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猛焔滅斬の碧刃龍  作者: GHOST
1章【暗黒討伐編】
168/214

第153話・広がる波紋

「──はい?」


 ギルバートは、片眉を吊り上げる。

 冒険者ギルド・王都クローネ支部・ギルドマスター。

 そんな男ですら、耳を疑う事実が述べられたのだ。

 冒険者ギルドという組織のトップ、エスキラ・ガルディオから。


「⋯⋯“最高統括者(アインズマスター)”、仔細をお聞かせ願います」

「うむ。流石の君でも、やはりそうなるか」


 腕を組み、エスキラは頷く。

 『人魔会議』。そう呼ばれる会議の開催があった事は、当然ながら極秘の案件だ。

 冒険者ギルドの中で知っているのは、上層部の人間でもエスキラが信頼を置く僅か数人だけである。

 そしてそのメンバーに、各ギルドマスター達は含まれていない。

 そもそもギルドマスターという役職は、冒険者ギルドという組織において高い地位を有していないのだ。

 例えるなら、全国各地にチェーン展開しているコンビニがあるとして。

 それぞれの店の店長がギルドマスターであり、大元のコンビニ会社の頂点が“最高統括者(アインズマスター)”という訳である。

 そして当然の事だが、ギルドマスターとアインズマスターには大きな差が存在する。

 つまるところギルドマスターとは、冒険者ギルドにおいて“上層部”にすら含まれていないのだ。


「──ギルバート。今から私がする話は、全てが真実だ。

 そして、その一片たりとも口外してはならない。約束できるかね?」


 エスキラの言葉を聞き、ギルバートの頬に汗がつたる。

 組織の上層部ではない自分へと、組織のトップが一体一で、尚且つ内密の話をするというシチュエーション。

 40年以上ギルドマスターを務めているギルバートとしても、緊張が避けられないのが現状であった。


「──では、心して聞きたまえ」


 そう言って、エスキラは話を始める。

 人魔会議。魔王の城で執り行われたそれに、誰が参加し、誰が何をして、何がどうなったか。

 身振り手振りを繰り返し、無数の表情を使い分け、言葉にならぬ経験を、無理矢理にでも言葉にして──。

 時間にして約2時間。吹かしたシガーの吸殻が、灰皿に積み上がる頃になって、ようやく話は一段落するに至った。

 

「──犠牲者が生き返る⋯⋯? 暗黒神オーガ⋯⋯?

 いや⋯⋯魔王とその幹部達と対面での会議⋯⋯??」


 ギルバートは、頭を抱えた。

 魔王ゼルやセシルガ達の一挙手一投足までも詳細に語られ、その結果に行き着いたのが困惑である。

 人魔会議の開催自体も異常な出来事である上に、それの内容は更に意味不明なものと来た。

 話をしたエスキラですら、改めて自身が経験した事に疑問を浮かべる程の内容だ。

 第三者のギルバートからすれば、疑問に思う・思わないの話では無いのである。


「⋯⋯っ。いえ、その⋯⋯。あぁ、全く何から聞けばいいのか⋯⋯」

「うむ、うむ。それが当然の反応だな。話をした私ですら、自分が語った内容が真実なのか疑う程だ。

 他人に聞かされて、即日で理解出来るものでも無いだろう」


 ギルバートは心の底から思った。本当にその通りだ、と。

 濃厚な“意味不明”を、生地の“意味不明”に敷き詰めてじっくりと焼き上げ、完成した“意味不明”を地面に叩き付ける様な⋯⋯

 兎に角、理解が及ばぬ話を、ギルバートは二時間も聞かされたのであった。

 ──とある、一匹のドラゴンの話を除いて。


「猛紅竜が、あの場にいた事は事実なのですか?」

「あぁ、間違い無い。同じ場にいた星廻龍は、名前らしきモノで呼んでいたが⋯⋯」

「それは⋯⋯もしや、“紅志(あかし)”といった名前だったのでは?」

「⋯⋯!!」


 記憶を辿り、エスキラは思い出す。

 例のグレイドラゴンが、その名で呼ばれていた事を。


「⋯⋯君は、彼と関わった事があるのかね?」

「王都クローネでの防衛戦の時、あの竜を戦力として投入する()()をした際に、少しだけ。

 会話が可能な点と、人間と同等の知能を持っている点について、報告書にまとめて提出しておいた筈ですが⋯⋯」

「ううむ、未だそんな内容の報告書は届いておらんな。

 黒異種による襲撃では、主要な路線や街道も被害を受けたと聞く。

 恐らく、それが原因で情報の流通が遅れているのだろう」


 難しい顔を浮かべ、エスキラは首を傾げる。

 冒険者ギルドは、元々情報の()り取りが優秀な組織では無かった事実はある。

 組織図を広げた時、“上から下”への指示であれば、魔導通信を利用しての迅速な対応が可能だ。

 しかし、“下から上”となると、また話が変わる。

 ギルド内で管理する事になる情報は、一度エスキラが目を通さなければならない、というのは当然として。

 各街と村の外部ギルドや ギルド内部からの報連相に関しては、大抵が口頭で解決する問題でも無い。

 そして結局は、紙とペン、そして足を用いたアナログな情報の遣り取りを行うしか無いのである。

 

