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激闘の後

 


 カナエとの戦いを終えて、私が運ばれたのは医務室だった。


 勝負に勝ったとはいえ、身体はもちろん無事で済んだというわけではない、自身の義手ごと吹き飛ばすような捨身に近い錬金術はそれ相応の負荷を自身の身体に強いる事になる。


 私は今、サリエンツ・アレーナの医務室でアルフィズ家のお抱えの名医やレイが手配してくれた共和国軍の中でも手練れの医療専門の錬金術師から見てもらっている最中である。



「凄いダメージね……。貴女、これ、普通に死んでてもおかしくないわよ?」

「あはは……。ザックリやられちゃいました」

「笑い事じゃ済まされないんだけども……」



 呆れたように頭を抱えながら左右に首を振る女医さん。


 隣にいる軍の医療錬金術師も同じように首を縦に振っていた。


 いや、今更そんな事を言われても実際にこのトーナメント自体、死人が出ているわけだからね、私だって好きでこんな風にボロボロになった訳じゃないんだよ。



「カナエ嬢もかなり深刻だな。一歩間違えれば本当に二人共死んでいたよ、幸運だね」

「いや、本当にそう思います」

「貴女達、大事な身体なんだからもっと大切にしなさい? 女の子なんだからね?」



 私はその言葉に苦笑いを浮かべながら視線を逸らす。


 いや、私は元男なんだけどな、なんて言ってもこの二人は信じてくれそうにないだろうな。


 何にしろ、傷の手当ても終わったし、後は代わりの義手が必要なだけなんだけど、さてはて、どうしたものかな。



「幸いにも、傷跡も残らない治療があるから、ひとまず一週間は安静にしてもらえれば」

「へ? 一週間?」

「あぁ、大会なら大丈夫よ、サクセサー・デュエルの決勝は二週間後くらいだから心配しないでキネ」



 私の背後から声が聞こえて来たので振り返ってみると、そこには笑みを浮かべているシルフィアの姿があった。


 だが、すぐにそのシルフィアの笑みは私の痛々しい包帯姿と義手が無くなった腕を見て悲しげな表情に変わる。



「ごめんなさい。無茶させちゃったみたいで……その」

「君が気にする事は無いさ、私が進んで戦ったんだ。これはその代償に過ぎないさ」

「でも……」

「この催しに出る事が決まってから、ある程度覚悟は決めていたつもりだよ。だから、これは君のせいじゃ無い」



 私はそう言いながら、心配そうな表情を浮かべているシルフィアに笑みを浮かべてそう告げる。


 一方でカナエの方だが、彼女は今、別室のベットに横になっている状態だ。私の技を防御したとはいえ、やはり、そのダメージはかなり深刻だそうで回復には二週間ほど掛かるのだそうだ。


 防御もせず、まともに受けていれば間違いなく即死だっただろうと医者や医療錬金術師達は口を揃えてそう言っていた。


 私もそのカナエの戦場を生き抜いてきたセンスにかけてあの技を繰り出した、そうでなければ、あんな無茶苦茶な技を彼女に向けて使うことはなかっただろう。



「あの技をカナエが防いでくれて、本当に良かった。

 じゃなきゃ、彼女の事を私は……」

「キネ……」

「あはは、自分が嫌になるよね。あれじゃ歩く大量破壊兵器なんて言われても仕方ないか……」



 私は苦笑いを浮かべながら、シルフィアにそう告げる。


 そんな私にシルフィアはなんとも言えない表情を浮かべていた。私もきっと彼女と同じ立場なら同じように何と言葉を掛ければ良いかわからないと思う。


 さて、とりあえず治療はあらかた終えたし、そろそろアルフィズ邸に戻るとしようかな。



「それでは、治療ありがとうございました、もういきます」

「そうですか、身体をお大事になさってくださいね」

「はい、ありがとうございます」



 私は治療してくれた二人に頭を下げながらそうお礼を告げる。


 とはいえ、まともに歩いてはいけないので、私はシルフィアの肩を借りながら病室を後にした。


 本来なら、一ヶ月以上の入院などが必要になるのだが、特別にサクセサー・デュエルの期間中は定期的に彼らが治療をしに来訪してくれるという事だったので私はこうして、シルフィアと共にアルフィズ邸に帰る事ができるのだ。


 とはいえ、安静にしとかないと傷口が開いてしまうからね、しばらくはアルフィズ邸に帰ってもベットの上からは動けないだろうけど。



「……新しい義手も作って貰わないとね」

「そうね、誰かあてがあるの?」

「あぁ、レイなら頼めばきっと用意してくれると思う。

 あの義手は私のお手製なんだけど、ほら、今、私はこんなだからさ」



 私は引きつった笑みを浮かべながら、シルフィアにそう告げた。


 怪我がなければ片腕でも作れるのは作れるんだけど、流石に今の状態で無茶は出来ないからね、こんな事ならストックを作っておくべきだったなと素直に反省してる。


 まあ、無事にこうして生きていられるだけでも感謝だけどね。


 私は歩きながら、そんな事を考えていた。



「あ……」

「ん? どうしたの? キネ」

「いや、……綺麗な空だなって思ってさ」



 そう言いながら、空を見上げてシルフィアの方へ私は笑みを浮かべる。


 歩く大量破壊兵器、いつか、私のこの力がたくさんの人の命を奪う日がきたりしないだろうか。


 その時、こんな綺麗な空を純粋な気持ちで見上げられなくなる日がくるかもしれない。


 できれば、もうこの力を使って戦いたくはないなと私は密かにそう思うのだった。

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