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錬装


 


 私との激闘の末、敗れたカナエ・アルフィズは静かにミアとレナの試合を観客席から眺めていた。


 一時は大怪我の為、しばらく意識が回復しないのではないかと思われていたのだが、二日目にして目を覚ました彼女は毎日、治療を受けながらこうして車椅子で試合を見にいけるまでになった。



「試合はもう始まっているのかしら?」

「今、始まったばかりのようです」

「そう、タイミングは良かったみたいね」



 車椅子を黒服から押されて会場を移動していたカナエはそう呟く。


 一時は身体に深刻なダメージがあったため、この試合の観戦自体も医者から止められてはいたのだが、どうしても気になり病院から抜け出してきた。


 本当は安静にしなくてはいけないが、戦場に居た時にはこのくらいのダメージであっても前線で戦った事のあるカナエにとっては何でもない。


 それよりも、手練れの錬金術師同士の戦い自体、戦場以外では見ることは出来ない、そちらを見る方が身体を休ませるよりも重要だと感じ足を運んだ訳である。



「あら、あれは……キネスさんでは?」

「本当ですね」



 黒服に問いかけるカナエ、その視線の先には赤い髪の女性とシルフィアの姿が入っている。


 サクセサー・デュエルで戦ったとはいえ、カナエと私は戦いを通じて色々と語り合った仲だ。大きな怪我やダメージを負ったが、互いにその実力は既に認めあっている。


 ひとまず、私を発見したカナエは身体を心配する様に声を掛ける事にした。



「ご機嫌いかがかしら?」

「おや、カナエさん……」

「今日はVIP席での観戦なのですね」



 そう言いながら、私の隣にやってくるカナエ。


 VIP席でもないと安心して試合も観戦できないしね。


 私は一応、怪我人だ。本当は一般の席で落ち着いて眺めていたいところなんだが、医者から観戦自体止められてしまっている。


 そう、私もカナエ同様、医者には内緒に妹の事が心配で試合を見にきていたのだ。


 こんなのがバレたら本当ならお説教ものなんだけどね、黙っておけば多分バレないだろうと思いたい。


 車椅子とはいえ、カナエも順調に回復してきているようで良かった。


 戦っておいてなんなんだけど、あの技を受けたカナエの安否はずっときにはなっていたんだ。



「具合はどうだい?」

「おかげさまで……こちらは?」

「私はシドだ。キネの同僚だよ」



 そう言って、私は問いかけてくるカナエに軽くシドの事を紹介する。


 すると、カナエは少し驚いたような表情を浮かべると畏ったように軽く頭を下げながら、口を開いた。



「これはイージス・ハンドの……。はじめましてカナエです。

 それに、シルフィア様や他の皆さんも来られていたのですね、こんにちは」

「こんにちは、カナエさん」

「……ネロです」

「ケイと言います!」



 シルフィアはカナエに笑みを浮かべながら挨拶を交わし、ネロちゃんやケイは自己紹介を兼ねてカナエに頭を軽く下げる。


 それに応えるようにシドやシルフィア達に軽く微笑みながら頭を下げるカナエ。シドはそんなカナエに軽く手を挙げながら応える。


 カナエはシドの事も知っているようだが、それはそうか、死の十字架部隊の副団長だしな、そのくらいの情報くらい把握しているだろうし、当たり前か。


 ミアとレナの試合へと視線を変えて、眺めているカナエはゆっくりと話をしはじめた。



「まさか、あの試合で貴女が私の錬装を上回ってくるなんて思いもしませんでした」

「錬装……?」

「えぇ、……あぁ、シルフィア様は錬金術についてはあまりご存知ではありませんでしたね」



 カナエは瞳を閉じ、それからシルフィアがわかりやすいように軽く説明をしてあげる事にした。


 自分の腰からバレッタである刀を取り出すと、カナエはシルフィア達に向けて静かな声色で語り始める。



「錬金術師には戦闘に特化した錬金術がそれぞれあります。

 私なら雷、キネスさんなら樹木、もしくは爆発みたいにね。

 錬装とはその戦闘に特化した錬金術の力を最大限に引き出す状態のことです」

「‼︎……そ、そんな状態が……!」

「えぇ、私の場合だと雷装(らいそう)雷電天女(らいでんてんにょ)がそうですね。

 エンパイア・アンセムの人間や共和国のイージス・ハンドの錬金術師の方なんかはそれを使えて当然ですから」



 そう言いながら、肩を竦めるカナエ。


 まあ、そんな錬金術師達に互角に生身で戦える人間が私の横に居るんだけどね、赤い髪の『赤い狂犬』って呼ばれてる規格外の幼馴染みが。


