カナエ
夜中、目が覚めた私は皆が起き出さないように気を使い、一人、公園のベンチに座っていた。
今日の昼にはカナエ・アルフィズとの試合が始まる。
サクセサー・デュエルでの錬金術師との試合はこのカナエとの試合が初になる。
立ち回りもそうなんだが、相手の使う錬金術もよくわかっていない。
「情報が少ないんだよな……。さて困った」
私はそう呟きながら夜空を見上げる。
人通りが少ない公園、正直、あれからミアとシドの様子を見に行こうかなとも考えたけど、私がいるとまたややこしくなりそうかもしれないと考えやめておく事にした。
そんなわけで、私は一人、煙草を口に咥えながら一人で黄昏ている真っ最中という訳である。
「……あら? こんな時間に会うなんて奇遇ですね」
「んあ?」
私は間の抜けた声を溢して、声をかけられた方へと視線を向ける。
そこには、笑みを浮かべて刀を携えた黒髪の女の子が立っていた。
そう、その女の子は私がサクセサー・デュエルで次に戦う事になっているカナエ・アルフィズである。
まさか、こんな夜中の公園でぱったり出会す事になるなんて思いもよらなかったな。
「ちょっと寝付けなくてね」
「あら? 緊張でもされてるんですか?」
「まさか、緊張というよりかは少し考え事があってね」
私はカナエの言葉に苦笑いを浮かべながらそう答える。
しかしながら、これについては逆に私もカナエに問いたい事だ。こんな時間になんで彼女が公園に居るのか分からない。
「それで、君はなんでここに?」
「明日に向けて少し身体を動かして調整してたんですよ、貴女が相手ですしね」
「あはは、そんなに意気込まなくても……」
「そうもいきませんよ」
私の言葉に肩を竦めながら答えるカナエ。
わざわざ私との対決の為に調整までしてるなんてね、余計に気が抜けそうに無い相手だと感じさせられるな。
「イージス・ハンドのクロース・キネスが相手ですよ。
武人として、やれる事をやっておかないと後悔するじゃないですか」
「……それは光栄だね」
そこまで買われていると、私としてもカナエに対して何かしら対抗しなくてはいけないなと思ってしまう。
とはいえ情報が少ないので、何をすべきか迷っているのが現状だ。せめて、彼女がどんな錬金術を扱うのかがわかればだいぶ違うのだけどね。
「では、私はこれで」
「あ……ちょっと……」
「ん? 何か?」
私は思わずカナエを呼び止めてしまった。
特に用があるわけじゃ無い、だけど、彼女と少し話でもすれば、情報を引き出せるかもしれない。
私は笑みを浮かべたまま、咄嗟に自分の隣のベンチを軽く叩いてカナエにこう告げる。
「良ければ少し話でもしない? 君の事をもっと知りたいんだ」
「…………」
足を止めたカナエは目を丸くして私をジッと見つめてくる。
あれ? 私、何かおかしな事言ったかな? 別に何もおかしな事は言ってないような気もするんだけど。
するとカナエは笑みを浮かべたまま、私に首を傾げこう問いかけてくる。
「もしかして口説いてます?」
「なっ⁉︎ ち、違うよっ! そういうつもりじゃ……」
「ふふ、冗談ですよ……」
軽く笑みを浮かべ告げるカナエ。
その仕草に思わずドキッとしてしまう。いや、女の子同士なんだから別にそんな風になる必要は無いんだけども、自分で女の子って言っててなんだか悲しくなってきたな。
カナエは私の横に腰を下ろすとこう問いかけてくる。
「それで、何が聞きたいんです?」
「……そうだな、君の生い立ちとか」
「生い立ちですか……」
うーんと考えるカナエ、私としてもこれをいきなり聞くというのはどうかとは思ったけど、敵を知ることは大切だ。
どんな生い立ちで生きてきたのかを知れば、きっと対策の糸口も見出せる事ができるはずだ。
だからこそ、私は彼女の生い立ちから知ろうと考えた。
「そうですね、錬金術師としては……私は父から様々な事を学んできました」
「父?」
「えぇ、父です。父は軍の中でも武闘派だったのです、そんな父から私は物心ついた時から英才教育を受けさせられました。幼い時から戦場にも連れて行かれましたね」
「へぇ……。父親は軍人だったのか」
私はカナエの話に感心したように声を溢す。
軍人の父親、それから錬金術の手ほどきを受けたのか。なるほど、だから戦場でもその実力を発揮できたという事なのかな。
問題はその錬金術が一体何なのかという事だけど、果たして彼女からそこまで聞き出せるだろうか?
「戦場に出たのはいつから?」
「大体、10歳くらいだったでしょうか? まぁ、慣れない内は父の側で戦わせて頂いたのですけどね」
10歳から戦争を経験しているという事実に私は思わず目を見開く。
それが、本当ならとんでもない麒麟児じゃないだろうか。しかしながら、人の死を目の当たりにしたのが10歳からというのはなんとも言えない気持ちになる。
それから、カナエは腰にある刀をスッと前に出すとゆっくりと話をし始める。
「この刀は父から頂いた特注品です。紫電という名前なんですけどね」
「紫電……」
「はい、この刀は私と共に戦場を駆けてきた掛け替えのない相棒です。
この子が居てくれれば、私はどんな相手でも負ける気はしません」
カナエは私に笑みを浮かべてそう告げる。
刀の名前からして、なんとなくどんな錬金術を扱うのかうっすらと推測は出来る。
だが、それでも確定という訳ではない、もっと情報を聞き出したいところだけど。
すると、カナエはベンチから立ち上がるとゆっくりと刀を前に差し出し私にこう告げてくる。
「もちろん、貴女にも負けるつもりはないですよ? ……じゃあ、明日もあるので私はこれで」
「あっ……」
そう言って、私の前から踵を返すとカナエは立ち去って行く。
私の思惑を知ってか知らずか、話を切り上げて私の前から早足でカナエは立ち去ってしまった。
結局、刀の名前とカナエがいつから戦場に出ていたのかしかわからなかった。
とはいえ、彼女が相当な場数を踏んできた錬金術師である事は確信が持てた。
年齢が幼い時から戦場に出ていれば必然的に殺し合いの中で経験を積めるのも頷ける。
「……あくまで推測でやるしかないだろうな」
私は一人、夜空を見上げながらベンチで静かに呟く。
カナエ・アルフィズの事が少しでもわかっただけでも良しとしよう。
明日は気を引き締めて、カナエに対して出来る事をやるだけだ。最悪のケースも想定しておかないといけないな。
「戻って寝ようかな」
私はベンチから立ち上がり、アルフィズ邸に向けてゆっくりと歩き出す。
私が出来る事といえば、今日はしっかり寝て、カナエとの戦いに備えておく事くらいだろうからね。
カナエと対峙すれば、きっと、その時に彼女の実力が判るはずだ。




