閑話・冒険者の生態
①今回は、会話が多めです。
②なろうの規約的にはセーフらしいですが、R18なワードが出てきます。ご注意ください。
③初っ端から出てきます。
「──せ、セックス?」
俺は、吹き出した酒を拭きつつ、シルビアへ聞き返した。
「そうよ。⋯まぁ、アタシも経験少ないけどね」
信じられなかった。
シルビアの、あの冷静で沈着なシルビアの口から、そんな言葉が出るだなんて⋯⋯
〜時は少し遡る〜
ファリドとの試合後、俺は彼女と酒場に入って駄弁っていた。
初めは、試合内容の話題で会話していた俺達だったが、あらかた質疑応答が終わり、会話の間に無言の静寂が多くなる。
少々気まずくなったので、俺から話題を振ってみる事に。
前々から疑問に思っていた、『冒険者になる方法』について、彼女へ質問をしてみた。
「へぇ、3段階の試験があるのか」
「まぁね。アタシは余裕で突破したけど」
自信ありげな表情でシルビアは言う。
どうやら、冒険者になるには試験があるようなのだが、彼女は一発で全てをクリアしたらしい。
1番初めに試されるのは、基礎運動能力。
体力を含め、瞬発力や肉体の柔軟性、視力等のテストがある。
2番目は、意外にも筆記での試験らしい。
魔法使用に関しての問題や、クエスト現場における連携の仕方、種族毎の魔物の特徴等を答えなければならない。
そして、最後にようやく実技だ。
試験監督付きで、指定された魔物の討伐を行うという。ただ、所要時間と使用した回復アイテムの数によっての減点方式らしい。
「⋯アタシの時は、ガムナマール3体の撃破だったかしらね」
「おぉ、俺と同じだな」
「え?それってどういう⋯⋯」
「いやさ、俺も転──。⋯生まれた直後に、ソイツらに襲われてさ」
「あらあら、災難だったわね」
「いやもうホント、死ぬかもって思ったぜ」
思い出話しに花を咲かせつつ、会話は続く。
しばらくして、今度は冒険者になった後の話に移った。
「んー⋯まぁ、まずはお金を貯める事からね。武器も防具も、ちゃんとした物は値が張るし」
「成程なぁ。シルビアは?お金に困ってた時期あるのか?」
「⋯実を言うと、ヴィルジールに色々助けられた頃があってね。お金に困った事は無いのよ」
シルビアは、グラスの氷を眺める。
申し訳ないと思っているのか、彼女は少しだけ肩を竦めながら苦笑いをした。
「まぁ、直ぐに自立出来たけどね。アタシの武器も防具も、自分で買った物だし」
足を組み、シルビアは酒を1口飲んだ。
「そう言えば⋯⋯」
「ん?」
ふと、俺にある疑問が浮かぶ。
しかし、この話の流れ的に聞く事ではないと、直ぐに口を噤んだ。
「いいや、なんでもない」
「いいわよ。何?」
俺の胸がドキリと動く。
『何?』だけであれば、何を言おうとしたのかを聞こうとしただけだと捉えられる。だが、彼女は『いいわよ』と前置きをしてから聞いてきたのだ。
流石女性というか、ピタリと考えを見越して来るのは、男として感服させられるものがある。
「い、いやぁ。ホントに失礼な事を聞く事になるんだが⋯⋯」
「女に年齢尋ねた人が、今更気にする事かしら?」
「うぐ、スミマセンでした⋯」
「ふふ、いいわよ別に。アタシも答えたでしょう?」
カウンターに肘を付き、軽く握った拳に、彼女は頬を乗せる。
悪戯っぽく笑うシルビアに、俺はちょっとした胸の高鳴りを覚えた。
「ええと、じゃあ」
「うん」
「ベルトンでシルビアが着てた⋯⋯あの鎧、あるじゃん?」
「えぇ、気に入ってるわ」
「アレって、どうして胸が⋯⋯こう、『出てる』んだ?」
『出てる』。
そう、シルビアの鎧は、胸が出ている。範囲は胸元だけなのだが、意図的にひし形の穴が空けられているのである。確かに、鎧の下にはインナーを着用しており、地肌が見えてる訳ではない。
だが、それでも双丘が浮き出てしまう程に。
そして、それが見えてしまう程には、かなり大きな穴が空いているのだ。
「あらヤダ。アンタ、そんな所見てたの?」
「いやぁ、俺も雄だし⋯⋯」
「そうじゃなくて。あの戦いの中、アンタはアタシの胸を?」
信じられない、と、蔑みを込めた視線を送るシルビア。
だってしょうがないだろう、大きいんだがら。鎧を着て尚、主張が激しい胸の方がどうかと思うんだが。
「⋯はぁ。念の為説明しておくけど、アレは仕方無く空けている穴なの。アタシだって、見せたくて見せてるんじゃないわ」
「そうなの?」
「⋯失礼ね。アタシが痴女にでも見える?」
「えっ」
『そりゃあ、ガチガチの鎧を着ているのに胸元だけ見えてるのなら、見せてるようにしか⋯⋯』とは、言えないよな。ウン。
ここは、黙っておこう。
「暑いのよ、鎧の中はね。魔物と戦う時なんて、激しく動き回るワケだし⋯。まぁ、兎に角暑いのよ」
「⋯つまり?」
「熱がこもるの、かなりね。特に、胸の間は汗で蒸れて気持ち悪いし、あぁして風通りを良くするしかないのよ」
あぁ成程、考えみれば確かにそうだ。
鎧なんて超分厚い服みたいな物だし、通気性は壊滅的。工夫した結果、アレに行き着いたって事か。
「⋯でも、ちょっと無粋な考えかもだけど、いっその事脱いじゃえばいいのでは?ホラ、サンクイラの防具みたいに」
「あの子は機動性重視なのよ、弓を使うからね。遠くから攻撃を行う冒険者の動きは、素早くないとダメなの。間合いを詰められた時、直ぐに動けないと殺されちゃうからね」
「シルビアは接近して戦うから、防御性重視だと?」
「そういう事」
それなら、胸だけ全部出してしまえばいいのでは?
