高志です」

「あ!転校生の高志君!」

 清花が嬉しそうに言った。

 高志の手紙への返事を書かなかった割にはあっけらかんとしている。

 それほどに、高志の存在はどうでも良かったのかもしれない。

「1年で引っ越したよね!」

 その言葉に、今度は清花の妹が眉をひそめた。

「お姉ちゃん、そろそろニャン玉の時間じゃない?」

 ニャン玉と言うのは、高志の記憶が正しければ、小児向けのアニメのはずだ。

 それが、清花が帰る理由になるというのだろうか?

「ホントだ!有希ちゃん、帰ろー!」

 そう思っていた矢先、清花がきびすを返して歩き始めた。

 有希ちゃん、と呼ばれた妹は高志の方に歩み寄ると、「あまり姉には関わらないで下さい」と、言い残して、清花を追って駆けていった。

 主人公が暗……げほっごほっ、真面目だから、どこも面白く出来ませんでした……。


 ここは一つ、鈴村を投入……しようがない!

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