奥の手
雷撃を身に纏うカナエはゆっくりと刀を構え始める。
静かな殺気、私はそれを感じ取るとすぐに構えてカナエに対峙する。
どんな攻撃を繰り出してくるか全く予想がつかない、私もこればかりは冷や汗を垂らしてその時が来るのを静かに待っている。
「……雷閃」
「……っ⁉︎」
そう呟いた瞬間、とんでもない速さの雷の斬撃が私に向かい飛んでくる。
そんなものを咄嗟に躱す暇なんて無い、私は直ぐに義手を前に防御の体勢を取るが、右肩から腹部にバチィという音と共に焼かれたような衝撃を受けた。
その斬撃と共に壁に叩きつけられた私は思わず表情を曇らせ、悲鳴をあげる。
「あぁぁぁァッ‼︎」
火傷からは暫くして、ブシュリっという音と共に血が吹き出てくる。
私は暫くフラフラと歩くとバタリッと前のめりに地面に伏すように倒れた。
あまりの激痛に私はそのまま傷を押さえるように蹲る。焼けるような痛さが来たと思いきや、次に斬撃を浴びせられたような激痛に変わった。
そんな私の姿を遠目から見ていたラデンは唖然としていた。
「なんて技! 一瞬でキネさんが斬られたっ!」
「キネッ!」
そして、それを目の当たりにしていたシルフィアは思わず私のその姿に悲鳴をあげる。
今の一撃はかなり効いた。避ける間もない雷の斬撃、しかもかなりの威力ときたもんだ。
いくら戦場で活躍した私といえども超人という訳ではない、これだけのダメージを受ければ身体も無事とはいかないだろう。
倒れている私を見ながら、カナエはゆっくりと話をし始める。
「他愛ないですね? こんなものですか、キネスさん」
「ぐっ……」
「まだ立てるでしょう? 貴女なら」
そう言いながら、冷たい眼差しを向けてくるカナエ。
それは、このまま寝るなんて事はできないだろう。私が負ければ、シルフィアの妹や家政婦達の命が取られてしまうかもしれないし、膨大なアルフィズ家の財産だってどう扱われるかわかったものではない。
シルフィアから頼まれたんだ。こんなところで寝ているわけにはいかない。
私はゆっくりとボロボロになった身体をその場から起こし、まっすぐにカナエを見つめる。
「さて、可哀想なので早く終いにしてあげましょうか」
「………ッ!」
このままでは間違いなくカナエにやられてしまう。
私はゆっくりとその場で構えをとる。これは、出し惜しみなんてしてる余裕なんてないだろうな。
私は自分のバレッタにあるメモリアを装填すると左腕に撃ち込んだ。
するとその行動を目の当たりにしていたカナエは目を見開いた。
「なっ……! 血迷いましたか!」
「いや、これで良いんだ」
私は目を見開いているカナエに笑みを浮かべそう告げる。
私の力が覚醒させるためにはこれが必要なんだ。私自身に撃ち込む事で私の本来の力を発揮する事ができる。
だけど、それにはもちろんリスクがあるんだけどね。
大きな力にはそれなりの代償が伴うのは当然の話だ。
「……髪が……」
変化していく私の髪色にカナエも思わず目を見開く。
私の本来の力を引き出すとなると、メモリアを自分に撃ち込む必要がある。
だが、それにより、私の特化してる錬金術が増えるというわけだ。これは、私が帝国の人体実験によって得た能力でもある。
「準備は良いかい、カナエ・アルフィズ」
私は不敵な笑みを浮かべながら、彼女にそう告げる。
バレッタを構えた私は容赦なくそれをカナエの前方に向かって放つ。
すると、地面にメモリアが着弾した途端、凄まじい爆発が起こり、カナエはその衝撃で吹き飛ばされた。
「錬金術が! 変化しただと⁉︎」
「私の隠し玉って奴さッ!」
私はそう言って、笑みを浮かべる。
まさか、私がこんな風に多彩な錬金術を使ってくるとは思わなかっただろう。
