相談
ミアと別れた私はラデンをサリエンツ・アレーナの外に呼び出していた。
その理由としては、やはり、ミアに恋人関係を迫られている事と妹のレナについて彼女に相談を持ちかけたいからである。
他に相談する宛も思いつかないしね、ラデンなら何かしら力になってくれるかもしれないと私はそう思っていた。
「……キネスさん、それは流石に」
「いや、わかってるんだよ」
私はラデンから視線を逸らしながら、言いづらそうにそう告げる。
自分がどんな事をラデンに相談しているのかわからないほど、私も馬鹿ではない。
ミアの条件を飲んでも、妹の命が助かる保証は無い。だけど、もし少しでも助かる可能性があるのならばその話を飲まないわけにはいかないだろう。
「まだ、他にやり方があるのでは?」
「どんなだよ、私は思いつかないぞ」
そう言いながら、ラデンにジト目を向ける私。
他に妙案があるなら是非聞かせてもらいたいものだ。私だって、あまりこんな風にして妹の身の生死を保証されるのはあまり好ましい事では無い。
私のその言葉にしばらく考え込むラデン、出来ればちょっとでも良いので良い案が思い浮かべば良いんだが。
「では、睡眠薬とかどうでしょう?」
「ミアにか?」
「そうです、睡眠薬を仕込んで試合当日に寝過ごさせてしまえば問題はないかと思うんです」
どうでしょう、と私に提案してくるラデン。
確かにラデンの言う通り、睡眠薬で眠らせてレナとの試合を不戦勝にしてしまえばレナが殺されるという可能性は間違いなくなくなる。
だが、私としてはその案にはどうにも賛成できなかった。何故ならば、ミアはそういう類の策謀についてはかなり鼻が効くからだ。
幾ら私が相手だからとはいっても警戒はしているはずである。
イージス・ハンドという称号を持っているからにはそれなりの理由があるという事だ。
「すぐに勘付かれるよ……、ああ見えてミアはかなりそういう事に関して直感が鋭いんだ」
「へぇ……そうなんですね」
「うん、そりゃ、あれだけ強ければ……ね」
私は苦笑いを浮かべながらラデンに語る。
睡眠薬程度でどうこうできるような相手なら苦労はしていないし、私だって出来ることなら身体を張ってまでしたくないと思う。
すると、ラデンは諦めたように肩を竦めると私にこう告げてきた。
「じゃあ、諦めて抱かれて来てください」
「は?」
「いや、もう無理ゲーじゃないですか、私だってあの人の側には近寄りたくないですもん」
ラデンは肩をポンと叩きながら、無慈悲に私にそう告げた。
あっさりしすぎだろうと言いたいところだが、現状、ミアに対する対策が何も思い浮かばない以上はラデンの言う通りにするしかないだろうしね。
しかしながら、まだ何か良い手が残されているような気もしないわけではないんだ。
すると、ラデンは仕方ないとばかりに私に話しをしはじめる。
「じゃあ、もう最終兵器を使うしか無いですね」
「最終兵器?」
「えぇ、……ただし、キネさん、修羅場になるのは覚悟しといた方が良いですよ」
そう言って、意味深なセリフを吐くラデン。
いや、修羅場になるほどの事とは一体なんなんだろうと素直にそう思うんだが、ラデンの表情からしてあまり良い案では無い事はなんとなく直感でわかる。
しかし、ラデンは敢えて私にその内容について語る事はしなかった。
私の身に何かよからぬ事が起きそうな気もしない事はないが、とりあえずこの一件に関してはラデンに任せていた方が良いのかもしれない。
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その日の夜、私はミアに呼ばれてドレス姿でホテルの前に来ていた。
まあ、その最後までラデンは私にミアについての事については何も話をしてはくれなかったが、仮にもラデンは帝国の諜報員。
何かしら手は打ってくれている事だろうとは思う。
果たして、どんな手を打ってくれているのかについては時間が経ってからのお楽しみではあるけどね。
「えーと……このホテルの30階だったかな」
私は指定されたホテルの客室にエレベーターを使って上がっていく。
周りを見渡すとかなり綺麗で高級なホテルである事がよくわかる。きっと、これなら客室もかなり豪勢だろうなと私は思った。
それからしばらくして、部屋の前に到着した私はしばらく深呼吸をして呼吸を整える。
普通、おかしいんだと思うんだけどね、男性が女性を呼び出すのはよくわかるんだけど、女性が女性を呼び出しているし。
しかも、中身は元男だからな、私の場合は。
意を決して私はミアが待っているであろう部屋の扉を2、3回ノックする。
すると、扉の向こうから声が聞こえてきた。
「おーきたか! 入れよ」
すぐに私だと気がついたミアはそう言って気軽な言葉遣いで私に部屋に入ってくるように促してくる。
私はその言葉に従うようにゆっくりとドアノブに手をかけて部屋の扉を押して、ゆっくりと開き、部屋の中へと足を踏み入れた。
周りを見渡すと、予想通り、高級感溢れる綺麗な部屋だった。
共和国軍直属のイージス・ハンドというだけでこれだけ高待遇を受けられるものなのか、正直、ちょっと羨ましいとは思ったが、でも私は軍人には戻りたく無いからな。
すると、部屋の奥からミアの声が聞こえてくる。
「こっちにこいよキネ」
ミアが私を呼ぶ声はなんとも柔らかな声色だった。
私は彼女のいう通りにゆっくりと部屋の奥へと足を進めていく。
そして、足を進めた私は部屋の奥で待っているミアの姿を確認する。そこで見た彼女の姿に私は思わず顔を赤くして目を見開くしか無かった。