「今回の件を機に、ギルドの情報統括の方法を一新する考えも悪くないかもしれぬな⋯⋯」


 自嘲気味に、エスキラは乾いた笑いを浮かべる。

 本来の情報統括の手間の多さに加え、今回の黒異種襲撃による更なる情報流通の鈍足化。

 組織の実態が鮮明になったこの現状。最高責任者(エスキラ)としては、思う所も多いのであった。


「──まぁ、今、それはいいとしてだ。

 ギルバート。君に人魔会議の話を教えたのは、(くだん)の猛紅竜について“頼み事”があるからだ」

「⋯⋯なんですと?」


 大きく、ギルバートは眉を(ひそ)める。

 無意識の表情変化に気付いたギルバート本人は、すぐさま顔を逸らしてシガーに火をつけた。

 彼のその様子に、エスキラは敢えて言及をしない。

 今の自身の台詞のみでは、ギルバートに誤解が生まれた事を察したからである。


「⋯⋯⋯⋯。」

「──ギルバート」


 ジリジリと、シガーの先端が灰になる。

 その長く短い時間の中で、ギルバートは思考を巡らせた。

 彼らを包む静寂の意味は、当人達にしか分からない。

 少なからず、ギルバートにしてみれば、エスキラの“頼み事”という言葉に不満を持った面があるのは事実だ。

 そしてそれは、猛紅竜を魔物では無く、紅志という友人だとギルバートが認識していたからに他ならない。


「──彼には、私が愛する場所を護ってもらった借りがある。

 “頼み事”の内容によっては、例え()()()からの命令であっても聞き入れられんぞ」


 口調を崩し、ギルバートは静かに煙を吹き出す。

 軽く俯いた状態から、見上げる様に向けられる鋭い眼光。

 かつて『英雄』と呼ばれた男のそれに、エスキラは真正面から向き合った。

 

「気を悪くしないでくれ。あくまで、()()()()()()()()()()()()への頼みだ」

「⋯⋯話を聞きましょう」


 態度を改め、ギルバートは口を開く。

 内心、「相変わらず血の気の多い男だ」と呟くエスキラは、そっと胸を撫で下ろしたのだった。


 ──そもそも。ギルバートはギルドマスターである。

 アインズマスターとは、地位も立場も全く違うのが彼だ。

 そんな彼に、エスキラが直接会って話す機会を設けた理由。

 それ即ち、ギルバートに“ギルドマスター以外の顔”が存在するが故である。

 あくまでギルバートは、“上層部ではない”だけなのだ。

 “個人的な影響力”も含めて、冒険者ギルドにおいての彼は かなりの有力者なのである。


「──魔物としての猛紅竜の管理を、君に一任したい。

 あれが人類に被害を及ぼした場合や、今後のギルドに不都合な存在になった時。対処方法を決めるのは君、という事だ。

 猛紅竜と君の関係性を察するに、そこまで悪く無い提案だと思うのだが、どうかね」

「ふむ⋯⋯。何故、彼を私に任せる気に?」

「なに、簡単な事だ。君にはギルドマスターとしての経験と、何よりも人を見る目がある。

 そして、真偽はさておいて、あの猛紅竜は元々人間らしい。

 となると、彼を任せられる人材は、人と魔物の両方に博識な者しか居ないだろう?」


 エスキラの言葉を、ギルバートは推し量る。

 一聞(いちぶん)だけでは、「いざという時は、親しいお前が彼を守ってやれ」と受け取れる内容だ。

 だがその実は、「恩を売って人類側に引き込め」。若しくは、「敵に回させるな」という意味を内包している。

 それを理解した上で、ギルバートは僅かに口角を上げた。


「承知しました。猛紅竜の管理、謹んでお受けします」

「うむ、期待しているぞ」


 一礼するギルバートの肩を、エスキラはポンと叩く。

 それぞれに思惑はあるものの、「猛紅竜を敵にしたくない」という考えは両者とも同じなのであった。

 

「では、下がって結構──と、言いたい所だが⋯⋯」

 

 新たなシガーを懐から取り出し、苦笑するエスキラ。

 その台詞を聞いたギルバートは 一瞬だけ目を見開き、そして直後に笑ってみせた。

 溜息をする様に笑みが零れた後、ギルバートはエスキラが咥えるシガーへ自身の人差し指を向けた。

 ぼうっと小さく火が着いた指先を、エスキラのシガーにゆっくりと近付ける。

 火を貰ったエスキラは、シガーを軽く掲げて礼を示す。

 ──そして、


「人魔会議について、まだ聞きたい事があるだろう?」


 やれやれ。といった調子で、エスキラは笑った。

 そして本心を突かれたギルバートも、また同じく──。


「えぇ、勿論。数え切れない程に」


 ちょっとした悪戯心を込め、ギルバートは言い切る。

 エスキラは、新たな灰皿を用意したのであった。

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