 とりあえず、その話は置いておく事にしよう。


 カナエが言う通り、そうだ。上にいるイージス・ハンドやエンパイア・アンセムといった優れた錬金術師は錬装と言われる技をそれぞれ持っている。



「だからこそ、驚いたんですよ。錬装をせずに私を退けたキネスさんにね。

 まさか、あんな強力な技を出せるなんて思いもしてませんでしたから」

「錬装をしたのは貴女の父親と戦った以来かな、あれからもう使えないでいるからね」



 私ももちろん、その技を持っていた、以前はだけどね。


 だが、私はデスドラドとの戦いに敗れ、帝国に捕らえられモルモットにされた。


 そして、度重なる人体実験の結果、今の爆破の錬金術を得た代わりに、以前身に纏うことができていた錬装を今は身に纏う事が出来なくなってしまった。



「……人体実験ですか?」

「……あぁ」



 カナエの問いかけに私は間髪入れずに頷いた。


 それに、戦争が終結した今、錬装なんて使う必要性もなかったからね。今回みたいな依頼は基本的に受けてなかった訳だし。


 だって、私は『ビルディングコーディネイター』だよ? 


 普通はこんな場違いな場所で錬金術師同士で戦ったりなんてしないし、そんなことをしなくてもご飯は食べていけてた訳だからね。


 最近、グリーデンやこのサクセサー・デュエルなんかのせいで状況が変わりつつあるんだけども。



「私が基本的に錬装をもう一度身につけようとしてなかったのもあるけどね。

 ……だってもう使う機会なんて無いと思っていたし」

「では身につけようと思えば?」

「できないことはないと思う、でもその場合、私は樹木の他に爆発の錬金術についてもかなり使いこなさなきゃならなくなるかな。

 そのリスクがどれだけあるか、レイやシド、そして君なら理解出来ると思うけど」



 私は苦笑いを浮かべながら肩を竦め、カナエにそう告げる。


 戦闘で私が爆発の錬金術を扱うには、特殊なメモリア『ダモクレス』というメモリアを身体に撃ち込まないといけない。


 そして、その『ダモクレス』を撃ち込んだ私は髪が黒髪になり、樹木と爆発の錬金術を扱えるようになるのだが、それにはリスクがある。


 そのリスクとは、かなりの長時間この状態でいると、私の理性が完全に飛び暴走するというリスクだ。


 本来はこれは大量破壊兵器として、私の身体を帝国が改造した際に得た力である。もちろん、その強大な力はそれ相応の副作用があって然るべきだ。


 暴走中にその力はゆっくりと私の身体を蝕んでいき、やがては自爆して、死に至るようになっている。


 その理由としては制御が効かなくなった私の活動が自動的に止まるようにする為というのが理由だ。



「まあ、身体に文字通り爆弾を抱えている訳だよ、私は」

「なるほど……。それは確かに錬装はできませんね」

「うん、だから爆発の錬金術はその代わりみたいなもんなんだよね」



 正直、この爆発の力が無ければ、以前、戦ったグリーデンにも勝てなかったと思う。


 あの時は私が爆発の錬金術を扱い、樹木の錬金術を使うコンビネーションで不意をついて無力化に成功したが、グリーデンがもし錬装して戦っていたらどうなっていたか正直なところ、わからない。


 カナエは試合を眺めながら話を続ける。



「ですから、きっとあそこで戦っている二人もきっと錬装を扱えるはずですよ」

「ちょ、ちょっと待ってよ? けど……二人とも一回戦では使ってなかったような気がするんだけど」

「そりゃお前、錬装は錬金術の奥の手だからな。

 ……使っちまったら自身の手の内が全部周りにバレちまうだうよ」

「この大会は勝ち抜き戦だからね」

「……あっ」



 シルフィアはシドと私の言葉にハッとしたように目を見開いた。


 そう、錬金術師でもない相手に錬装を使い、それを他の錬金術師に見られて対策をされては戦いが不利になるだけだ。


 だからこそ、敢えて錬装を皆は使わずに苦戦したとしても錬装を使わない錬金術だけで相手を撃破していた訳である。



「だけど、相手が錬金術師となると話が変わってくる。それも強敵となれば尚更ね」

「……それじゃ」

「そうです、見れるかもしれませんね、彼女達の錬装が」



 そう言いながら、笑みを浮かべるカナエ。


 二人の戦いは近距離と錬金術の応酬が未だに続いている。この均衡を破るなら、一気に攻撃を仕掛けなくてはいけないだろう。


 どうなるかはお手並み拝見と言ったところだ。


 錬装が見れるかどうかは別として、私は必死に戦う妹の姿を真っ直ぐに見つめながら、どうか無事に終わって欲しいと祈るしかなかった。

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