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水紫山明



 


 レナからの猛攻をひたすら防御しながら、打開する案を冷静に考えるミア。


 だが、レナはそんなミアの考えを見通しているかのように容赦なく攻撃の手を止めるつもりは無い。



「何を考えているかは知りませんが、その前に戦闘不能にしてあげますよ」



 そうして、脚を構えるレナは暴風で動けないミアに向かい大きく振り上げた脚を振るう。


 すると、そこからは大きな風の刃が出現する。見る限り、嵐の鷲の様に膨大な風を圧縮したもののようだ。


 レナはそれを二、三回ほど繰り返し、その刃を容赦なくガードをしているミアに向かって放つ。


 あれをまともに食らえば、今の比ではないほどの斬撃を身体に受ける事になるだろう。



「あめーんだよ、甘ちゃんが……」



 だが、一方でミアは笑みを浮かべながらそう呟いていた。


 すると、彼女は両手のバレッタを付けている拳を突き合わせ、錬金術を発動させる。


 その瞬間、水の玉に包み込まれていくミア、風の影響を受けなくなった彼女はそのまま地に足をつける。


 そして、間髪入れず地面に向かって拳を叩きつけた。



「何……⁉︎」



 ミアの発動した錬金術に目を見開くレナ。


 すると、地面から膨大な水が湧き出てくると、そのままそれはミアに飛んでくる風の刃を相殺する様に立ち塞がった。


 だが、それでもやはり、嵐の刃の威力は凄まじく、防ぎきれずにミアの水の防壁も破れる。



「あーあ……。やっぱダメか」

「当たり前だ、そんなもので防げると……」

「だけど、狙い通りだ」

「……‼︎」



 そう言って、レナに指差してくるミア。


 その途端、レナは咄嗟に違和感を感じ、その場から思わず後退する様に飛ぶ。


 すると、地面からいきなり湧き上がる様に水で出来た巨大な鮫が飛び出てきた。


 ミアは避けられたそれを見て、思わず舌打ちをする。



「チッ……。不意ついたと思ったんだがな」

「油断も隙もない人ですね……」



 舌打ちをするミアの言葉に表情を曇らせるレナ。


 地面に拳を叩きつけて錬成したのは、レナからの攻撃を相殺する為だけではない。


 不意を突いた先程の攻撃が本命だ。とはいえ、既に失敗に終わってしまったのだが、一方的だったレナの攻撃を中断させたと考えれば上出来だろう。


 だが、錬装をした錬金術師に対して、このまま戦ったとしてもどちらにしろ不利である事には変わりない。



「はぁ……。本当は使う気は無かったんだがな、仕方ねぇか」



 そう言いながら、首の骨をコキリッと軽く鳴らすミア。


 私から妹は無事でとお願いされていた手前、多少遊んでから軽く捻ってやろうと考えていたが、錬装の威力などを目の当たりにして、流石に素のままで制圧するのは骨が折れるし面倒だとミアは思った。


 不本意ではあるが、ここはレナを真っ向から捻り潰した方が手っ取り早い。



「運がいいな、キネスの妹。その力に免じてちょっとだけ本気を見せてやるよ」

「……今更ですか」

「まあ、このままやっても良かったんだがな、私は面倒くさがりなんだ察してくれ」



 そう告げて肩を竦めるミアは拳を軽く握り直す。


 彼女は拳にメモリアを装填し、術式を施すとガンッと拳を突き合わせて凶悪な笑みを浮かべた。


 その瞬間、彼女の周りの雰囲気が一変し、拳から身体の全身にかけてバレッタが装着されていく。


 異様な雰囲気が立ち昇り、凄まじい勢いで彼女の周囲に水が噴き出し始めた。そして、その水は異様な形を形成し始め、一つの生命体のようにミアの背後から現れる。


 ミアは涼しげな顔でその錬装の名を告げた。



海装(かいそう)大海の悪魔龍(リヴァイアサン)