と思ったが、それだと即座に振り向いた時、胸に掛かる慣性の力で重心がズレそうだな。軽い髪や、制御できる腕と違って、胸は重くて意図的に動かせないし。⋯あと見た目的に問題だ。
「うーん、勉強になったな。冒険者って仕事も、色々考えられてんだなぁ」
「でしょう?ラクじゃないのよ、ラクじゃ」
カランと、シルビアはグラスを回す。
『楽では無い』と言いつつも、楽しげな表情で話をした彼女に、俺は自身と似通ったものを感じた。
俺も、転生してから色んな苦難があって、その度に『面倒だ』なんて思いつつ、本心では楽しんでいた節があるからな⋯。
「──おう、お嬢ちゃん」
と、俺が過去を振り返っていたその時。
野太い声が、背後から聞こえた。どうやら、シルビアに話し掛けたようだ。
「⋯なにか用?」
シルビアと俺が振り返ると、そこには泥酔状態と思われる1人の大男がいた。目測で2m10cm程。肩や腰に防具を身に付けているので、冒険者と思われる。シルビアは彼を知らないようだが、大男は彼女に興味津々らしい。
「俺よぉ、『アハト』の冒険者なんだけどよぉ、」
『アハト』⋯⋯確か、ゼクスより2つ下の階級の事だ。
⋯ははぁ、分かったぞ。階級自慢のナンパだな?相手がゼクスであるシルビアとも知らずに盛ってるワケだ。
「この前クエストでミスっちまって、悲しいんだよぉぉ⋯」
「はいはい、ミスは誰にでもあるわ。次から頑張って」
「報告書の後始末も終わってねぇしよぉ、」
やれやれ、美人も大変らしいな。
ンまぁ、シルビアは淡々と躱しているし、俺が口出してヘイトを買う理由も無いか。そりゃ、いざとなったら助けるが。
「⋯生憎だけど、他を当たって。しつこいと張り倒すわよ」
おおっと、シルビアが一気に語彙を強めたな。
大男は動じてないが⋯⋯って、
──ガタンッッ!!
「おおぉ!この女ぁぁ!ちょっと顔がイイからって──」
カウンターを叩き、大男がシルビアに急接近した。
ザワつき始める店内だが、ここにきて急に大男が静かになる。
店員、客どちららも状況が理解出来ていないだろうが、俺からすれば『大したもんだ』というのが感想だな。
「う⋯く、この女⋯!」
──な に よ ?──
鋭い視線のみで、彼女はソレを発していた。
大男は彼女の迫力に押され、数歩引き下がる。だが、下らない意地が残ったのか、今度は俺に指を差して何か言おうとしている。
「こッ、小汚ぇグレイドラ──」
──な ん だ よ ?──
まぁ言わせないんだが。
「ちッ、ちくしょう!」
戦隊モノの小悪党の様なセリフを吐き捨て、大男は店を飛び出す。直後、店内からは安堵の声と、シルビアへ賞賛の拍手が飛んだ。
「災難だったな」
「いいえ、ああいうのは、たまにあるのよ」
「『アタシが美人だから』か?」
「ま、それもあるかしらね〜」
『でも、』と彼女はグラスを回す。
そして、お酒を1口飲むと、鼻で溜息をついてから口を開いた。
「彼は『アハト』だって言ってたじゃない?つまり、ギルドランカーって事よね」
「そりゃあ、そうだな」
「ギルドランカーの仕事っていうのは、『通常依頼』と『固定依頼』っていう2種類があるの。『通常依頼』は、自分が好きに選んで受注するクエストの事。 ⋯でも、『固定依頼』は、『ある期限までに、確実にこなさなければいけない依頼』の事なの──⋯」
⋯──ただ、固定依頼によって受け取れる報酬はお金だけ。
そのクエストで、どんなに良い素材が入手できたとしても、それはギルドへ渡さなければならないの。
いうなれば、『ギルドの資金源集め』ってとこかしらね。
そして、その固定依頼っていうのは、大抵が難しい内容だったりするの。アナタみたいなS2個体を相手にする事もあるし。
そんなクエストで素材が貰えないのら、勿論、装備の強化も遅れる事になる。でも、固定依頼は定期的にくる。
そうなると、結局は通常依頼で強力な魔物と戦って、良質な素材を持ち帰って、ちゃんとした装備を揃えなきゃいけないのよ──⋯
「⋯──まぁ、ここま説明すれば分かるかしら?」
俺は、難しい顔をした。
『ギルドランカー』が大変なのはよく理解したが、それが、さっきのシルビアの発言『ああいうの』を生み出す理由とは⋯?
