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仮面の素顔

 




 キメラの攻撃を読みながら、細かく攻撃を仕掛けているマルタ。


 そして、彼女はさっきと戦法を変えて出来るだけ距離感を離してキメラに攻撃を仕掛けている。


 賢い選択だ、私でもそうするし、あの素早さを警戒するなら尚更距離を離して攻撃をした方が安全だろう。


 マルタとて、キメラの攻撃に晒されて身体が無事というわけではない、それなりにダメージは蓄積されている。



「ぐ……!」



 マルタの足がガクリッと落ちる。腹部を押さえているのを見る限り、先程、壁に叩きつけられた際に肋の骨でも折れたのだろうか。


 だが、キメラはそんな隙を見逃すほど甘くはない。


 瞬時に加速すると、思い切りよく腕を振り下ろしマルタに襲い掛かる。


 マルタはすかさず突風を発生させ、横へと逃れるがキメラは執念深くそれを追撃しはじめる。


 その光景を見ていたリニアは笑い声を上げながら、その場にいる共和国の政治家や帝国の貴族達に向けて話をし始めた。



「どうです、我が社で作り上げた最高傑作は? 素晴らしいでしょう?

 エンパイア・アンセムでさえ、苦戦するほどの戦闘力を誇るキメラを我が社なら量産できます。もし、制御が可能となった軍用キメラならば、配備するだけでかなりの軍力アップが見込めると思いませんか?」



 誇らしげにそう語るリニアの言葉に周りの者たちは納得したように頷いていた。


 確かに、あれだけの戦闘能力が備わっているキメラさえいれば、自軍の兵士の犠牲者を減らす事は可能であるし、何より強力な戦力になり得る。


 ただ、不安要素としては制御がまだ完全にはできていない事だろう。それさえ克服できれば、あのキメラは主力としても活躍が期待できる程の兵器だ。



「ハァ……ハァ……。いやぁ、本当に手強いなこいつ」

「グルルル」



 牙を見せながら威嚇してくるキメラに顔を引きつりながら苦笑いを浮かべるマルタ。


 呼吸が上がってきている。錬金術での遠距離からの攻撃もキメラの素早い動きに躱されて、上手いようにダメージを与えられていない。


 こうなると、消耗戦となってしまう、やはり、リスクはあるがここは接近戦を仕掛けるほかないだろう。


 問題はどのタイミングで仕掛けるかというところだが。



「……よし……。一か八か、覚悟を決めるか」



 冷や汗を流すマルタは真っ直ぐキメラを見据える。


 おそらく、勝負をつける算段を考えているのだろう、だが、キメラもそれを黙って見ているほど優しくはない。


 すぐに間合いを詰めて凶悪な爪を振り上げ、マルタに襲いかかる。



「ガァァ‼︎」

「はっ!」



 だが、マルタはその攻撃を易々と躱すと一気にキメラの懐に入った。


 これは上手い、これなら至近距離から錬金術をぶつけれる筈だ。しかし、キメラはすぐに身体を反転させるとマルタに向かい鋭い回し蹴りをお見舞いする。



「ぐはっ‼︎」

「グルァァ!」



 そして、吹き飛んだマルタに向けて一気に駆け、鋭く鋭利な顎を大きく開く。


 あんな鋭い牙に噛み付かれればひとたまりもない、だが、吹き飛ばされたマルタは笑みを浮かべていた。


 動きの速さでは完全にマルタよりもキメラの方が上回っている。ならば、間合いを詰めて確実に接近戦で攻撃を当てるにはどうすれば良いか。


 マルタは身体をそのまま空中で回転させて、キメラに向かって足を大きく振り上げる。



「……鉄槌の竜巻落とし!ハンマーズ・サイクロン



 振り下ろされた踵がカウンターの様にキメラの頭部に直撃する。


 マルタから繰り出された踵落としが直撃したキメラは、そのまま顔面を地面に叩きつけられる。


 それと同時に凄まじい量の風圧の渦が一気に地面にめり込んだキメラの頭部に襲いかかった。


 引きちぎれる様な音と共に会場には突風が吹き荒れる。


 キメラは頭を中心に身体中に鋭い刃物で切り刻まれたような傷がいくつも刻み込まれていった。



「……ハァ……ハァ……。う、上手く行った……」



 息を切らしながら、地面に倒れるキメラを見ながら呟くマルタ。


 彼女が身につけていた仮面はヒビが入り、パリンッと音を立て欠けて半分になる。


 素顔が半分、あらわになったマルタは残り半分となった自分の仮面を鬱陶しいとばかりにその場に投げ捨てた。


 素顔が明らかになるマルタ。そして、その顔を見た私達は思わず目を疑った。



「ねぇ……! あれって⁉︎」

「き、キネスさん! あれ? 似てませんかあの娘‼︎」



 そう、その顔は私の顔に非常に似通っていたのである。


 私と似通った顔、そして、あの娘の面影はどこかで一度見たことがある。


 その記憶は定かではないが、間違いなくあの娘の顔を私は知っていた。それは、最近の記憶ではなく、きっとずっと前からだ。


 そして、私の頭の中でその記憶が湧き上がるように蘇ってきた。



「……レナ……」

「えっ?」

「キネ、知ってるの? あの娘のこと」



 そう、それは戦火によって引き裂かれた、私の家族の一人。


 私はようやくそこで、エンポリオ・マルタが何者であるのかということを理解した。


 あれは紛れもなくそうだ、私の知っている面影であの場に立つ女の子、なぜ、彼女がエンパイア・アンセムになっているのかはわからないがあの娘は私にとって大切な人間であるのは事実だった。


 私はその女の子の正体について、ゆっくりと二人に話をしはじめる。



「あの娘は私の……。妹だ」



 その言葉を聞いた二人は思わず目を見開いた。


 巧みに錬金術を使い、キメラを見事に倒して見せた女の子は傷つきながらも、観客達に向かって手を振って応えている。


 私も目を疑ったが、あの面影は間違い無いだろう。


 どうして、エンポリオ・マルタと名乗っているのかはわからない。


 だが、生き別れた妹かもしれないとわかった私は、思わず観客席から立ち上がると出口へと駆ける。



「ちょっと! キネ!」

「キネスさん!」



 私を二人は慌てて呼び止めるが気がつけば、私は自然と身体が動いてしまっていた。


 それは感情が先走ってしまった行動だったかもしれない、だけど、私は彼女に話したい事がたくさんあった。


 あのパーティー会場では気付く事はできなかったが、その正体が分かった今、私は彼女にその事を伝えたい。


 出口から出た私は彼女と対面すべく、その足に力を込めた。


 会場では、再起不能になったキメラを見て、アナウンスが試合結果を高々と叫ぶ。



「勝者! ウェポンズ・キメラの再起不能により、クライス・アルフィズ様の代理人、エンポリオ・マルタ!」



 その瞬間、会場全体からは盛り上がるように声が上がる。


 サクセサー・デュエル二回戦。


 リニア・アルフィズの代理人、キメラはエンポリオ・マルタの踵落としから繰り出された錬金術によって倒され、敗退となった。


 勝者となったエンポリオ・マルタは盛り上がる会場とは裏腹に仮面を脱ぎ捨てたまま、冷めた表情で静かに踵を会場を後に立ち去っていった。

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