 それを目の当たりにしたレナは目を見開く。


 巨大な水の龍のように見える獰猛なそれは、見た事が無い生物であった。


 圧倒的な威圧感を放っているそれを前にして、思わず、レナの頬からは冷や汗が流れ出ていた。


 その状況を眺めていた私も思わず表情を曇らせる。



「……出してきたね……」

「あぁ、リヴァイアサンの方か」

「……ん? リヴァイアサンの方とは?」



 そう言って、呟いたレイに問いかけるカナエ。


 すると、レイは私の方を見ながらカナエにその事について果たして話していいものかどうか、確認するような視線を向けてきた。


 私はそんなレイの視線に応えるように顔を引きつらせながら肩を竦め、皆に話すように促す。



「あぁ……、まあ、ミアは多少、特殊でな実はアイツは……」

「おい、良いのかよ話しても」

「まあ、あそこまで話してたら、皆気になるだろうから別にある程度は良いんじゃない?」



 私は遮るように声を上げるシドに苦笑いを浮かべながらそう告げる。


 確かに錬金術師として隠しといた方が良い事実もあるが、ミアの秘密の場合は周りにバレたところで痛くも痒くもない事実だ。


 彼女がこの場にいたとしてもきっと同じように言うことだろうしね。


 それに、戦争自体無い、今の情勢に周りにいる人間に話してもこの情報が漏洩するとも思えないしな。


 そして、気を取り直してレイはそのことについてゆっくりと語り出した。



「実は……ミアの錬装は三つある」

「……はい? 今、なんと……?」

「だから三つだ。ミアには三つ錬装があるんだよ」



 そう告げた途端、カナエは信じられないと言わんばかりに目を見開いた。


 これが、アドルフォ・ミアが共和国内で最強の錬金術師であると言われている理由だ。


 そう、彼女には錬装が三つもあるのである。通常であれば、戦闘特化の錬金術は基本的には一つの錬装というのが当たり前だ。


 だが、錬金術の天才であり、素晴らしい才能を持っているイージス・ハンドのアドルフォ・ミアはこの錬装を三つにまで増やす事に成功したとんでもない化け物なのだ。


 それといつも派手に喧嘩してるシドも大概化け物なんだけどもね。


 話が逸れてしまったが、今、ミアが出している錬装はその中の一つに過ぎないという訳だ。



「錬装が三つだって! そんな馬鹿な話が」

「だがありえるんだよ、とんだ規格外なんだ。手に余るくらいね」



 声を荒げるカナエに肩を竦めながら告げるレイ。


 それだけ、ミアという錬金術師は自分の戦闘に特化した錬金術に関しては他の追随を許さないスペシャリストという事なのだろう。


 戦争中は群を抜いてかなりの戦果を上げている訳だしね、シドと同じくらいの戦果を上げていて更に天才となると、それはもう共和国内で最強の錬金術師だと呼ばれても不思議じゃないだろう。


 だが、そんなミアの評価に納得できていない人物が一人いる。それは、私の隣にいるシドだ。



「ケッ……! あんなクソ女大したことねぇよ」

「まあ、アレと生身で互角に戦えるお前も大概規格外なんだがな、私としては」



 そう言いながら呆れたようにため息を吐くレイ。


 それに関しては私も同感だな、シドの戦闘能力に関して、その点は本当にずば抜けてると思う。


 そして、錬装を発動させたミアはというと真っ直ぐにレナを見据えたままこう告げ始める。



「さて、嬢ちゃん、どれくらい持つか見ものだな。簡単にくたばってくれるなよ」

「何をふざけた事を……」

「それだけ気合入ってんなら問題ねぇか、……じゃあ行くぜ!」



 そう告げたミアは力強く地面を蹴り上げた。

 するとミアの脚を突き上げるように勢いよく水が噴き上げ、ミアのスピードを上げる。


 それを目の当たりにしたレナは接近を容易に許さぬように暴風の壁を作り出し、その壁をミアに向けて放つ。


 だが、ミアはそれが目前に迫っていても余裕のある表情を浮かべて思い切りその壁を殴りつけた。



「だから甘ぇよ! そのくらいで止まるかッ!」



 パシュンという何か弾けたような音と共に暴風の壁は回転を加えたミアが身に纏っている水のドリルで突き破られる。


 そして、その背後からは凶暴な口を開けた水の化け物(リヴァイアサン)が追従してきている。


 このまま何もしなければやばいと咄嗟に判断したレナは地面に風を叩きつけて上空に舞うようにして逃れた。



「逃すかァ‼︎」

「……ッ! 面倒ない人ですねっ!」



 すかさず、レナを追撃するように水の噴射を利用して宙を舞うミア。


 そして、宙を舞う二人は互いに拳と脚を構えて、力の限り振るい応戦する。


 空中で火花が散る中、その間を割るように口を大きく開いた水の化け物(リヴァイアサン)がレナに襲い掛かってくる。


 だが、その口の中目掛けて、嵐の鷹が飛来し、化け物(リヴァイアサン)の口の中に入った途端、大きな暴風と竜巻を引き起こした。



「ぐっ……!」

「うぉ……!」



 水の化け物(リヴァイアサン)は暴風によって身体の中から水飛沫をあげながら消滅し、その衝撃と風圧によってミアとレナの身体はそれぞれ別の方向へと軽々と吹き飛んでいく。


 そして、地面に着地した二人は素早く身構えて、再び睨み合った。


 水飛沫を上げながら消滅した化け物(リヴァイアサン)もミアの背後から再び何事なかったように出現しはじめる。



「まあ、手始めにしてはこんなとこだな」

「そうですね」



 視線を合わせる二人は笑みを浮かべながらそれぞれそう告げる。


 そして、レナが放った巨大な二頭の嵐の鷹もミアの化け物(リヴァイアサン)同様に何事もなかったかのように再び出現した。


 互いに退かない状況、すごい攻防が繰り広げられる中、観客席にいる人々はその光景を食い入る様に見守っていた。

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