第0話・前へ歩く
細かい所は説明の通りです。
異世界!転生!竜!って感じです。
それでは、どうぞ宜しくお願いします──⋯
きっかけ、という物はいつも不意に生まれ、些細な事から始まる。俺がいつの日か⋯⋯もう、昔の話になってしまったが、此処に来たあの日の様に──。
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「お先です」
「おう、お疲れ。しっかり休めよ」
課長に軽く一礼してから、いつもの様に会社を出る。
普段通り会社前にある自販機で缶コーヒーを買うと、ガタンと音を立て缶コーヒーが出てきた。
⋯⋯俺は、このガタンという音を嫌っていた。
理由は、飲み物が落下してきた時の衝撃で味も落ちてしまうのでは無いか、という根拠の無いものだ。
「ほぅ、冷えるな⋯⋯」
暖かい缶コーヒーを1口。
溜息をつきながら、吐いた息が白い煙となって空に消えるのを眺める。
季節はもう冬。吐息も白く、目に見える程だ。
確か今朝のニュース番組では、北陸の方で初雪が観測されたと言っていた気がする。とにかく寒い。
──ピロン♪
「ん? 佐々木から⋯⋯? 珍しいな⋯⋯」
通行人の多い道を歩いていると、スマホの通知音が鳴った。
確認すると、高校の時の同級生からだった。クラスの人気者で、明るく騒がしいヤツ。
彼と俺は幼馴染というのもあり、仲が良かった。
そういえば、高校を卒業してからというもの、お互い就職なり進学なりで忙しく、会えていなかったか。
⋯⋯にしても、このご時世色々な連絡用のアプリツールが存在するのに、わざわざメールを使って連絡を寄越すとは⋯⋯
『件名︰今日、暇か?』
今日、高校時代のメンツで一杯やろうって話しになってんだけど、お前も来ない?
皆んな、お前に会いたがってるよ。お前、全く連絡寄越さないし。仕事で忙しいのは分かってるけど、たまには息抜きしないと身体が持たないぜ?
(⋯⋯やれやれ、余計なお世話だっつの)
俺は歩きながら、メールを読む。
同窓会、か。いつぶりだろうか? こういった誘いは久し振りだし、なんて返信するべきか困るな。
──────⋯⋯⋯
返信の内容を考えている内に、ウチに着いてしまった。
会社からそう遠くないのもあったが、それでも10分程は考え込んでいたか。
結局、内容が決まらずに面倒臭くなったので、直接電話して話す事にした。
こういう時、自分の不器用さに呆れる。
──トゥルルルル、トゥルルルル、ヅッ⋯
「あ〜⋯⋯佐々木? さっきのメールの件なんだけd」
『おっ!? 久し振りぃ!! 今日は来れそうか!?』
「〜〜⋯⋯っ、」
『お〜い、あれっ、おっかしいな、どうした? やっぱり無理そうか?』
「⋯⋯いや。明日は休みだし、たまには顔出そうかなって」
『マジか!? いや嬉しいけど⋯⋯いや、どうした!?』
どうした!? って。お前が誘ったんだろうが、全く。
相変わらず、騒がしい奴だ。⋯⋯まぁだからこそ、友達も多かったんだろうが。
スマホから離していた耳を再び近付け、俺は口を開いた。
「⋯⋯休みが取れて、気が向いた。それだけ」
『そ、そうか? それじゃあ⋯』
それからは、集合する場所だの、時間だの⋯⋯
世間話や思い出話など、とにかく会話が弾んだ。久し振りに会話していて楽しいと感じた。
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「うおぉ!!」
「マジかw」
「変化なし!!」
「おひさ〜♪」
一人一人違う反応だが、皆んなも変わって無いな。
そんな風に心の中で呟く。あぁ、本当に懐かしい。
「よう、久し振り。佐々木に田中、伊藤、長谷川、鈴木、カツに⋯⋯え〜っと⋯⋯」
「いや忘れんな?w あと何故、俺だけあだ名呼び?」
「吉田だよー」
「宮本だぜぇ〜w」
「飯田でござる」
「なんか1人侍が居るんだけどw」
「「「──ハハハハッ!!」」」
本当に、皆んな相変わらず愉快な人達だな。
店の雰囲気も悪く無い。今日は調子に乗ろうかな⋯⋯?