樹木の他にこんな隠し玉を持っていると予想できるような奴はとんでもない化け物だ。
私はすぐさま、吹き飛んだカナエに追撃を仕掛ける。
「もう一撃だ!」
「たかだか変化したぐらいでッ」
そう言って、刀を構え直したカナエは電光石火のような速さで私の背後を取る。
だが、カナエはどうも勘違いをしている。
私の錬金術は変化なんてしていない、特化したものが増えたに過ぎないのだ。
「それも、読んでたよ!」
「何ッ⁉︎」
地面に仕掛けていたメモリアが瞬間、発動し、カナエに向かって発現した樹木が勢いよく襲い掛かってくる。
カナエは咄嗟に身体を翻してそれを避けるが、私はそれも計算にいれていた。
斬りかかる為に間合いを詰めてきたのはカナエの方だ、私じゃない。
「この距離なら避けれないだろ!」
「しまっ!」
私はメモリアをカナエに向かって撃ち込む。
すると、物凄い爆発が私とカナエの間に炸裂し、私とカナエの身体は互いに大きく後方に吹き飛んだ。
私ももちろん無事というわけにはいかない、だが、自分の錬金術だ。コントロールして、自分に掛かるダメージを軽減する事はできる。
爆発で吹き飛ばされた私は地面を転がるように受け身をとると、バレッタに詰めていた残りのメモリアをカナエが吹き飛んだ方へと放つ。
「そらっ! おまけだッ!」
私から放たれたメモリアはカナエが吹き飛んだ箇所に着弾すると盛大な爆発を起こす。
爆風が辺りを吹き飛ばし、カナエが吹き飛んだ方向にあるサリエンツ・アレーナの壁も吹き飛んだ様に飛び散った。
下手をすれば跡形もなくなって、身体が四散してしまってもおかしくはない。
そして、暫くすると爆炎の中から、ゆっくりと刀を構えた血だらけのカナエがゆっくりと姿を現した。
「はぁ……はぁ……。やっぱり手強いですね」
「そりゃそうとも、私も負けられないんでね」
互いにボロボロになりながら笑みを浮かべる私とカナエ。
これで、ようやく五分ぐらいに持ってはいけたかもしれない、だが、互いの様子を見る限りだとそんなに長期戦ができるようにも思えないな。
この力を長く使えば、それだけリスクはあるし、ここは短期決戦が望ましいだろう。
「そう言えば……。私の父の事、貴女にちゃんと教えていませんでしたね」
「家庭の事情だしね」
カナエは淡々と語る私の言葉に笑みを浮かべる。
昨日、カナエの口から聞きたかったというのはあったが、あまり、人様の家庭の話を根掘り葉掘り聞くのも失礼だと思って聞くのを遠慮しておいた。
だが、ここにきて気が変わったのか、カナエの方から私に話を振ってきはじめた。どういう心境の変化だろう。
「ここまで戦う貴女に敬意を評して、教えてあげようかなと思いまして」
「ははっ……。それは光栄だな」
「私の父はッ!」
刀を構えたカナエは目を見開き、錬金術を使って一気に私に間合いを詰めてくる。
私もすかさず応戦する様に身構えて構えて、カナエが振り下ろしてきた刀のバレッタに合わせる様にバレッタを構える。
だが、ここまでカナエの太刀筋を見ていれば、いくら早かろうがその動きも大体把握できている。咄嗟に私は軽く流す様に振り下ろされた刀を義手を上手く使って躱した。
しかし、カナエはここで戦い方を変えてくる。そこから、なんと、蹴りを繰り出してきたのだ。
私はそれも、紙一重で防御し、真っ直ぐにカナエを見据える。
「私の父は、グロスキン・デスドラド!
私はデスドラド将軍の娘、死の十字架部隊副団長! カナエ・アルフィズだッ!」
「……‼︎」
私はカナエの口から発せられた言葉に目を見開く。
そして、その声高々なカミングアウトに会場にいた共和国、帝国の観客達はざわめき始めた。
私は咄嗟に身体を翻して、回し蹴りをカナエに繰り出すと、彼女からすかさず間合いを取った。




