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五戦目


 


 怪我は完治とはいかないが、私は今、サリエンツ・アレーナの会場に足を運んでいた。


 それは、妹のクロース・レナが試合を行うからである。


 しかも相手は私の元同僚の凄腕の錬金術師で『青狼』と呼ばれているアドルフォ・ミア。


 彼女の強さは私がよく知っている。だからこそ、レナの事が心配でこうして足を運んでわざわざ見に来たのだ。



「ありがとう……シド」

「おい、あまり無理はするなよ?」

「うん、大丈夫だから」



 私は苦笑いを浮かべながら、シドにそう告げる。


 この試合はちゃんと見届けないといけない、レナがもし殺されそうになったら、その時は私の身体を犠牲にしてもあの娘を護る。


 過保護だと笑われてしまうかもしれない、だけど、私が右腕を失い、左眼を捨て、性別まで奪われても護りたかったのはレナや共和国にいる人々の命だったんだ。


 だからこそ、私はこの身を犠牲にだってできる。大事な人を護れるのであれば。



「心配すんなキネ」

「シド……」

「もし、あの馬鹿がレナを殺しそうになったら私が止めに入る。だから、お前は心配しなくていい」



 シドは肩を軽く叩いて私に微笑みかけながらそう告げてくる。


 そして、周りにいるシルフィア達もシドと同じように私に頷いてくれた。


 そんな中、シドとは反対の肩を叩いてくる人物も同じように話をし始めた。



「私も居るからな、あの馬鹿が何かする前にどうにかするさ。

 すまなかったな、職務が忙しくてちゃんとミアの奴を見てやれてなかった」

「保護者かよ」

「似たようなものだ」



 シドに笑みを浮かべながら答えるレイ。


 そう、今日はレイも試合に足を運んでくれているのである。


 サリエンツ・アレーナでの激しい戦闘が繰り広げられている為、この度、共和国軍としても市民の安全を護らなくてはならないという事で派遣されて来たのだ。


 この事を進言したのはもちろん、レイである。


 私の見舞いに来たアルドが私のボロボロになっている姿を目の当たりにして、レイ同様にサクセサー・デュエルへの警備が必要である事を説いた甲斐もあり、おかげでなんとかレイもこの場所に足を運べたという。