「単純に考えればいいわ。『ギルドランカーは大変』で、『ギルドランカー同士は共感しあえる』。それなら、『ギルドランカー同士で、不満を解消してしまえばいい』って話よ」
「えぇっと⋯⋯」
真面目な顔で小難しい説明をするシルビア。
俺は酒を口にふくみ、『話を理解している感』を装った。
「つまり、互いの傷を舐め合ってるって事。そして、それは文化として成り立っているの」
「⋯⋯⋯⋯?」
「例えば、セックスとかね」
俺は、酒を吹き出した。
そして、話は冒頭に戻る。
「──せ、セックス?」
「そうよ。⋯まぁ、アタシも経験少ないけどね」
その言葉に、大して何も思っていなさそうなシルビアは、静かに足を組みなおした。
「さっきの2種類の依頼だけじゃない。ギルドランカーは、クエストの結果に関係無く、報告書の提出が義務化されているの。
それも、何枚も何枚も。ストレスが溜まる仕事だから、それを定期的に解消しないとやっていられないワケよ」
「で、でも⋯⋯。えっ!?シルビアも経験あるのかよ!?」
「あるわよ、そりゃあ。⋯まぁ、シュレンやサンクイラみたいな若い子は、真面目に頑張っているかもだけど」
ショック、ショックだった。
いやまぁ、シルビアが経験なさそうとかは思っていなかったが、いざ本人の口から聞かされると、なんかな⋯⋯。
というか待てよ?
そんなのが、冒険者の中で文化として根付いているなら、普通に犯罪が起きるだろ。それこそ、さっきみたいに酔っ払いをあしらったら、逆恨みで⋯⋯みたいなのも発生しやすそうだぞ。
「といっても、同意が無ければダメなのは当然だけどね」
「いやいや。性行為に対する価値観が軽くなるなら、犯罪の発生率も上がるくないか?」
「例えば?」
「いや、ほら⋯⋯レイプとか?軽い気持ちで話を切り出したらキッパリと断られて、ムカついたから『変な薬』とかつかわれて⋯みたいな?」
「ないない。⋯⋯いや、勿論ゼロとは言えないけど、その確率は低いわ」
「どうしてそこまで言い切れるんだ?」
「⋯⋯アンタ、随分と言葉が達者だから、人間の法律くらい知っていると思ってたけど⋯案外、そうでもないらしいわね」
俺を見て、シルビアは嬉しそうな表情を浮かべた。
「法律ではね『冒険者による強制性行』は極刑なのよ。大抵が終身刑だけど、場合によっては死刑もあるわ」
「え、まじで?」
「まぁ、私も法律とかは勉強してないから、詳しい事は分からないけどね。⋯ただ、裁判では『対象の記憶を見れる魔法』が使われるらしいわ」
「へえぇ⋯」
つまり、余程の事が無い限りは、強姦しようなんて思う輩は現れないって事か。それはそれで、すげぇな。
まぁ性犯罪が無くならないのは、前世の世界でも同じだしな。
犯人さえ捕まえればれば、確実に罰せられるという点では、もしかしたら前世より良いかもしれない。
「まぁ、アタシは自分の身を守るだけの力はあるつもりだし、大丈夫よ」
「そ、そうか?」
話を終え、シルビアは席を立つ。
カウンターに代金を置いた俺は、彼女に続いた。
何か、今日は情報量が多い1日だったな。
俺の中で、この世界への理解がまた広まった気がするぜ。
この設定は、初めっからあったんですよね。
冒険者という職業において、ストレスって半端ないだろうなって事で。世界観に奥行きを出す設定のつもりです。
それに際して、『強姦は死刑』というのは後付けです。
NTRは絶対に許しません。シルビアが追い払った酔っ払いは、フラグではありません。
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