「それじゃあ佐々木君、宜しく頼むよ〜?」
田中に言われて、佐々木が勢い良く立ち上がる。
皆んなの前にはビールが入ったジョッキが並んでいる。
⋯⋯佐々木1人だけ大ジョッキなのは、あまり触れないでおこう。
「久し振りに皆んなが会えた事を祝して! 乾☆杯〜ッ!!」
「「「乾杯〜!!」」」
──ゴチンッ✩.*˚
「⋯⋯紅志、お前酒飲まないのか?」
「酒、苦手なんだよ。⋯⋯ゴメン」
「えっ、何で謝るん? スミマセーン! 烏龍茶下さ〜い!」
「いや、せめてこの酒は⋯⋯」
俺の手元に置いてある、口を付けていないジョッキ。
流石にこれぐらいは⋯⋯。と思っていが、そのジョッキを佐々木が掴むと、ものの5秒で飲み切ってしまった。
「おう"⋯⋯ッ、美味いッ!!」
「いや、今ちょっとやばかっただろ。イッキは身体に良くないから止めとけ。と言うか、お前の分の──」
大ジョッキは⋯⋯と言おうとしたが、やっぱり止めた。
だって、佐々木の前のテーブルにあったビールは既に⋯⋯
まぁこれも触れないで置こう。うん。
「お待たせしました。烏龍茶です」
「お、ハーイこっちで〜す。⋯⋯ちょッ、届かない。皆んなぁ、こっちにソレ回してくれぇい。」
「ホイ」「ハイ」「ソォイっと」
「おっけーさんきゅー。ホレ、はいよ」
「⋯⋯サンキュ」
世話を焼いてる様な焼かれている様な⋯⋯??
そんな事も楽しいと思える、温かい雰囲気を作る元クラスメートの笑い声や料理の美味しそうな匂い──。
⋯⋯まぁ、な。楽しければ良いじゃないか。今この瞬間を楽しむとしよう。
「うぃ、佐々木」
「ん、おう」
俺が差し出したジョッキに、佐々木が空のジョッキで乾杯をする。
──コチンッ。
僅かな音とともに、ジョッキの氷が傾いた。
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時間も経過し、ボチボチ人数も減ってくるであろう頃。
「それじゃあ時間だし、私は先に帰るね〜」
「えぇ〜!? まだ早くない??」
最初の友人が帰宅すると、それに釣られる様に人が減り始めた。
「フフ〜ン、子供が居るお母さんは忙しいんですぅ〜。旦那に任せてはいるけどねぇ⋯⋯。今頃 頭抱えて助けを求めているに決まってるわ。間違い無い」
「くぅ〜、幸せそうだねぇ。私はいつになったら白馬の王子様が現れてくれる事やら⋯⋯」
「そのうち良い縁があるって! それじゃあね〜!!」
子供、結婚ねぇ、考えた事無いな。
燗筒 紅志、24歳、独身。⋯⋯別に悲しくは無い。
「⋯⋯俺も、もうすぐ帰ろうかな」
「燗筒君まで!? まさか⋯⋯!!」
「いや、俺は独身」
「だよね〜。悪気は無いけど、なんか結婚とかしそうなタイプじゃない」
「喧しいわ。『悪気が無い』って1番悪質だと思う」
隣の友人に代金を渡して立ち上がる。
帰り際に皆から連絡先の交換を、ほとんど強制された。
俺の連絡先を持っているのは佐々木だけだったし。
まぁ気分も良かったし、断る気にもなれず俺はスンナリ連絡先を交換してから店を出た。
佐々木がうつ伏せの状態で寝ていたので、起こさないよう静かに。
「ほぅ⋯⋯寒いっ」
店から出ると、冷たい風が頬に刺さった。
でも、明日は暖かい日になる気がする。
いややっぱり、明日になったら佐々木がうるさいだろう。
『何で起こしてくれなかったんだ!』『帰るなら言ってくれよ!』みたいな感じで、な⋯⋯。
──そう考えていた。
当たり前に来ると思っていた、明日の事を。
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真っ白な世界、果てしなく続く、虚無の空間。
上、左右、或いは下の方向もあるかは分からない。
ただ、無数の扉が浮いている⋯⋯。いや正確には、『漂っている』という表現のほうが正しいのだろうか。
常にゆっくりと、僅かに動いているのだから。
「──ここは⋯⋯何処だ⋯⋯?」
⋯⋯かなり長い間、気を失っていた気がする。
立ち上がろうとするが、右足を前に出した途端に思わず倒れ込んでしまった。
「おや、目が覚めたかのぅ? 予想より早い」
「だ、誰⋯⋯ですか?」
老人、と呼んで良いのかは分からないが、『ソレ』は上から眺める様に俺を見ていた。
