旧知の同僚達
アルフィズ邸に帰ってから数日。
私の元には連日のように見舞いが来ていた。というか、ネロ達やシド、ラデンなんかは元々、アルフィズ邸に寝泊りしているから見舞いというよりかは看病に近いんだけどね。
一番驚いたのはレイとミアが見舞いに来てくれた事だろう。
「だいぶ無茶な戦い方したなお前」
「心配したんだぞ? アレを使った時は気が気でなかった」
「あはは、心配させてごめん」
私は笑みを浮かべながら、ベットの側に座る二人に笑みを浮かべそう告げる。
確かにミアは破天荒ではあるけど、こう見えて仲間思いだし、根は優しい奴なんだ、ちょっと荒っぽいんだけどね。
シドはそんなミアを面白くなさそうに壁に寄りかかりながら嫌そうな顔を浮かべていた。
「ケッ! キネを言いくるめて部屋につれ込んだくせに何言ってんだこのタコ」
「あ? なんだ? まだ言ってんのかよ。まあ、キネは私の恋人だしな? へっ!」
「このクソ女、本当に殺してやるぞコラ!」
「病人がいる前でやめないか二人とも! ……それとミア、そんな取引ではキネはお前の恋人とは言えないぞ」
そう言いながら、二人を宥めるようにして冷静に告げるレイ。
なんだろう、レイが天使に見えてくるな、私なんてこの二人が喧嘩したら放置して帰ったというのにやっぱり頼りになると改めてそう思った。
「チッ!」
「だとよ、……まあ、私はキネとやることまでやっちまったけどな、お前と違って」
「おい、シド、余計に煽るんじゃない」
「ヘイヘイ」
ミアとシドは相変わらずの仲の悪さだけど、このやりとりを見るのは随分と久しぶりのような気もする。
すると、しばらくして、私の部屋の扉が開き、眼鏡を掛けた茶髪を束ねた綺麗な顔立ちをした男性が食事を持って現れた。
彼は呆れたようにため息を吐きながら、シドとミアを見ながらこう告げる。
「おい猿ども、外まで声が聞こえてたぞ。少しは静かにしたらどうだ」
「んだとアルド? 喧嘩売ってんのかてめぇ」
「全く、知性のかけらも感じられないぞ」
そう言いながら、彼はゆっくりと私のテーブルに食事を置く。
彼の名はアルド・ノヴァ、最後のイージス・ハンドの一人であり、現在、共和国の中でも名軍師、策略家として名を轟かせている天才だ。
彼にかかれば、共和国軍がどれだけ危機的な状況に陥ったとしても形勢を逆転させてしまうというとんでもない頭脳の持ち主である。
まあ、一つ癖があるとすれば、多少、口が悪くツンデレなところがあるというところだろう。
しかしながら、私は彼が好きだけどね、人間として。
「ありがとう、アルド。嬉しいよ」
「いや、気にしなくて良い。怪我した友人を見舞うのは当然だろう?」
「ふふ、変わらないね君は」
彼と僕はかつて、同じ男同士の親友として仲良くしていた同僚だ。
イージス・ハンドが三人とも女性だからね、それはそうなってしまうのも必然的だろう。
彼の趣味は顔や性格に似合わず、なんと家事をすることだというからびっくりだ。
「レイから聞いた時はびっくりしたんだぞ。身の回りの世話が必要ならいつでも呼んでくれていいからな」
「相変わらずアルドは優しいね」
「ばっ! ふ、ふん! 勘違いするなよ? 俺は親友として心配してだな……!」
「はいはい、わかってるって」
私は顔を赤くしながら視線を逸らし照れ臭そうに告げるアルドを見ながらクスクスと笑ってしまう。
それを見ていたレイは面白くなさそうに私を見ながら目を細めていた。なんだか知らないが、レイもまた面倒そうな事を考えてそうだな。
すると、レイは私の顔にズイッと近づいてくるとムッとした表情を浮かべながらこう告げてくる。
「私も心配したんだぞ、コラ」
「う、うん、わかってるよ」
「本当か?」
「当たり前じゃないか」
私は視線を逸らしながら、顔を引きつらせレイに答える、
何というか、皆、私に対して妬きもちをやきすぎてないかな。
いや、私が皆に心配をかけすぎたのかもしれない、前に研究所から救出された時もそうだった。
廃人寸前の私を皆心配して、生きている事に涙を流して喜んでくれた。こんな女の子の身体になって無様な姿になったにも関わらずね
「イージス・ハンド勢揃いだな」
「……俺達は仲間を見捨てたりなんかしない、喧嘩はするかもしれねぇがな」
「喧嘩? 先日のアレ、喧嘩って規模かい?」
「ちげぇねぇ」
「アレの後処理大変だったんだぞ、二人とも」
そう呆れたようにレイが告げると、皆、それが可笑しかったのか部屋の中が笑いで溢れかえった。
シドやミアがいくら反りが合わずに喧嘩して、互いに憎まれ口を叩こうとも、アルドがキツい言い方で指摘したとしても、私達が仲間である事は変わらない。
戦場を毎日、必死に生き抜き、共和国に住む臣民達の為に命をかけた。
それは、今でも私達の誇りであり、財産でもある。
「さて、それじゃ、私達は行くよ。軍の仕事があるんでね」
「そうだな、もうこんな時間だ」
「そうか、なら仕方ないさ。今日はありがとう二人とも」
私はレイとアルドの二人に笑みを浮かべながら、そう告げる。
二人のお見舞いでかなり元気を貰った。とはいえ、義手もない片腕だけの身体で安静にしなくちゃいけない身体じゃ元気って言えるかどうかはわからないけどね。
「おら、ミア行くぞ」
「そうだぞ、後、恋人の件についてちょっと話を聞かせて貰おうか?」
「あ、いや、違うんだレイ……。それはだな」
「いいから来い」
そう言いながら、ズルズルとミアを引き摺り部屋から出て行くレイ達。
相変わらずレイには頭が上がらないんだな、ミアの奴は、そりゃそうか、あの様子だといつもレイに世話になってるんだろうし。
レイはああ見えて、怒ると一番おっかないからね。
「さて、もう一眠りしようかな」
皆が居なくなって静かになったのを見計らった私は窓の外を見つめながらそう呟く。
早く身体を出来るだけ休めて、サクセサー・デュエルの決勝までに完治させないといけないしね。
外は良い天気なのに出歩けないのが残念だ。シルフィア達は何してるんだろうな。
そんな事を考えながら、横になった私は静かに瞳を閉じるのだった。




