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水の脅威

 



 吹き飛ばされたミアは身体が地面に着く前に猫の様に反転させ、受け身を取るとすぐに身構える。


 そして、冷や汗を流しながら、貫かれた左肩を止血する様に押さえた。


 だが、傷は浅くなく血は止めどなく溢れてくる。


 すぐさまミアは服を引きちぎると、傷口を縛るようにして止血する。


 少しばかりミアがローエンの力量を見誤っていたのは間違いないだろう。


 だが、それにしても不意をついたローエンのミラージュという技は戦況を一変させるほどの力のある技だ。



「ちっ……。危ねぇ、身体を咄嗟に捻ってなきゃやばかったぜ」



 止血をしているミアは表情を曇らせながらそう呟く。


 自分の錬金術には自信はあるが、こればかりは素直に相手の力量を認めることも大切だ。


 警戒していた自分に手傷を負わせてくる程の実力、あまり、出し惜しみして圧倒できるほど甘い相手ではないとミアはすぐに頭を切り替えた。



「おやおや、お嬢さん。先程よりも血色が悪いように見えますが?」

「ガタガタうるせぇ奴だな、なんて事はねぇ……よっ!」



 瞬間、ミアは地面に全力で拳を叩きつける。


 すると、いきなり地面から湧き出るように出現した水が一気にローエンへと襲いかかる。


 だが、ローエンは冷静に横へと逃れると、すぐに受け身を取りミアの方へ身構えて右手に持っている拳銃を向ける。



「やはり甘いなッ! 死ね! 錬金術師!」

「どっちがだ?」



 だが、ミアに向けられた拳銃は発砲される事はなかった。


 何故ならば、先程までローエンに向かってきた大量の水がまるで意思を持ったかのように伸びてくると、小さな竜の顎に変形し、ローエンの右手に喰らいついてきたからだ。


 ローエンは自分の右手から血が出ると同時に持っていた拳銃を思わず手放してしまった。



「な、何ィィィ‼︎」

「ちいとおつむが足りてねぇんじゃねぇか? 私がただ水を出すだけの錬金術師だと思ったら大間違いだぞ」



 すぐに手を止血するローエンは表情を曇らせるとその場から咄嗟に離れる。


 ローエンの右手を封じて、遠距離の攻撃をさせなくさせたのは戦況を大きくひっくり返す事になる。


 ミアは思わず笑みを浮かべた。これならば、きっとローエンをジワジワと追い詰める事ができる。



「この小娘がッ!」



 ミラージュを使って、自分の分身を出現させたローエンはすぐにその分身達を分散させて、一気にミアに切りかかっていく。


 だが、ミアは冷静な眼差しでローエンを真っ直ぐに見据えつつ、分散しているローエンの分身体をしっかり目で捉えていた。


 水を切り裂いて突き進んで来る分身体を見たミアはすぐさま、手を地面にかざしこう呟く。



激流葬(げきりゅうそう)零式(ぜろしき)



 次の瞬間、再び地面から大量の水が溢れ出てきたかと思うと、それぞれ分散し、ローエンの分身体に襲い掛かっていく。


 それは、まるで生き物の様な水であった。的確に敵の位置を把握し、一つ一つが意思を持っているように確実に分身体を撃破していく。


 これにはローエンも思わず目を見開いた。いくら優れた錬金術師とはいえど、自分と同じくらい身のこなしが早い分身体達をこうも簡単に撃破できるわけがない。


 だが、アドルフォ・ミアという錬金術師は易々とそれをやってのける。



「知ってるか? ローエン。

 水の災害というのはな、大量に人を殺すんだぜ? もし、それ自体に意思を持たせたらどうなるのか、お前でもわかるだろ」

「ぐっ……」

「いくら人間が増えようが自然の力を前にして勝てるわけがねーって事さ」



 ミアは止血した腕の調子を確かめる様に回しながら笑みを浮かべ、ローエンにそう告げた。


 ミアが錬金術を伸び伸びと使い、先程までローエンが有利だった形成が一気に逆転した。


 周りの観客達もこの状況に思わず動揺した様な声を上げる。



「ミラージュって技は確かに強力だがな。

 右手と銃を失った今、遠距離が無い以上、お前に残されてんのは近距離だけだ」

「そんなものはッ!」

「勝ちに繋がらない……と、本当にそう思っているのか? 悪いがそこから私との間合いを詰めて近距離に持っていけると思わない事だな、私の錬金術はお前が近寄ってくるルートを全方位カバーできるんだぞ?」



 そう言って、不敵な笑みを浮かべるミア。


 これが、ミアの錬金術だからこそできる芸当、水の錬金術による敵への牽制だ。


 迂闊に間合いを詰めようとすればあっという間にミアが発動する水の錬金術の餌食になる。


 ミアには既にローエンに勝つための道標というものが見えていた。



「ふん、それならば水を切り裂いて貴殿を切り刻めば済む話よ」

「へぇ、できるのかい? アンタに」

「やれない事は無い、舐めるなよ」



 笑みを浮かべるローエンはそう言って剣を構える。


 同じようにミアはバレッタを装着した拳をゆっくりと構えた。そして互いに睨み合う様な形でジッとその時を待つ。


 ミアもローエンの力量を侮っている訳では無い、最悪のケースを常に想定し、どうやって立ち回るかを常に頭をフル回転させて考えている。


 観客席に座る客達もその時が来るのを静かに見守っていた。


 もしかすると、次のやり取りでこの試合の決着がつくかもしれない。


 そんな予感が会場中に漂っていたからだ。


 そして、しばらく両者が見つめ合ったのち、遂にその時がやってくる。



「行くぞッ‼︎」

「へっ……!」



 一直線にミアへと駆けるローエンは一気に分身を出現させる。


 そして、ミアもその瞬間、地面に向けて再び錬金術を容赦なく発動させた。


 果たして、勝負の行方はどちらに傾くのか。


 私達は二人の戦いを静かに見つめながら、その時が来るのを待つだけであった。

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