「分からぬか、無理も無い。この状況、オヌシ達の世界では非現実的な状態であり──⋯」
⋯⋯? 何を言っているんだ、この老人は。
俺がこうして状況が読めていないのを無視し、老人は話を続ける。
──不注意、油断、背後、刺された──
そんな言葉が、ぼんやりと聞こえてくる。
しかし思考に至るまではまでは理解していない。
代わりに、謎の老人の姿に俺は釘付けになっていた。
長く立派な髭と髪。そのどちらも真っ白で、かなり歳を取っている事は安易に想像できる。
他の特徴は、ローブの様な白い服装と、なんとも言えない異様で奇妙な雰囲気、左手に持った謎の杖⋯⋯。
特に、杖の先端に付いている玉は紅い光を発していて、ガラスの様なツヤと光沢がある。
「⋯──つまり、オヌシは死んだ、という事になるのぅ」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯え?」
唐突に聞き取れた、老人の台詞。
その瞬間、俺は今まで考えていた事が真っ白になった。
だが、その半面納得もした。あぁ、そうだったのか、と。
「その様子だと、多少は記憶が残っている様じゃのう?」
「⋯⋯⋯。」
一瞬で、断片的に記憶が甦る。
俺は、殺されたんだ。背後から、何者かによって。
凄く寒かったし、痛かった。苦しくて、何故か悲しさで胸が張り裂けそうだった。
「不幸。実に不幸で哀れな人間じゃ⋯⋯」
「──状況は理解出来ました。きっとこの場所はあの世、という事ですね? そして、俺はこれから⋯⋯」
「フム、読みはそこそこじゃの。じゃが、ここはあの世では無ければ、これからオヌシがあの世に行く訳でも無い」
「⋯⋯?」
俺はゆっくりと立ち上がった。
聞きたい事は山程あったが、先に口を開いたのは老人の方だった。
「⋯⋯事情から説明させて貰おうかのう。まず、これからオヌシには、今までいた世界とは別の世界──所謂『異世界』と呼ばれる場所に行ってもらう。この場合、オヌシは死んでおるので『転生』という形になるが⋯⋯」
「⋯⋯⋯。」
異世界、転生⋯⋯??
そんなの、漫画とかアニメとかでしか見た事無いな⋯⋯。
不思議な事に『異世界! ヒャッホイ!』みたいなテンションにもならないし⋯⋯。
「──言うなれば、これはオヌシの『使命』とも呼べる事なのじゃよ。世界の均衡を保つ為の、な⋯⋯」
「ちょ⋯⋯ちょっと待って下さい」
淡々と話を進める老人を、俺は止めた。
使命、世界、均衡⋯⋯? そんなのは俺が背負うべきものじゃないし、背負えるものでもない。
俺は昔から、特に正義感が強い様な奴でも無かったし、力が強い訳でも無い。そんな事出来る訳が無い。
そんな事なら──
「⋯⋯っ」
佐々木。アイツの顔が脳裏を過ぎる。
アイツならどうしただろうか? 堂々と引き受けただろうか⋯⋯?
俺と違って正義感は人一倍強いと思うし、きっと引き受けただろう。
⋯⋯だが、俺とアイツは違う。
「──ふうむ。オヌシ、他人と己を比べて物事を決めておるのか? 『自分は無理』などという決め付けで今まで後悔した事は無かったのかの? ウン? 答えてみよ」
あぁ⋯⋯。そんなの、あり過ぎて数え切れない。
俺が馬鹿だったのか? 勝手な決め付けで『無理』だと思い込み続けていたのか⋯⋯?
「で、でも⋯⋯」
「馬鹿者!!」
思わず言葉を噤む。
世界を背負う重みと、俺の人生経験では話が違い過ぎると言おうとしたのだが⋯⋯
参ったな、ピシャリと言われて言葉がでない。
「儂は、オヌシに言い訳を聞いた覚えは無い。儂は、今まで『後悔したか」と問うておるのじゃ」
「⋯⋯⋯⋯。」
俺は黙っていた。
「あぁ、そうじゃ。この質問、直ぐに答えられる物でも無い。時間はある。答えを見い出せせるまで、じっくり待ってやろう」
そう言って、老人は杖を振りかざした。
それに吸い寄せられる様に、無数に漂う扉の中から1つの扉が近付いてくる。
独りでに開いた扉の隙間から、光が漏れてくる。
「もう、分かったであろう? 儂は──“理”を司る神じゃ」
「⋯⋯⋯⋯そう、ですか」
俺の身体は、無意識の内に前へ進む。
眩い光が、俺を包み込んだ。
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