雷撃の巫女
カナエの連撃をなんとか凌いだ私だったけど、それでも戦況が好転したとは言い難い。
刀に手を掛けたカナエは踏み込むと一気に私に向かい加速してくる。
しかし、瞬間、また電撃が走ったかと思うと私との間合いを一気に詰めてきていた。
「秘剣! 電閃!」
「うぐっ!」
私は咄嗟に義手を前にして防ぐが身体を吹き飛ばされ身体を壁に叩きつけられた。
早すぎて見えなかった。だけど、ようやく彼女が何の錬金術を使い攻撃を仕掛けてきているのは理解できた。
なるほど、それならあの速さは納得だ。目で追えない速さだったから何かしら仕掛けてきているのはわかっていたのだけど、それが何かまではわからなかったが。
「……なるほど、やっぱり電撃だったのかよくわかったよ」
刀で斬り付けられた義手が帯電しているのを見て、それが確信に変わった。
電撃を扱う錬金術師、それがカナエだ。確かに戦場ならかなり強力な錬金術だと思うし、使い方によっては多大な戦果を挙げれるだろうと思う。
だが、扱う錬金術がわかればそれなりの対策も取れる訳だしね、私もそれを元に立ち回らせてもらうだけだ。
「今更気づいたところでっ!」
「対策はできるさッ!」
私はバレッタを構えるとメモリアを地面に撃ち込む。
すると、撃ち込まれたメモリアからは一気に樹木が出現して、私を上へと突き上げるように伸びる。
そう、高い空中なら電撃を使って間合いを詰める事は困難な筈だ。
「……それは安直なのではないですか?」
「何だって」
だが、カナエは私のとった行動をそう言い切ってみせる。
すると、カナエは体勢を低くしたかと思うと私の出現させた樹木を素早く電撃で加速して駆け上がって来はじめた。
この光景に思わず私も目を見開く、いや、樹木を駆け上がってきたからといって、そこから高い空中まで逃れた私にまで辿り着けるとは限らない。
私はバレッタを使い、地面にメモリアを撃ち込みツルを出現させると身体を巻きつかせる。
だが、その行動を取る前に私の目の前には刀を構えたカナエが迫っていた。
「……⁉︎ いつの間にッ」
「だから言ったんですよ、安直ではないかとねっ!」
私の肩を貫く様に帯電した刀が貫通する。
そして、私の身体はそのまま一気に加速したカナエから地面に叩きつけられた。
「カハッ!」
「貴女の左腕も貰いましょうかっ!」
そう言って、力を込めるカナエだが、私は咄嗟に義手でその刀を掴みそれを阻止する。
もう片方も義手にされるなんてたまったものではない、そして、地面に叩きつけられて、こうなった時の保険はすでに掛けてある。
私が放ったメモリアの一つ、それが発現し、複数のツルが勢いよくカナエに向かって伸びていく。
そう、ここまでが、私が計算した対策というわけだ。
「……なっ‼︎」
「安直だったのは君だったな、私に刀を刺してしまえば錬金術は発動できないだろっ」
ツルはカナエの身体を捕らえて、縛り上げるように絡みついていく。
電撃で加速して動きが素早いカナエをバレッタで発現させた樹木で捕えるのは困難だが、こうして動きを固定してしまえば捕縛はできる。
肉を切らせて骨を断つとは言わないが、私の錬金術とカナエの錬金術の相性を考えた時にこの策が一番有効だと思いついた。
もちろん、だからといって、空中に逃げて叩き落とされるまでが全て仕込みだったという訳ではない。
あれももちろん、考えていた策の一つだ。
それが通用しない時の事まで、考えておいたのはやはり正解だったな。
「ぐぅ!」
「どうした? 私から早く刀を抜かないとそのツルは君の首を締め上げるぞ」
ミシミシと締め上げる様な音を立てて、カナエの身体に巻きつくツル。
カナエも私に力を入れている為、締め上げてくるツルを引き離せないでいる。このままだと、彼女が酸欠になって気を失うのは時間の問題だろう。
すると、彼女はその場からゆっくりと立ち上がり、私から一気に刀を引き抜く。
「ぐっ!」
「小癪な真似をッ!」
だが、私はその瞬間、ニヤリと笑みを浮かべた。
きっと彼女が次に取る行動はきっと、自分に巻き付いたツルを刀を使い切り落としていく事だろう。
だが、それは既に予想済みだ。だから、私は右手の義手でバレッタを掴むと彼女の足元にメモリアをすかさず撃ち込んだ。
私以外に刀を振るうためのこの一瞬の隙があれば十分だ。
「しまっ!」
「release! (解放)」
瞬間、地面からものすごい数のツルが一気にカナエの身体に何本も巻き付いていく。
ここまで絡みついてしまえば、もはや身動きすらままならないだろうし、刀だって振るう事はきっとできないはずだ。
私は左肩の傷を押さえながらゆっくりとその場から立ち上がる。
「まだやるかい?」
「ぐっ……。こんな植物如きッ!」
「自然の力を舐めない方が良い、そのまま君の全身の骨を砕く事だってできるんだよ?」
私はミアと同じ様なセリフをカナエに向かって告げる。
だが、一方、カナエは静かに笑みを浮かべると、私をまっすぐに見据えながらゆっくりと話をし始める。
「……ふふ、それもそうですね」
「それは負けを……認めるのかな?」
「ですが、それとこれは話は別です」
そう告げたカナエの雰囲気が先程とは一変する。
私はその事に勘付き、すぐにその場から間合いを離した。カナエの周りにチリチリと電気の火花がバチバチと散り始め、刀に集まっていた。
そして、刀から放たれた電撃が次々と彼女の身体に巻き付いていたツルを焼き切っていく。
「不味い! ここは一気に絞めて」
「遅いッ!」
既に発現した雷はカナエの身体を包み込み、すべてのツルを焼き切る。
そして全てのツルを焼き切った雷をカナエはそのまま翼が生えた様に身に纏う。
雷の翼、それを見た私は思わず表情を曇らせた。
あれだけ強力な電撃をスピードと斬撃に乗せて繰り出してきていたカナエ。
しかし、それとは別に更にこんな奥の手を隠し持っていたという出来事は私が予想していた戦闘の展開を更に上回っていた。
「まさか、貴女にこれを使う事になるとは思いませんでしたけどね」
雷の翼を振るうカナエは笑みを浮かべながら私を真っ直ぐに見据えてそう告げる。
あの刀、確か紫電という名のバレッタだっただろうか、これだけの芸当をやってのけるなんてとんでもないな。
そして、カナエは電撃を纏うそれをゆっくりと私に向けながらこう告げてくる。
「雷装、雷電天女と言います、貴女は果たして受け切れますかね? キネさん」
カナエは笑みを浮かべたまま、静かな殺気を私に向けてそう告げる。
私もこんな錬金術を目の当たりにしたのは正直言って初めての事だ。
刀を構えたカナエに私も冷や汗を流しながらゆっくりと身構える。
私が左肩を貫かれてまで考えた策もこれで無意味という事になった訳か、これはいよいよ、追い込まれてきたな。
肩から流れ出てくる血を止める様に傷口を押さえながら、私は静かに刀をこちらに向けてくるカナエを見つめていた。