「実際に負傷者も出てるみたいだしな、本来なら中止でもおかしくはないんだが」

「だけど、アルフィズ家の連中が黙ってないんだろう?」

「そう言うことだな、やれやれ困ったものだよ」



 実際、国としてもこのサクセサー・デュエルをエンターテイメントの興行として税金を納めてもらえる為、あまり、中止には賛同していないというのが現状だ。


 他人様の後継者争いでできたお金をあてにするなんて、いやらしい連中だとは思うけどね、本当に。


 会場の中央では、レナとミアが互いに見つめ合っている。



「ふふ、さてと……それじゃお手並み拝見といこうか? お嬢さん」

「えぇ、貴女もね」

「言うねぇ」



 既に二人は戦闘体勢に入っている。声が上がった瞬間、すぐに襲いかかれるように。


 会場にいる観客達も思わずそれを遠目に見ながら、静かに見守っていた。


 そして、いよいよアナウンスから会場全体に向かって試合開始の声が投げかけられた。



「第五試合! アドルフォ・ミア対エンポリオ・マルタ、試合開始!」



 その瞬間、まず飛び出したのはレナからだった。


 足に装着したバレッタを振りかぶり、思い切り風を纏った踵落としををミアの頭上から叩きつける。


 だが、ミアはそれを笑みを浮かべたまま、拳に装着したバレッタで受け止めた。



「面白れぇなお前! 嫌いじゃないぜッ!」

「この一撃をこうもたやすく受けられるなんてねっ!」



 そこからは、凄まじい拳と足技の応酬だった。


 ミアは飛んでくるレナの蹴りをことごとく拳で叩き落としながら、顔面目掛けて容赦なく殴りかかる。


 だが、レナもその軌道を読み、紙一重で避けながら、ミアと渡り合っていた。



「へぇ! 良い蹴りしてるじゃねぇかよ」

「貴女こそ」

「アタシはこれで戦場を渡り歩いて来たんだから当然だっ!」

「ぐっ……!」



 振りかぶったミアの拳を器用に脚で防ぐレナ。


 拳の威力で後退ったレナと拳を振り抜いたミアは再び間合いが開き、互いに見つめ合う。


 ジリジリと緊張感が漂う中、次に仕掛けたのはミアからだった。拳を地面に叩きつけ、下からは噴き上がるように水が意思を持ったように生物の姿に変わってゆく。


 やがて、それは蛇の頭の様になり、八頭の水の大蛇がレナを見下ろしていた。



「水の大蛇ってのは見たことねぇだろ?」

「……こんなこけ脅しで!」

「こけ脅しかどうか! 試してみなッ!」



 すると、八頭の大蛇は一斉にレナに向かって降り注ぐように襲いかかっていく。


 レナは暴風を使ってそれをなんとか退けながら、余裕のある笑みを浮かべているミアを見つめていた。


 なるほど、強い、水に関する錬金術師の威力もさることながら、冷静に自分の動きを観察している。



「だけど高みの見物を決め込むには早いんじゃないかなっ!」

「……ッ! へぇ」



 レナは身体を翻して、すかさず脚を振り下ろしてミアに向かってカマイタチを繰り出したが、水の大蛇の頭に防がれてしまった。


 そして、私も地面に足がつくその瞬間、振り上げた脚を思い切り地面に叩きつける。


 すると、そこからは巨大な竜巻が出現し、水の大蛇の頭を次々と狩りながらミアに襲いかかる。


 ミアさんは咄嗟にその竜巻から距離を取る様に後退し、体勢を立て直した。



「なるほど、伊達にキネを殺すと息巻いてる訳じゃ無さそうだ」

「見くびらないでください、僕の実力はこんなもんじゃない」

「じゃあ、その実力ってやつを存分に見せてもらおうかッ!」



 そこからは、互いに錬金術を繰り出しての戦いになった。


 水の虎や鮫が襲い掛かってくるが、レナは風の防壁を身に纏い、それらを一掃する。


 キメラとの戦いでは多分、実力を隠すために敢えて苦戦を覚悟しつつも力をセーブして戦っていたのだろうか。


 それだけ、レナの動きのキレように観客席から見ていた私も驚かされた。


 だが、ミアはそんなことはお構いなしと言わんばかりに容赦なくレナへの攻撃を止めようとはしなかった。



「かはっ!」

「おらおらっ! ボケっとしてんなよっ!」



 すると、その均衡を破るかのようにいつの間にか接近していたミアの拳がレナの腹部を捉えていた。


 レナの身体は宙に浮くが、そこから追撃するようにミアの素早い回し蹴りが炸裂する。


 レナの身体は地面を一転二転と転がり、素早く体勢を整えるように身構えた。



「……痛……つぅ」

「読みが甘いな、戦場での経験が足りねぇ証拠だ」

「……! 煩いッ!」



 すかさず、蹴りをミアに向かって放つレナ。


 だが、ミアはそれを見切ったように躱すと、右の拳をすかさずレナに向かって放つ。


 レナはそれを避けると、次にミアの右腕に脚を巻きつけるようにして組み、関節を決めるようにしてそのまま地面に倒れた。



「……っ! おっ! 今のは良い判断だ」

「このまま腕をいただきます!」

「だけどそうはいかないんだな! これが!」



 笑みを浮かべながら、レナにそう言い放ち左の拳をバンッと地面に叩きつけるミア。


 すると、地面から噴き上がるように水がミアとレナの身体を空中へと押し上げる。


 思わず目を見開くレナだったが、気づいた時には既に遅い。噴き上がった水の衝撃と宙に浮いた反動で、レナは関節を決めていたミアの右腕を解いてしまう。



水槌龍撃(すいついりゅうげき)ッ!」



 そして、レナから解かれた右拳を振り下ろしたミアはその噴き上がった水をそのまま利用して、水の龍を錬成し、それをそのままレナにぶつけた。


 水の龍はレナの身体を飲み込むと、そのまま下に向かって急降下すると一気に彼女の身体を地面へと叩きつけた。


 水と地面に叩きつけられた衝撃が彼女の身体を襲う。



「……ぐぅ⁉︎」



 容易にミアに間合いを詰め過ぎたとレナは反省した。


 もっと様子を見ながら、仕掛けていくべきだった。今の攻撃を受けたのは安易に自分が攻撃をミアに仕掛けてしまったからだろう。


 レナはゆっくりと身体を起こしながら、ミアの顔を見つめる。


 そこには、未だ涼しい顔でこちらを見下ろしている『青狼』の姿があった。


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