一方その頃
私がベットで身体を休めている時の事。
シルフィアはネロちゃん達を連れて、買い物に出ていた。というのも、私の身体に効くものやこちらに来たネロちゃんやケイ(サラ)の衣服も買わなくてはいけない為だ。
初めて見る共和国の首都バイエホルンの賑やかな街並みにネロちゃん達は上機嫌のようであった。
「ネロちゃん! ネロちゃん! ほら! あれ食べようよ! あれ!」
「……あれは?」
「知らないの? バイエホルンと言えばボイルドックでしょう!」
「ふふふ、あら? よくご存知ね?」
嬉しそうにネロちゃんの手を引くケイ(サラ)の言葉にシルフィアは面白そうに笑みを浮かべながらそう告げる。
バイエホルンの名品といえば、バイエホルンヴルストという伝統的なソーセージが有名だ。
そのソーセージを使ったホットドッグは絶品で場所によっては連日、人の行列ができる店も存在する。
「あー、美味しそうッ!」
「はい、それだけだと寂しいだろうって思ってデザートにアップルペッツレを持って来てあげたわ」
「……こんな料理もあるんだ」
「そうよ、なんたってバイエホルンなんですから。美味しい料理なら盛り沢山よ、ネロちゃん」
そう言いながら、ネロちゃんの頭を優しく撫でるシルフィア。
アップルペッツレとは、生地にすりおろしたリンゴ、バター、砂糖を入れ、香りづけにシナモンを練りこんだ甘いデザートである。
特に美味しいレストランなどでは女性に人気が高く、味はアップルパイの中身に近いような食感。
「あまぁい!?」
「喜んでくれて嬉しいわ」
「……ボイルドックもとってもジューシー」
二人は幸せそうに食べ物を頬張りながら、満面の笑みを浮かべている。
私を心配してこちらに来てくれた二人だが、それまでは店を二人で切り盛りしていた為、いろいろと大変な事もあった。
だけど、ラデンがこちらに二人を呼んでくれたお陰もあり、ゆっくりとこうして休みを満喫できている。
私は二人には頭が上がらないからね、シルフィアがこうして二人を連れ出して街中を案内してくれているのは本当に助かっていると思うよ。
本来なら、私が彼女達にしてあげないといけない事だからね。
「食べ終えたら、適当に観光して、いろいろ買って帰りましょう、ビーアでも飲みながらね?」
「楽しみですねー、ですけどキネさんも連れて来たかったなぁ」
「……うん」
そう言いながら、しょんぼりと落ち込むネロちゃんとケイ(サラ)の二人。
そんな彼女達の表情を見ていたシルフィアは思わず私が二人から慕ってもらっている事に少し嬉しくなり笑みを溢す。
二人の気持ちも理解はできるが、怪我人である私をシルフィアも連れてくる訳にはいかないだろう、気を利かせて彼女は二人にこう告げ始めた。
「怪我が治って、大会が無事に終わったら皆でまた来れば良いわよ、何、お金なら私が全部負担してあげるわ」
「本当ですか⁉︎」
「当たり前じゃない、だって私もキネとデートしたいもの」
シルフィアはクスクスと笑みを溢しながら、二人にそう告げる。
最近、私とシルフィアは会っているとはいえ、パーティーに一緒に行ったくらいでちゃんとしたデートなどはまともにはしていない、というか出来ていなかった。
それも仕方ないと言えば仕方ないのであるが、正直、あまりそういう事が出来なくて私自身も申し訳ないとは思っている。
一応、仕事としてバイエホルンに来ているわけだしね。するとしてもサクセサー・デュエルが終わってひと段落がついたらの話だとは思うのだけれど。
「シルフィアさんはキネさんの婚約者さんでしたもんね」
「元ね、今も気持ちは変わって無いけれど」
「ですけど、私も退く気はありませんよ?」
「あら、それは宣戦布告かしら?」
ニコニコしながら、見つめ合うシルフィアとケイ(サラ)の二人。
そんな中、コーヒーを口につけながら呑気に二人を眺めていたネロちゃんはゆっくりと口を開くとこう告げ始める。
「……マスターはネロが貰う……。だってネロの師匠」
「むっ!」
「ふふ、意外と言うじゃない? ネロちゃんも」
そう言いながら、クスクスと笑いを溢すシルフィア。
そんなシルフィアの言葉にネロちゃんはどうだ、と言わんばかりにふんすっ! とドヤ顔をしていた。
まあ、私を巡ってはシドやミア程、こちらはピリピリはしてなさそうだ。基本的に優しい女の子ばかりだからね、普通はそうあって欲しいものなんだけども。
そもそも、女の子になってしまった私を巡って争いなんて起こって欲しくはないんだけどね。
「さて、それじゃそろそろ買い物に戻りましょうか?」
「はい! えーと、じゃあまずは服からですかね?」
「そうね、二人共可愛い服を選んであげるわ」
「本当ですか! だってさ! ネロちゃん!」
「……楽しみ」
テーブルで昼食を食べていた三人はそんな話をしながら席から立ち上がると買い物へと戻る。
それから、シルフィア達は様々な買い物をしながら、バイエホルンの街での1日を満喫するのだった。
一方、その頃、アルフィズ邸で休んでいる私はというと?
「ほら、キネさん脱いでください」
「ら、ラデン! 私一人で出来るから⁉︎」
「いーえ、ダメです! 怪我人なんですから! あと熱もあるでしょう?」
「ギクッ!」
ラデンからの手厚い看病を受けていた。
いや、看病は別にありがたいんだ。ありがたいんだけども、何というかラデンはどこか私の反応を楽しんでいる節があるからね。
すると、ラデンは私の額をそっと触ると目を見据えながらこう告げてくる。
「ほら! やっぱり! ……じゃあ、この座薬を入れなくちゃダメですね」
「ざ、座薬⁉︎」
「尻を出せ、介錯してあげます」
「介錯っておかしくないかなッ! 意味が違うと思うんだけど!」
「問答無用です!」
そう言いながら、ラデンは私の身体を押さえて無理やり着ていた服を引き剥がしはじめる。
ベットに押さえつけられている私だが、流石に義手がないこんな状態じゃラデンを引き剥がすなんて不可能だ。
すぐにピンクの下着姿にひん剥かれた私は後退りながら座薬を片手に迫ってくるラデンに涙目になりながら訴える。
「お、落ち着こう? ね? 座薬なんて無くても大丈夫だからッ! 私、お尻はちょっと……」
「えへへへ、キネさん覚悟ッ!」
「ちょっと待って! あっ! ダメっだってッ! そんなに引っ張ったりしたら! …………んんぅっ⁉︎」
ズリュッと私は何か身体の中に異物を入れられた感覚と同時に大事な物を失ってしまったような気持ちに陥った。
しかも、ラデンは座薬をしっかりと奥の方まで指を突っ込んで入れているのがわかる。私は思わず身体がのけ反ってしまい、それから力尽きたようにベットに顔を埋めた。
ラデンはというと、一仕事終えたとばかりにふぅと一息ついている。
「……覚えてろよ」
「ん? あぁ、キネさんがお尻の穴が弱いのは覚えてますんで」
「それは忘れていいっ!」
私は下着を直しながら涙目でラデンにそう告げる。
本当に身体が弱っているとろくな事は無い、何というか、最近、私はこんなのばかりだよな。
今日は不貞寝しておこう、もう、パジャマを着るのもめんどくさいからこのままでいいや。




