激突
私は目を見開き、カナエから発せられた言葉に驚きを隠せずにいた。
だが、驚いてばかりはいられない、私はすかさず、回し蹴りをカナエに放ち、再び間合いを取ろうとする。
しかし、カナエは身体を翻してその回し蹴りを躱すと刀を使った鋭い突きを連発で私に放って来た。
膨大な電気を帯電した刀での連撃、一撃でも浴びればただでは済まないだろう。
「ぐぅ……!」
「いつまで避け切れますかね!」
そう言って、笑みを浮かべたまま、躱し続ける私に容赦なく連続で刀を突き刺してくるカナエ。
カナエの言う通り、避け続けるのはだいぶ無理がある。いつか、私の身体に帯電した刀が突き刺さるのは時間の問題だ。
おそらく、あの刀で一度でも刺されたら私は再起不能となってしまうだろう。身体中に電流が走り、もしかしたら無事では済まず、何かしらの後遺症を負う事にもなってしまうかもしれない。
だけど、退くわけにはいかない。私は敢えてカナエの懐に飛び込む。
「逃げるつもりなど! 毛頭無い!」
「ぐっ! 間合いに飛び込んでくるなどッ!」
「道を切り開くならッ! 危険だろうと飛び込むさッ」
そして、私を迎え撃たんと刀を持ち替えるカナエ。
だが、私はその瞬間を狙っていた。かなりの近距離、私は格闘技での連撃をカナエに容赦なく浴びせる。
これをまともに食らったカナエは思わず後退するが、目を見開くと、雷撃の翼を駆使して、私に反撃を仕返してくる。
「貴女のその右腕と左目! 私の父から奪われたものだろうッ!」
「そうだよ、君のお父さんには色々と言いたいことがある!」
「生憎だが! 私の父に貴女が会う事は二度と無いさッ!」
そう告げるカナエは私に雷撃を次々と錬成し浴びせてくる。
だけど、私はそれを爆破の錬金術を駆使しながら、その攻撃を躱し続ける。雷撃の威力も相当なもので、凄まじい破壊力があり、地面を抉りとっていた。
「あんなの食らったらひとたまりもないですね……」
「あいつがまさかデスドラドの娘とは思わなかったな、しかも……かなり強ぇ」
私と激戦を繰り広げているカナエを見てそう呟くシド。
死の十字架部隊、デスドラド直属の特殊部隊で彼らと戦場で出遭えば死体しか残っていないと言われている。
デスドラドの直属の最強部隊、死の十字架部隊は戦時中は帝国内で最強と言われていた。
しかも、カナエはその部隊の副隊長、圧倒的な力を見せつけられたら、たしかにその実力も頷ける。
「クロース・キネス! 貴女のような好敵手に出会えて嬉しく思うぞッ! 愛情すら湧いてきそうだッ!」
「戦闘での愛情はちょっと遠慮したいな」
「つれないじゃないかッ!」
そう言って、また雷撃を繰り出すカナエ。
私は身体の異変に気づき、胸の辺りを抑える。本来、私が人体実験で得たこの力は歩く大量破壊兵器として帝国から与えられたものだ。
このままでは、正気をまともに保てなくなる可能性があり、もちろん、身体にもかなりの負荷が掛かる。
もう、そろそろ決着をつけないといけないな。
「私も余裕があまり無いんだよ」
「人体実験の代償ですか、その力が暴走するのも時間の問題ですね」
そう言って、刀を鞘に収めるカナエ。
そして、纏っていた雷は収束するようにカナエの刀と足元に集まっていく。それを目の当たりにしていた私は次で決着がつく事を予感していた。
私も同じように大きく息を吸い込んで真っ直ぐにカナエを見据える。
「なら、私の奥義をもってして決着といたしましょう」
「それなら、私も受けて立たなくちゃね」
私は右腕の義手にメモリアを握りしめ、軽く術式を施す。
これは私のとっておきだ。その分、リスクはあるが威力は相当なもの、この錬金術は扱い方を間違えれば、下手をすれば大惨事になる事だってある。
互いに構えて睨み合う私とカナエ。
そして、一気に空気が張り詰めていく中、最初に動いたのはカナエからだった。
チュンッ! と足元から火花が散ったかと思うと次の瞬間には私の間合いに入っている。
バチバチと雷と火花を散らしながら、彼女は私に向かい刀を抜刀し、斬りかかってくる。
「これで終わりだ! クロース・キネス! 雷神抜刀」
「そうだねッ! これで終わりだ!」
だけど、私は退かなかった。雷を纏った刀に向かい私は義手を振り下ろす。
凄まじい火花が私とカナエの間で炸裂するが、私はそれでもその義手の拳を刀に向かって突き出していた。
普通なら、力負けするだろう事は目に見えてわかっている。
だが、私は咄嗟に義手の手を開くと、とっておきの奥の手をカナエに向かって発動させた。
「大紅蓮大爆撃破!」
私がそう叫んだ瞬間、私の着けていた義手が徐々に破壊され、そして、次の瞬間、カナエが斬りかかってきた方向に向かって、信じられないほどの大爆発が起きた。
そして、その衝撃は観客席にいる人達まで伝わってくる。
サリエンツ・アレーナは私の初戦での出来事から、会場の観客席を取り囲んでいる場所に特殊な錬金術を用いた強固なガラスと防護設備を導入したのだが、それでためなお、その衝撃と爆音が伝わったのである。
戦車50車輌が一斉に砲撃しても決して破壊されない強固な設備、それらがあるにも関わらず、その衝撃が観客席にいる彼らに伝わるのは異常であるとしか考えられなかった。
立ち昇る爆炎の中、ゆっくりと私はボロボロの身体であちらこちら出血しながらも、右肩を左手で押さえ皆の前に姿を見せる。
「はぁ……はぁ……。これが、私のとっておきだ」
この技の代償に私の右腕の義手は吹き飛んでおり、私は息を切らしながら、吹き飛んだカナエの方を向いてそう告げる。
会場にいる観客達は立っている私を見つめながら、湧く事なく静まりかえっていた。
すると、吹き飛ばされた爆炎の中から、ゆっくりと身体を引きずり、血だらけでボロボロになっているカナエが姿を表す。
おそらく、咄嗟に私に振るう力を防御に回したのだろう。でなければ、身体が四散するか跡形もなく消し飛んでいてもおかしくはない。
「…………見事……です……」
血塗れのカナエはそう呟くと、ゆっくりと前のめりになるようにして地面に伏した。
それを見届けた私は、すかさず左手でメモリアを口に放り投げそれを噛み砕き、自身の状態を解除し、いつも通りの金髪の髪色へと変化する。
手強い相手だった、間違いなく一歩間違えていれば私がやられていた程の強さだ。
デスドラドの娘、カナエ・アルフィズ。戦場でもし、戦っていれば、殺されていたのは私かもしれない。
私はその場にゆっくりと座り込むと空を見上げていた。
勝利宣言をするアナウンスの言葉は何やら聞こえてくるような気がしたが、今の私の耳には一切聞こえて来なかった。




