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なし崩し

 


 ミアからいきなり恋人になれと強要された私は目を丸くしていた。


 それはそうだろう、妹の為に自らの身体を犠牲にしてまでなんでもすると明言したにも関わらず、こればかりは予想にしてなかった事だ。



「別に断るんなら断っても良いんだぜ? なぁ、キネ」

「ひゃあっ……! ちょ、ちょっと待ってこんな所で……」



 ミアは面白そうに耳元で囁くようにそう告げると私の服に大体にも手を突っ込み、胸を鷲掴みにしてくる。


 私はそのミアの行動に思わず動揺したように変な声を上げ、顔を赤くさせた。


 そんな私に対して、笑みを浮かべながら服を弄ってくるミア。



「そもそもなんで恋人なんだ」

「あん?」

「もっと他にもあっただろう⁉︎」



 私はそう言って服を弄るミアに顔を紅潮させながらそう告げる。


 こいつ、わざと敏感なところを触ってきたりしてるな、本当になんのつもりなんだ。


 すると、ミアはゆっくりと私に何故、恋人になれという命令をしてきたのかを述べ始めた。



「そりゃあ、お前。シドの奴が怒ったところを見たいからに決まってんだろぉ? 

 ふふ、私にお前を取られたって聞いたらあいつどんな顔するだろうな」

「な、なかなかに良い性格してるね、君は……んんっ!」

「そう褒めるなよ、興奮するだろ?」



 そう言いながら、私の下半身に手を伸ばしてくるミア。


 これ以上は不味い気がする。ひとまず、こんな場所で襲われたんじゃたまったもんじゃないし、人が来たら私はきっと痴女か何かだと思われてしまう。


 私はミアの肩を掴むとグイッと身体から引き離し、顔を紅潮させ、息を切らしながらこう告げる。



「わ、わかった……。わかったから、ここではやめてくれ」

「……へぇ、じゃあなるのか?」

「レナの為だ……。背に腹は変えられないよ」



 私はミアから視線を逸らしてそう答える。


 そうだ、レナの為、ミアが私の話を飲んでくれる条件がそれならばそれを受け入れるのも致し方ないだろう。不本意だけどね。


 私の髪をそっと撫でるミアは面白そうなおもちゃを見つけたかのように私にこう告げる。



「じゃあ今晩、私の部屋にこいよ。これ、私のいるホテルと部屋の番号だ」

「えっ?」

「私の恋人なんだから当然だろぉ? もしかして、ここに来て芋ひいてる訳じゃねぇよな?」



 肩を組まれながら耳元で囁いてくるミア。


 肉食系すぎるだろ、こいつ。私を部屋に呼びつけるとかどういう神経してるんだ。


 だが、断わろうにも断れない現状、今のところ私はミアが言うことには従うしか無いだろう。


 これも、全てはレナを殺させない為に必要な事だ。どんな恥だってかいてやる覚悟はある。



「……わかったよ」

「悪いな、あーんな試合した後だと身体が火照っちまって仕方ないんだよ、まぁ、そんなに身構えんなよ、私とお前の仲じゃないか」

「はぁ、全く君という奴は」



 私はジト目をミアに向けながら呆れたようにそう呟く。


 それはともかくとして、シルフィアやラデン達にはどう説明したら良いものだろう。


 いきなり、ミアに部屋に呼びつけられたとか言っても納得しないだろうから適当な言い訳を考えておかないといけないな。


 シドの件も含めて、また、シルフィアに対して隠し事が増えてしまったような気がする。


 バレた時に彼女がなんていうだろうな、きっと私は無事では済まないだろう。



「じゃあ楽しみにしてるぜ、キネス」

「……妹の件は」

「今晩のお前次第だな、じゃあな」



 意味深な台詞を残して手を振りながら立ち去っていくシドの背中を見つめる私は大きなため息を吐く。


 私次第だなんて、まるで脅されているような気分だ。


 あまり良い気分ではない事は確かだろう、恋人に無理矢理されたとはいえ都合が良すぎる扱いには異議を唱えたいところだけどね。


 しかしながら、変にミアの機嫌を損ねるのも非常に危険だ。ここは彼女に従っておく方が無難なのかもしれないな。



「……普通ならあんな美人にそんな事を言われたら喜ぶんだろうがね」



 残念ながら、私はそうはならない、軍の時代からミアの事を知っていると尚更ね。


 シドに会ったらきっと本気の殺し合いをおっぱじめそうで本当に恐ろしい限りだ。私に向けた恋人って条件もどちらかというとシドへの当て付けだしね。


 きっと、私を奪ったという事実を作ってシドへマウントを取りたいだけなんだ。


 それに巻き込まれる私の気持ちを考えて欲しいところだが、もう今更そんな事を考えても時間の無駄である。



「私、次第と言っていたが……、後、この事はちゃんと相談した方が良いんだろうか」



 変な心配をかけたくないというのもあるが、一応、相談をしておいた方が良さそうな気がする。


 シルフィアはともかくとして、もしかしたらラデンにだけなら良い案を出してくれるかもしれない。


 何も頼らないよりはまだ多少はマシだろうしね。



「ラデンに話してみようかな……」



 なるべく、慎重に言葉を選んで話せば、きっと彼女なら私の力になってくれる。


 恋人の件は不本意だが、今のところやるしか方法はないだろうし、何にしてもミアがどう出るのかにもよる。


 私はとりあえず、この話を心の中に仕舞い、その場を離れて、ラデンにだけ教える事にした。

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