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一触即発

 


 ホテルの部屋の窓ガラスを突き破り現れたシドと対峙するミア。


 いや、こんなホテルの個室で喧嘩をおっぱじめるのは勘弁して欲しいのだけれど、私も巻き込まれてしまうじゃ無いか。


 とりあえず、割れた窓ガラスが危ないのでバレッタを使って木の壁を錬成して、塞ぐことにした。これで幾らかはマシにはなったとは思う。


 一方でシドとミアの二人はというと睨み合いながら、互いに武器を構えて臨戦態勢を整えている。



「ちょ、ちょっと二人共! ここではやめよう! ね? 大惨事になっちゃうから……」

「仕掛けてきたのはそこの馬鹿じゃねーのか? 個室にカチコミにくるなんざ馬鹿かよ」

「……今すぐに鉛玉を額にぶち込んで黙らせてやるからさ。とりあえず死んどけよお前」

「やめなってば! もうっ!」



 私は二人の仲裁に入りながら、ラデンの言葉をふと思い出す。


 確かに言っていた通りにこれはだいぶ修羅場だ。二人共ヒートアップして聞く耳を持ってくれないし。


 拳銃を構えるシドとナックルダスターのバレッタを身に付けて拳を構えているミア、本当、軍にいた時には見慣れていた光景ではあるんだけどこのタイミングでやられると参ってしまうな。



「とりあえず外で話そう? ね?」

「ほお? じゃあ外でケリつけようか変態青髪女」

「言うじゃねぇか、脳無しの赤髪ガサツ女」

「なんで煽るの……」



 私は睨み合いながら、今にも殴り合いをし始めそうな二人を見てため息を吐く。


 というか、シドに関しては毎回のように下着姿で出てくる癖にミアのことは指摘できないだろうと素直に思う。こう言ってはなんだが、私からしてみれば二人共、痴女だ。


 その後、ホテルからとりあえず外に出た私達はバイエホルンの街外れにある草原にやってきた。


 その道中はシドとミアは互いに煽り合い、口喧嘩ばかりである。


 どちらかというと似た者だから仕方ないんだけども、それをずっと聞かされている私の身にもなって欲しいものだ。



「じゃあ、さっさとやろうぜ。構えろよ」

「あぁ、上等だ! 覚悟しやがれよこのクソボケ!」

「ちょっとまっ……!」



 そして、私が静止する間もなく、武器を構えた二人はぶつかり合った。


 銃を容赦なく発砲するシドにそれを避けながら錬金術を繰り出して応戦するミア。


 赤と青、似通っているようで対照的な二人はおそらく私が原因でこうなっているんだろうけども、その私をそっちのけで激しい戦闘を繰り広げ始める。


 流石に本当に殺しはしないんだろうけども、どれだけ被害が出てしまうんだろうと考えると顔が青ざめてしまいそうだ。



「テメェ! 舐めたマネしやがって!」

「ハァ? ヤキモチかぁ? このボケ!」

「ち、ちげぇわ! 何抜かしてんだこのアホ!」



 とはいえ、銃や錬金術を盛大にぶっ放している二人がしている事といえば小学生と同レベルの喧嘩である。


 私は呆れたようにその喧嘩を静かに見守っていた。若干面倒臭くなってきたので、気持ち的にはもう帰りたいくらいである。


 だけど、多分、ここで帰ったりしたら二人とも怒るんだろうな、なかなかに癖が強い二人だから放置して帰るわけにもいかないこのジレンマはなんとも言えない。



「あっぶねっ!」

「はっはー! ざまぁ!」

「死ね!」

「うお⁉︎」



 互いに殺意満々の攻撃の応酬をしながら、余裕を見せる。


 ちなみに周りは凄まじい勢いで荒れたような地形になっていた。もし、これがさっきのホテルで勃発してたらと考えると寒気がする。


 そんなことになったらレイは卒倒ものだろうな、多分、この状況に関しても慌てるに違いない。


 ミアの錬金術を捌くように拳銃で次々と撃ち落としていくシド。



「テメェのクソ錬金術なんて食らうか!」

「なんだとこの赤猿‼︎」



 シドから放たれる銃弾を躱しながら、青筋を立てて応戦するミア。


 私は死んだ目でその二人のやりとりを遠目で見ていた。


 何というか、もう二人とも私の事なんてそっちのけなんじゃないかな。


 飛び交う二人の罵声と攻撃に私はそう思わざる得なかった。


 不思議と冷静にこの光景を見つめている自分がたまに恐ろしく感じてしまうよ。


 そこらへんの感覚が最近おかしくなってきているのかもしれないな。


 しばらく戦いを繰り広げていた二人は、互いの武器を投げ捨てると本格的な殴り合いをしはじめた。



「テメェは絶対ぶっ殺す!」

「……ってぇ。うるせぇな! あたしの勝手だろうが! お前がしゃしゃり出てくるんじゃねーよ!」

「うぐっ!」



 シドの右拳が炸裂したかと思えば、その反動を利用したミアの回し蹴りがシドの腹部に直撃する。


 私はその血みどろの戦いを冷めた目で見つめていた。あれだけ盛大に暴れて結局、殴り合いに落ち着くのか、この二人は。


 そして、取っ組み合いに夢中になっている二人を暫しの間見つめていた私はため息を吐くとこう告げる。



「じゃあ、私は先に帰ってるぞー」



 一応、声をかけては見たが、聞こえてないのか二人は殴り合いをやめようとはせず、互いに罵り合っていた。


 ここまでくると、もやは実は仲が良いのではとつい思ってしまうね。というか、もっと事を穏便に済ませられないものかな二人共。


 一部の人間には受けが良さそうな光景かもしれないが、私からしてみればいい加減やめて欲しいと思うばかりだ。


 店の様子についてはシドに後で聞くとしよう。


 その時にボロボロになって寝込んでなかったらの話だけどね、それよりも、ミアは明日試合なのにこんな事をしてて良いのかな。



「……触らぬ神に祟りなしだな、うん」



 私はとりあえず、そこから気配を消して消えるように立ち去る事にした。


 何にしても、彼女達がこれからどうなるかは明日になれば多分、分かると思う。


 できれば、二人にはあまり大怪我をせずに事を収めて欲しいけれど、あの様子じゃきっと一晩中殴りあってるかもしれない。


 私は未だに鈍い音が聞こえるシドとミアの方へ振り向いて深いため息を吐くと、二人を静止する事は完全に諦めて帰ることにした。


 時には戦略的撤退も必要な時がある。それがたまたま今だったという事だろう。


 自分の中でそう思い納得することにした。

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