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ミアとレナ


 


 キネスとカナエ・アルフィズとの一戦から暫くして。


 僕は今、一人である場所に来ていた。それは、バイエホルンにある教会だ。


 キネスのあの力を目の当たりにして、私は思わず背筋が凍りついた。ナタリーの仇を取ると決めてはいたが、あの戦いを見た後ではそれができるかどうか不安で仕方ない。



「こんなところで神頼みをしてもしょうがないんだろうけどさ」

「……へぇ? わかってんじゃねぇか」

「……‼︎」



 僕は思わず、声がした方へと振り返る。


 そこには、先日、リドリー・ローエンを屠り殺した蒼髪の錬金術師、アドルフォ・ミアが前の椅子に両足を掛けながら堂々と座っていた。


 この女性の実力は私もよく知っている。共和国内でも最強だと言われていて、あのキネスよりも強いという話だ。



「何故、貴女がここに」

「別に私がどこにいようが、お前さんには関係ないだろう?」

「それは、そうですが……」



 そう言って、私は彼女に背を向けたまま淡々と話をする。


 明後日には、彼女と私はサクセサー・デュエルで戦わなくてはいけない、だからこそ、彼女となるべく接触したくはなかった。



「お前、キネの妹だってな」

「……さて、何のことか」

「すっとぼけんなよ、もう把握してんだ色々とな」



 そう言いながら、背後に座っていたミアさんは椅子から立ち上がるとゆっくりと私の側に近寄ってくる。


 そして、椅子に座っている私の横に立つと、私に対して淡々と言葉を投げかけてきた。



「戦争って奴はな……。色んなものを奪ってくもんさ」

「何が言いたいのですか?」

「……お前のそのキネに対する憎しみからの復讐って奴は、結局はお前の自己満でしかないって事だよ」



 そう言って、ミアさんは静かに教会に祀られている神様の像をジッと見つめる。


 私はミアさんの言葉に何も答えようとはしなかった。そう、それは理解していたからだ。きっと、ナタリーもそれを望んでいるわけじゃない事もわかっている。


 だけど、私はそれでもキネスの事が許せないでいた。私の親になってくれた人を殺して、私の事を忘れたように振る舞っているあの人が憎くて仕方なかった。



「お前さんの気持ちはわかる。私だって同じ経験があるしな」

「……え?」

「私の場合は仲が良かった姉を殺したよ、帝国の男に靡いて共和国内で諜報活動していたからな。

 その時は流石に堪えたよ、私は姉を憎んでいたわけでもなんでもなかったし、むしろ、幸せになって欲しいって思っていたくらいだ」



 ミアさんは淡々とそう語りながら、神様の像を見つめていた。


 きっと、姉を手に掛けた自分は天国に行く事は無いのだろうとでも考えているのだろうか、その瞳と横顔はどこか懐かしそうでそれでいて、哀しげにも見えた。


 それから、ミアさんは私の方へ視線を向けるとゆっくりと話をし始める。



「お前がキネを殺すかどうかは、お前自身の事だから私はこれ以上とやかく言うつもりはねぇ。

 けどな、私みたいに殺したくなくても殺すしか選択肢が無かった身から言わせてもらうと、お前はキネのことを何もわかってなさすぎる」

「……ッ! そんな事ッ!」

「殺したくてお前の大事な人を殺したと思うのか? 優しいあいつが」



 ミアさんはジッと私の目を見つめながらそう問いかける。


 その赤くて綺麗な瞳を見た私は何も言えなかった。確かに私はあの人の事なんて何にも知ろうともしなかったし、知りたくもないと拒絶していた。


 それを知ってしまったら、私はきっとキネスを殺す事を躊躇してしまうから。



「……僕はあの人に復讐すると、ナタリーの墓前で誓ったんです。今更なんと言おうが」

「…………まぁ良いさ」



 そう告げたミアさんは踵を返して、教会の扉へと歩き始める。


 私の顔を見て、何か思うことがあったんだろうが、彼女はそれを敢えて口には出さなかった。いや、出してもきっと一緒だと思ったんだろう。


 そして、彼女は教会の扉を開くと背を向けたまま私にこう告げ始める。



「話なら、戦い中でした方が手っ取り早い事だってある。まあ、お前が私を倒してキネスの前に立てるかどうかは知らねぇがな」

「……ッ!」

「手加減はしねーぞ、殺すつもりで掛かってきな、お嬢ちゃん」



 それだけ告げたミアさんは教会から出て行ってしまった。


 私は大きなため息を吐いて、教会の天井を見上げる。


 別に私は信心深いというわけではない、ここに来たのも単なる気まぐれだ。


 皆から信じられている神様という人のところに果たして、ナタリーは居るのだろうか。


 それを確認する術は死ななくてはきっとわかりはしない事だろう。



「……性には合わないことはするもんじゃないね」



 僕はやりたいように生きていくだけだ。


 神様に何か問いただしたところで答えは返っては来ないだろう。だったら、僕は自分が選んだ道の先で答えを見つければ良い。


 教会の席を立つと僕は神の像に背を向けたまま、ゆっくりと扉へと歩き始める。


 僕が選んだ道はナタリーの復讐という道だ。


 それが、正しい、正しくないは別として、きっとその道を選んだ先に答えはある。


 だから、まずは僕は倒すべき相手のことを考えるべきだ。



「アドルフォ・ミア……まずは貴女を倒してキネスの前に立つ!」



 それが果たして今の僕に可能かどうかはわからない。


 だけど、今日彼女に会って、僕は改めてそう決意を固める事が出来た。


 試合までにやれる事は出来るだけやっておいた方が良いだろう何にしても、次に戦う相手はキメラなんて比べ物にならない化け物なのだから。





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